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幸せな日々?地獄の日々?
しおりを挟むクロノスはまだ二日目だというにも関わらずげっそりしている。
それにはきちんと理由があって、ひとつはアテの装いであった。
普段から風変わりなドレスの彼女だが、部屋着は誰も訪ねてこない事を前提としたラフなものが多く、彼女の美しい肢体を隠すに少なすぎる上質な布はクロノスの視界を刺激するのだ。
(アテ…頼むからあまり刺激しないでくれ。)
そう思うものの、先刻の会話を思い出してため息をついた。
"アテ、僕も男なんだ"
"ええ。逆に私が男に見える?"
"いや、そうじゃなくって…"
"変なの"
"目のやり場に困るよ"
"ごめん、不快だったかしら新しいのを仕立てるわ…"
"いや、全く不快ではない!君は美しいし、嬉しいが…"
"なら、問題無いわ。"
その後の会話を思い出して赤面するクロノスを突然覗き込んだのはドアップのアテであった。
「….わっ!!アテ!」
「クロ、どうしたの?りんごみたいよ。」
「い、いや…って!アテ!上着を着てくれ!」
アテは市井で職人が着るような袖のないタイトなノースリーブ姿に女性には珍しいパンツスタイルだが、丈の短いそれに長い太ももまである靴下がまた何ともいえない甘い色気を醸し出していた。
「分かった。これ暑くって…」
そう言って柔らかそうな丈の長いガウンを羽織ったアテは顔を顰めたが、クロノスはほっとしたように短く息を吐いた。
「ねえ、クロ。もう寝る?」
「いや、ちょうど散歩でもしようかと思っていた所だよ。」
「!じゃあ丁度いいわ!来て!」
そう言って部屋に連れて行かれるとテーブルの上に並んだグラスに注がれたお酒と野菜やチーズなどの軽食。
「今日は悪いコトするのはどう?」
「…っふ!なんだそれ、」
「…!私クロが笑うと嬉しいわ。」
「…あ、ありがとう。ほら!悪いコトするんだろ?」
「ええ!一晩中カードゲームして、語り合うのよ!」
そう言って意気込んだ3時間後にはもう二人とも見事な酔っ払いになっていた。
身の上話に涙したり、意地悪を言い合って戯れたり、カードゲームをして罰ゲームにお酒を飲んだり…沢山の話をして、沢山笑った。
「うう…頭がいたいわ。」
「ああ、僕もだ…」
「じゃあ、もう寝ましょう。」
「え"!このまま?」
「ベッドの上なら平気よ、散らかってない…。」
そう言ってクロノスの袖を掴んでベッドに引きづり込んだアテに驚いて酔いが冷めたクロノスは自らの忍耐力を試される事となった。
「アテ、男性をベッドに入れてはだめだ。」
「いいの、クロだから。」
「そんな事を言うと期待するだろ…って寝てる…。」
クロノスに絡みつくように眠るアテだったが、幸せだが地獄のような夜を過ごすクロノスだった。
ふと、瞳を閉じるとやっぱり思い出すアテの言葉。
"不思議とクロにだけは見られたって触れられたっていいって思っちゃう。唯一の友達だからかしら?"
「ん、クロ…帰んないで。」
「!!」
寝息をたてるアテに寝言かと、がっかりしたがそっとアテの髪をよけてやり眠る頬に口付けした。
「こんなの、期待するなと言われるほうが難しいよ…」
「僕は本気になったからね、アテ。」
アテを優しく抱きしめて眠るクロノスが、翌朝何故か下着姿で眠っているアテに絶叫するのはまた少し後の話…。
使用人達の噂話を当人達は全く知らないのであった。
「アテ様、どんな人も全員手酷く追い返すのにえらくお気に入りだね。」
「きっと初恋なのよ。」
「きゃあ!素敵ね!クロノス王太子様ならきっと幸せよ!」
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