上 下
44 / 69

唯一の家族への愛情

しおりを挟む

ブノエルン伯爵の待つ部屋へと急いだシエラとジェレミア、そしてリヒトは其々のこれからを考えているのだろう言葉少なだった。



(姉様と僕が居れば充分やっていける。後は貴族達の支持だけ……)




(ジェレミーへの支持はこの数ヶ月で充分集めた。後は見極めるだけ…‥.私の退路も資金も順調に進んでいるわ)




(殿下自身はともかく、国を想う志は確かに皇帝に相応しいと思えるものだ。シエラ皇女との事を差引いてもジェレミア殿下には充分支持する価値があるだろう)





ジェレミアは幼い頃から皇帝になるべくして育った上に、彼なりに生まれ育った国を想う心と、理想があった。



それでも、遊び人でいつ何処かから隠し子が出てきてもおかしくないような父が皇帝であるが為に、自分の足元を支える皇后の力に嫌悪しながらも抗えぬ自分の不甲斐なさとで葛藤していたが、



近頃のシエラの積極的な行動や、皇后の命令ではない自立した策によりようやく理想に近づけている気がした。


ただ、と言った所か、自分でも制御しきれないシエラへの想いは時たま夢で見た自分と現実の自分が重なりあってしまう程、まるで皇帝のように狂気的で、怖くなる時もある。


(僕は父上とは違う。きっと姉様を僕が……一生幸せにするんだ)



手放す気など更々ないし、傷つけないように慎重に自分の心の奥底から湧き出てくる欲望と戦っていた。




一方、リヒトもまた自らの思考を巡らせていた。


シエラへの執着をリヒトの前では隠さないどころか、抑えきれていないと言うような様子のジェレミアとずっと相容れないと思っていたが、


シエラを通して何度も、何度も話すうちに国の未来を想う彼の気持ちを知った。それについての理想も全てとは言わないがほとんどリヒトや幾つかの貴族達が望む国のあるべき姿で、


父、母である両陛下に抗おうとする姿は健気にも見えた。


そして……皇帝の過去を知る数少ないマッケンゼン公爵である自分には分かる、父親に似まいとシエラへの気持ちのコントロールに必死で努めているジェレミアをどうしても嫌いにはなれなかった。


ましてや、血は繋がっていないとはいえ二人にはちゃんとしたと信頼関係が見えるのだ。


シエラとジェレミアの持つ感情は違えど、二人が唯一の家族として過酷な皇宮の環境でたった二人で手を取り合ってきた事実は確かだった。


それに気づいてしまえば、ジェレミアは女性としてシエラを見ている面もありながら、行き過ぎたシスコンでもあるのではないか?

たった一人しか家族が居ないのだからそれを必死に誰にも奪われまいとするのは当たり前にも感じて、憎めなくなった。



(むしろ、貴方が好きにさえ感じるよジェレミア殿下)



自分にとって、両親の遺したマッケンゼンと二人が愛した幼馴染しか守るものが無かったようにジェレミアとってはシエラがそうなのだ。



(俺も、殿下のように真っ直ぐにただシエラ皇女だけを護る事ができたら、シエラ皇女は俺を選んでくれるのだろうか)



両親の想いと、自分の気持ちに揺れる自分の優柔不断さに途端に嫌気がさして、目前の会議に集中しようと考えるのをやめた。




(二人とも、やけに静かね。……まぁ助かるけれど)


一度目の人生で、自分を殺したのがジェレミアだった事に深く傷ついた理由が今回の人生で解った。


血の繋がらない両親に、自分を嫌う婚約者、敵ばかりの社交会、そしてどうする事もできない弱い自分。


そんな自分に、歪とはいえ執着を向けるジェレミアはやはりたった一人の家族だった。


(最後は皇后を選んだけれど……ジェレミーは皇帝になるべくして育てられたのだもの。今考えるとそうなっても自然だったのよね)



それほどまでに、シエラには地位も権力も皇女としての信頼も無かった。


壊れていく弟の影で、彼の為だと言い訳をしてただ誰にも逆らえないだけの自分を正当化したかっただけなのかもしれない。



(そんな姉では、貴方を皇帝には出来なかった)




けれども、今は違う。


(私は自由になる、けれど……姉として貴方の野望を叶えてあげたい)



間違えたとは言え、ひとりぼっちの狭い世界で唯一自分を求めてくれた弟だからだった。


(血の繋がりはなくても、歪でも、姉弟なのよジェレミー)



彼は変わり始めている。


シエラ自身もだ。



もうお互いに一人じゃないし、二人ぼっちでもない。




「……今度きっと、幸福な最期よね」



「姉様、何かいった?」


「すまない、俺も聞き取れなかった」




「いえ、ただ緊張すると言っただけよ」






「「ああ、大丈夫……」」


「ちょっと、僕とかぶらないでくれる?」


「……申し訳ありません、殿下」




(仲がいいのかしら、悪いのかしら?)





「そういえば姉様……ウェヌスが好きだよね?」


「……ええ」


「今や小規模ながらも、上質なダイヤモンドと前衛的なデザインで世界中が知る店だ。情報屋なんかも裏ではやってるらしい」


「そう」


「姉様が好きなら、そろそろ僕が買い取る価値があると思うんだ。クレマンのダイヤモンドもウェヌスと取引してるよね?」



「いえ……、責任が増えるのは困るの。今でさえ忙しいのに……それに、私の楽しみが減るわ」




「そう?なら、いいんだけれど。欲しくなったらいつでも贈るよ」



「……それなら俺にもできます」



に大金を払わせると、姉様に悪女の汚名がつくだろう?」


「殿下、



「今はね」


「……二人ともいい加減にして、着いたわ」








しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

悪女は婚約解消を狙う

基本二度寝
恋愛
「ビリョーク様」 「ララージャ、会いたかった」 侯爵家の子息は、婚約者令嬢ではない少女との距離が近かった。 婚約者に会いに来ているはずのビリョークは、婚約者の屋敷に隠されている少女ララージャと過ごし、当の婚約者ヒルデの顔を見ぬまま帰ることはよくあった。 「ララージャ…婚約者を君に変更してもらうように、当主に話そうと思う」 ララージャは目を輝かせていた。 「ヒルデと、婚約解消を?そして、私と…?」 ビリョークはララージャを抱きしめて、力強く頷いた。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...