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俺のなんだけど
しおりを挟む「お嬢、おめでとうございます」
「愛慈、やったとだなァ」
家の中のあちこちから聞こえるそんな声に嫌でも気付く。
思わず口から出たのは無意識にだった。
「天音は、愛慈と恋人になったの?」
「へっ?」
「……」
軽く目を見開いただけの愛慈の表情を見るからに、分かり辛いがもしかしたら気でも遣っているのかと思い、妙にこそばゆくなった。
それでも顔をりんごみたいに赤くした天音の反応を見て確信する。
極力表情を崩さないように努めるが、心臓はバクバクと音を立てている。
「そっかそっか」
努めて普通にそう言って頭を撫でてやれば、子供の時と同じようにホッとした表情でじっとしている天音はやっぱり中身は変わってないなぁと感じて、やっぱり諦めきれないと悟った。
いつだって特別だった。
女の子にはよくモテたし、成績だって良かったし運動だって出来た。
友達と言えるかは分からないけど周りにはいつも人が居た。
母親がアメリカに帰ると出てってからはずっと父親と二人だった。
父親と理人さんは友達で、良く仕事の話や昔話を肴にして呑んでた。
片親だけど金持ちな親、恵まれた容姿、格好いい父親、才能、周りから見れば全てが完璧に見えてただろう。
父親が事故で無くなるまでは。
途端に腫れもの扱い、同情、いい人のフリをして寄ってくる下心丸出しの奴等ばかりで周りは溢れかえった。
そんな時に、理人さんが迎えに来て「一緒に来い」って短くいつも通りの顰めっ面で言った時は「この人なら大丈夫だ」って何故か思えた。
まだ小さな俺を抱き上げで「今日から俺の子な」って適当に言うところは、いつも父親と話す理人さんそのままで変に取り繕うことも、優しくすることもなくて逆にほっとした。
天音と会ったのはすぐだった。
元々天音の傍にはいつも愛慈が居たけど、それからは俺も居た。
特別だった俺は、天音や愛慈にすれば普通で勿論二人が優れているということもあるが、何か言葉では言い表せないいい意味で適当な所が俺を普通にさせてくれた。
(あー好きだ、諦めるなんて無理だけど……)
玲にとっては愛慈も大切な人、二人が上手くいっているなら身を引くべきなのは分かっているからこそ苦しかった。
「なに、考えてる事ふつーに分かんだけど」
「なら……諦めたくないって言ったら?」
「勝手にしろよ、やらねぇがな」
「分かってるよ。負けないけどな」
「あっそ」
「愛慈……」
「んだよ」
「けど俺、愛慈も大事なんだ」
眉尻を下げる玲にため息をついて少し笑った愛慈は前を歩く天音から目を離さないままふっと笑うと、ふいに玲を見て言った。
「残念ながら俺もなんだ玲。だから悔いは残すな何事にも。理人さんの口癖だったろ」
「何が残念ながらだよ、素直じゃ無い奴」
「うっせーな、今更恥ずかしーんだよ。やめろよ」
「ツンデレ……」
「うっせ。ま、お互い頑張ろーや」
「余裕こいてんじゃねーよっと!」
「いてっ!玲!なにすんだよ!」
「何何?ケンカ?二人とも仲良いのね」
((どう見たらそう見えんの天音さん))
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