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手に入らないなんて絶対に……

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「リヒト様!お待ちしておりました!」


「リヒト……」


貧血だろうか、青白い顔で弱々しくリヒトを呼んだメリーの手首にはぐるぐるに包帯が巻かれている。



傷が浅かったのか、意識が戻っている様子のメリーを見下ろすとビクリと怯えたように慌てて謝る。


「ごめんなさいっ!」


「何故、こんな事をした」


「あぁリヒト……メリーを責めてあげないで頂戴っ」

「そうだ。君の為に心を痛めてした事なんだぞ!」



「俺の為に……?」



「お母様、お父様……やめて!私が悪いのよ……」



「メリー、もし俺の所為だというのならもう二度とするな」


「なんて勝手な人なの!?私の気持ちをずっと知らんぷりしておいて、ご両親のお気持ちまで無視して私を捨てる貴方が私を心配するの!?」



「それは……っ」



「リヒト……」

「娘の気持ちも考えてやってくれ」




「……俺は、メリーと結婚する事はできません」



「「……」」


「そうよね……もう全部終わりにするわ。もう帰って」


「幼馴染として、家族のように大切に思っている」


「……そんなの要らない」


「とにかく無事で良かった。今日は失礼する……また来る」


「!!」


「じゃあ」


「リヒトっ……好きなの。愛してる、だから捨てないで」



いつも元気で明るいメリーの初めてみる弱々しくボロボロになった姿に胸が痛んだ。

今までメリーの気持ちに気付いていた訳ではなかったが、近頃のメリーから間接的に伝えられていたのでそれで気付いていた矢先だった。


だからといってシエラを愛しているリヒトがメリーを愛せる訳がなく、ただ突き放すことしか出来ないでいた。


(それがメリーを傷つけていたのか……)


メリーの手首を思い出して後味が悪くなった。
謂れのないものだとしても、自分の所為で傷モノになったメリーの未来を考えるとひどい罪悪感に苛まれた。


どこで間違えたのか?

両親の真意こそ今となっては分からないが、リヒトがメリーに女性として接したことは一度たりともなかった筈だ。



なのにどうして皆は二人を許嫁だというのか。
妙な違和感すら感じたが、大切なあまり誤解させるような振る舞いが自分にもあったのだろうか……と答えの出ない自問自答を途中でやめた。



「リヒト様、馬車が準備出来ました」


「ああ、急いで戻ろう」


馬車に乗ってからハッとする。

シエラを待たせたまま飛び出てきたのだと思い出して、全身が冷えた。

幼馴染の命が懸っていたとはいえ、何も弁明せずに飛び出したのだ。




(俺から誘ったというのに、無礼極まりない……)



「まだ居るだろうか……」

「分かりかねますが……急いで戻らせます」

「頼む」



そういえば、一度ではない。


婚約者といいながら、メリーによって二人の時間がぶち壊されることは多々あるのだ。


その度にシエラはリヒトに期待していないような振る舞いで、メリーを咎める事はしなかったがこれでは、リヒトに当たり前じゃないかと、自分のメリーへの甘さを反省した。



メリーとシエラ、双方への罪悪感がリヒトを苦しめた。

幼い頃から仲良くしてきたメリーは家族同然で、実際にリヒトの両親もまた彼女をとても可愛がっていた。

それ故に、妹のようなメリーはリヒトにとってずっと庇護するべき存在だった。何も考えずとも、ただ癖のようなものでメリーのことをずっと守ってきた。


メリー自身、そうする事が当たり前かのように振る舞ったしわがままな妹を持ったような気分だった。


シエラを愛してしまうまでは……


(なぜ、こうも拗れる……)


全てがメリーの意図的なものであるということは、リヒト自身気がついていなかった。

シエラを愛してから、ではなくずっとメリーがシエラが性悪に見えるように弱者の立場を利用して、シエラの評判を貶めてきたことにも……



「着きました」

「ああ」



「おかえりなさいませリヒト様」



「シエラ皇女は?」



「……お帰りになられました」



「そうか……分かった」


脱力したように、髪を崩して深くため息をついたリヒトの表情からは焦燥感が滲み出ていたがそれを表にする事も気にならなかった。



レターセットとペンを持ってこさせると、何やら集中した様子で丁寧に手紙を書くとそれを侍従の持つトレイに乗せた。



「これを朝一でシエラ皇女の元へ」


「御意」





その頃、メリーの実家である伯爵家では……


「お父様も、お母様も出てって!お願い!一人にして……」



「「……」」


訴えかけるように叫んだ娘を案じて悲しそうな表情をした二人は顔を見合わせて頷き合って部屋を出た。




「ヒラリア!ヒラリアは居るの?」


「はい、メリー様」



「傷が浅い事、お父様とお母様にも悟られてはダメよ。誰にも会いたくないと医者は全て断って頂戴」



「分かりました。ですがこんなことを……」


「大丈夫よ。リヒトは今もの珍しい皇女様の様子に惑わされているのよ。多少強引にでも私がいる事を思い出させて上げなきゃ」




「メリー様……わかりました」


「じゃなきゃ、私の今までの時間や、想いは何だったの!?」


(それに相手の身分を問わずに散々大きい顔をしてきたり、皇女に虐められたと捏造したりしても皆が味方したのは。もしリヒトに選ばれなかったら私は今までしてきた事を問われかねない……)




「それじゃ困るのよ、手に入らないなんて全部」


(出会った幼い頃からずっとリヒトは私のもの)


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