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狂気こそ魅力そのもの

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「で……何であんた達は付いてくるの?」


それに笑ったのはクロノスで、そんな事を女性に言われたのは初めてだときょとんとした顔をしたフリードリヒ。ダンスに誘いにきただけで他意は無いのだと顔を赤くして慌てて弁明するレイナード。


と三者三様の反応を見せた三人に相変わらず理解不能だという表情のままのアテの手を優しく握り直してクロノスが説明する。


「ふっはは……アテ、皆ただダンスの申し込みに来たんだよ」

「外交なら私よりシャーロットをお勧めするわ、普段私にダンスを申し込む人は居ないの」


「「……」」


「大抵私と寝たいって思ってる人以外は」


そう言ってやれやれと戯けて肩をすくめ眉を顰めたアテだが、今の言葉だげでこの国での扱いがよく分かる。フリードリヒとレイナードがずっと感じている違和感は勘違いでは無いのだと確信させられた。


通常なら王女に対してあけすけに無礼な態度でダンスを申し込むなどありえないだろう。けれどこの国ではそれが当たり前になっている。

これほど素晴らしい王女をどうやったら此処まで軽視できるのかと二人は他国の事ながらアテの不当な扱いに怒りを感じていた。



「そんな無礼な者がいるのか?」

「全く、考えられないな」

「レイナードとフリードも同じ意見で安心したよ」


「ふふ、大丈夫よ。そんな奴は懲らしめてやるから」



「懲らしめる?」

そう言って首を傾げたフリードとそれでも心配そうなレイナードにアテとクロノスは顔を見合わせて笑った。

「仲が良いようだね」

「ええ。で、見てみる?」


シャーロットの仕業だと気付いているのはクロノスくらいだろうが、彼女にけしかけられたのだろう子息達が此方に向かって来る。


五感の優れているレイナードにはしっかり聞こえる子息達の会話。

「誰がアテ王女を落とせると思う?」

「相当な男好きらしいぞ」

「なら、薬を使ってみんなで王女を……」

「シャーロット様がアテ様は寂しがり屋だって!」

「誰の子が出来るか楽しみだな!」

レイナードはそんな下卑た言葉を聞いて慌ててアテを守ろうと彼女を背に隠すと、何かに勘付いたフリードリヒも同じように男達に向かい合った。


先程の会話から薬の入っているだろうシャンパンを持って近づいて来る子息を視線で指して「あれ」と笑ったアテが何を考えているか予想しながらもクロノスもまた心配そうに彼女の腰を強く抱いた。



「アテ、無茶をしないでくれ」

「大丈夫、きっと面白い顔するわよ」

「「……」」

睨みつけるように冷ややかな目をするレイナード達に若干怯みながらもとうとう目の前にやって来た子息。

威圧するフリードリヒとレイナードの肩をぽんぽんと緩く叩いて、アテは緩く微笑んだままシャンパンを持った子息と視線を合わせた。



「なに?」

彼女が公の場で礼を尽くさない時は、相手の対応を真似ているのだと気付いていないのか、安堵したように子息はニヤリと笑った。


「あ……アテ王女、よかったら私と話しませんか?」


「それってシャンパン?」


(ラッキー王女から受け取ってくれそうだ)

「ええ!貴女に取ってきました!」


「そ、じゃあ頂くわ」



飄々とするアテにレイナードが「待て!」と声をかけたものの彼女はおそらくいかがわしい薬の入っているだろうシャンパンを一気に飲み干してしまった。


「アテ!大丈夫か!?」

「……ん、これは媚薬と睡眠薬を混ぜたものね?」



「そんな訳ありません!ただのシャンパンです」

「ほんとに?」

「……具合が悪いのですか?休憩室までご案内しましょうか?」

「ここは王宮なのに?貴方が私を案内するの?」

「ーっ、アテ王女は本宮の事はあまり知らないと仰っていたので」

「誰かにそう聞いたってこと?」

「違っ……!」



視線を彷徨わせながらも、仲間に視線を送り緩む口元を我慢するその子息に今にも掴み掛かりそうなクロノス達三人をクスクス笑って、

「見てて」と囁くと空っぽのグラスを逆さ向けて、一滴の水滴から水を使った魔法で子息を締め殺さんばかりの力で締め上げた。


「こんなのは、死ぬほど盛られた」



「ーっひ、誤解です!」



「効かないし、例え効いても誰も成功したことないの」



「「「!!」」」


まるで慣れた様子に胸がずしりと重く軋む。

どのように暮らせば王宮でこんな事に慣れてしまうのか。

けれどアテは同情などすれば怒ってしまうのだろだろう。



(妹君と違ってな)

フリードリヒはふいに会場のほぼ真ん中で令嬢達に囲まれて同情の言葉を集めるシャーロットを見た。


「まぁ、シャーロット様お可哀想に!」

「アテ王女ったらどうやって取り入ったのかしら!?」

「いいの皆、私がお姉様に誤解させたんだわ……私はお姉様の味方なのに」


「お優しい」「意地らしい」「愛らしい」と言う言葉に優越感を感じるにはまた足りない。

そこに丁度取り巻きの令嬢が婚約者と共にやってきて「大丈夫ですか、シャーロット様」と覗き込んだ。

(へぇ……素朴だけど可愛い男じゃない)

つまらないし、少し揶揄ってやろうと令嬢に返事をする素振りを見せながら婚約者のモンデルに微笑みかけた。

「まぁ、美男子好きのイーナ様にぴったりの可愛い婚約者様ね」

「え……」

「イーナ、美男子好きって?」

「そ、そんなこと冗談ですよね?シャーロット様」

「ごめんなさい、つい……」


腹いせに取り巻きの一人を蹴落とす場面を見て、シャーロットの牙が身内に向いたことに怖がる令嬢達。


婚約者に対して誤解だと説明しながらも腹の中でシャーロットに怒るイーナ。

「そんな事ないんじゃない?その子よく見るけど私の悪口か婚約者の話しかしない頭の悪そうな子でしょ」


「あ、アテ王女……それは本当ですか?」


「ええ、他のことも話せるのねイーナ」


「シャーロット様が嘘を言っているとでも!?」と食ってかかる令嬢達にアテはため息をついた。

「調子の良い子って信用できないの」


「お、お姉様ったらだから誤解されるのよ……?私だってそんなつもりじゃ……」

「そんな事些細な事よ、だって私礼儀は払ってるでしょ。アンタ達は皆無礼だけどその子友達じゃないの?」


場が凍りつく。

けれどイーナだけは不思議とアテを真っ直ぐに見つめていた。

それはまるで恋焦がれるような熱い視線だった。



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