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君を守るのは僕がいい
しおりを挟む「ねぇ聞いた?王太子殿下、すっかりフレイア様に夢中なんですって」
「悔しいけれど、フレイヤ様なら負けるわ」
「……」
(顔が死んでいるわ)
「あの……フレイヤ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。コウエイナコトヨネ」
「無理しないでいいわよ」
「ありがとう、本音を言えば王都ごと爆破したい」
「大丈夫って言った私が馬鹿だったわ」
親友のフレイヤとは今日も仲良くお茶する為に、新しく出来た貴族御用達のカフェに行こうと馬車を降りて街を歩いていた。
無遠慮に聞こえるフレイヤと王太子の噂に頬を染めるどころか表情筋を全てお休みにしてしまった親友は元々あまり男性や恋愛に興味がない。
だからこそ、嫌がっているというよりは、自分のキャパシティを上回ってものすごい速さで出来上がって行く王太子とフレイヤのロマンスに混乱していると言っていいだろう。
そう見せないのはフレイヤなりのプライドなのか、彼女は心が傾きさえしなければ永遠に難攻不落の美女として生きるだろう。
それほどまでに、男とはフレイヤにとって必要性の分からないものなのだ。
寧ろプライドを全て投げ捨てて盲目的にフレイヤを追いかけてくれる、ルディウス殿下に親友として感謝したいと思う。
(ちょっと変人だけれど、ほんっといい男よね殿下は)
噂とは関係なく私たちに向けられる視線にはもうすっかりと慣れた。
フレイヤもそのようで相変わらず飄々とした様子で歩いている
「危ないっ!!!!」
途端にかけられた大きな声の方向を見ると、道路にガタンと傾く馬車と勢いよく外れて飛んできている車輪。
このままでは私もフレイヤも馬車の車輪に衝突されてしまう。もう間に合わないと思ったその時、背後から聞こえる「フレイヤ!」というよく通る声。
(ルディウス殿下!?)
「ティリーごめんね」
そう言ったフレイヤに突き飛ばされて、身を挺して守ろうと飛び出たルディウスと衝突して受け止められ、彼ごと尻もちを着くことになった。
「それじゃあフレイヤが!!」
「フレイヤ!!」
顔面蒼白、ルディウスのこんな表情を誰も見たことがないだろう。
(いや、なんで居たの?今は聞かないけど)
私を守る為に突き飛ばしたついでに身を挺して守るつもりだったルディウスも守ったのだろう優しい親友に溢れた涙で視界が歪んだ。
(神様!どうかフレイヤを助けてっ!)
飛び込もうとするルディウスの身体がピタリと止まる。
彼の背中で見えないが、フレイヤは怪我をしてしまった?どうしよう、抜けた腰の所為で立てない自分が恨めしい。
てゆーか見えない、殿下。
きっとあんな大きな車輪が当たれば、少しの怪我では済まないはず。
なのに街の人たちもルディウスもまるで呆けた表情。
早く、フレイヤを助けに行かないと……
「……え?」
ドレスで分かり辛いが、フレイヤの長い足が片方伸ばされて地面にちょんとついた真っ白な手の指先。
美しいフォルムで伏せられた彼女の真上を飛んでいく車輪。
(((えぇーー!?めっちゃ格好いい!?!?)))
彼女の立ち上がる髪が美しく舞ってからストンと重力に従って纏まる。
サラリと髪を揺らして恥じらいの表情で振り返るフレイヤが真っ先に発するのはやはりティリアの名だった。
「ティリー、ごめんなさい……怪我は無かった?」
「いや、避けるんかい」
「え?」
「避けられるなら、そう言いなさいよ。心配した!」
「ふふ、私も急いでて……ルディ様」
「無事で良かった……どうした?」
「ティリーを受け止めてくれてありがとう」
安心したように、嬉しそうに笑ったフレイヤがあまりにも可愛くてただ頷いたルディウスはそのまま悔しそうな表情で顔を上げない。
「ルディ様?」
「守るつもりが、守られてしまった。不甲斐ないよ」
そう言ったルディウス殿下を抱きしめて、慰めでやりたいと思った女性はこの街に沢山居るだろう。
(だって凄い可愛い、美青年)
その証拠に何人もの令嬢が胸を押さえて切ない表情をしている。
「そんな事ないわ、来てくれて嬉しかったです」なんて言葉がフレイヤから出れば完璧なのだが、
「鍛えていますので」と恥じらいながら言ったフレイヤ。
(いや、分かってあげようよ)
「それで、なんで居るんですか?」
「え?」
「ルディ様、何処から湧いて出ました?」
「それは私も思った」
ポカンとしてから、笑い出したルディウス殿下にドン引きしているフレイヤを軽く諌めてから「殿下、大丈夫ですか?」と声をかければ、何故立ち直ったのかキラキラした表情でフレイヤを抱きしめる。
「会いたかったから、来たんだ」
「付けていたんですね」
「……」
(尾行かい)
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