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婚約者と大切な人
しおりを挟む「なぁ、最近愛慈の奴とお嬢仲良くねぇか?」
さしていつもと同じように見える二人だか、確かに感じる甘ったるい雰囲気にヤマさんを初め組の者は愛慈に疑惑の視線を送った。
「確かに…どことなく違うような…。」
「ひょっとして、くっ付いたんスかね?」
「いやーあんだけ拗らせてりゃ無理でしょう~ははは!」
天音の服装を整える愛慈を見ながら、
ヒソヒソと遠巻きに見ては話していると、何故か背中に悪寒がする。
ーパタン
「….愛慈、もう来てるか?」
どう見てもご立腹と言った雰囲気の仁之助が現れ、その殺気立った雰囲気のまま少し離れた所でのんきにいちゃつく二人をみて更に眉間の皺を深めた。
(((親父、こぇーよ!!何したんだ愛慈!!)))
「愛慈ぃ!…来い、」
「??」
(何かすげー怒ってんな、手ェ出したのバレたんか…?)
「早よ来い!!」
「っはい!…お嬢、ちょっと待ってて。送ってきますから。」
「うん、お爺ちゃん怒ってるね、大丈夫?」
「慣れてますんで、行ってきます。」
早足で仁之助の後ろについて行った愛慈が気になり、天音は仁之助の部屋の前に少し遅れてひっそりと三角座りで聞き耳を立てていた。
「…どうゆう事や。ワシがお前の親代わりなってんのは分かってんな?勿論、婚約や結婚やてなったら知ることになる事も….」
「あ…親父!それは後々ご報告に上がろうと思って……」
(お嬢との事、なんで先に知ってんだよ。見てんのか?)
(婚約!?結婚!?お爺ちゃんったら気が早いわよ~っ)
盗み聞きする天音は頬を染めて両手で顔を覆った。
「ほう…ほんなら認めんねんな?」
「はい、俺は本気でお嬢をあい…………!!!!」バキッ
「おどれワシの事舐めとんか!この婚約の話見た時は半信半疑やったわぁ!あのしょーもない女との噂は知っとったけどなぁ、お前やったら天音幸せにしてくれるやろて信じとった…ッ!!!!!」
愛慈の頬を一発殴ったかと思うと勢いよく捲し立て、鬼の形相でそう言った仁之助は数枚の手紙と土産の入った紙袋をドンと机の上に置いて、怒りを抑えるように息を深く吸い込んで座り直した。
「…、自分で読んでみぃ!」
天音は展開が分からず、ドキドキと不安で早まる心臓を抑えながらも愛慈が心配で仕方なかった。
一方、愛慈は驚愕した。
「ぇ…星華と、婚約?」
「なんや、白々しい。星華んとこの親は厄介でなぁ、家出娘や言うから店で面倒見とったけど、こんな形で家帰りよると思わんかったわ。帰れゆーてても頑なに嫌がってたのに。
お前との婚約を条件に家帰ったらしい。よっぽどお前が好きなんやろ。
お前…天音のこと…弄んどったんか。」
(!?)
手紙には婿養子の条件で、星華の婚約者として迎え入れる事と彼女を家に帰してくれた事への感謝が綴られていた。
如何にも決定事項のように綴られている手紙に心底驚いたように愛慈は目を見開いてから怒りでその手紙をグシャリと握りしめた。
天音は溢れる涙を抑えることができずに思わずその場を立ち去り、愛慈を待たずに家を飛び出した。
「親父…俺はこんな話した事ありません….。」
「ほんならコレはなんやねん?」
「わかりません。こんな、強引な方法…俺が、お嬢しかダメなのは親父も知ってるでしょう!?こんなの受けるワケがない!!」
「一方的な話やってゆうんか?」
「当たり前でしょう!!俺が、親父や利仁さん裏切るような事する訳…!」
「星華の家はな、議員でな。これまた祖父もかなりの金持ちなボンボンときた。正式な婚約の話出たらこっちも公式で断らんなあかん。」
「…話つけてきます。親父に頼んのはそれからでもいいですか。」
「ケツはふいたる。不細工な真似だけはすんなよ。」
「はい!」
ーー
「天音!どうしたの、一人で来るなんて珍しいね!」
「咲…あのね、」
「水くさいわね、今日はサボっちゃう?」
「ごめんね…私の為に咲まで講義…、」
「私が頭いいって忘れたの?」
「ふふ、甘いの奢るわ。ありがとう、」
二人は近くの可愛いリコッタチーズケーキの有名なカフェでオシャレで可愛い店の雰囲気とは相反した複雑な表情をしていた。
「それは…待って、愛慈さんが?ありえない…だって、」
「だって…?でも確かに聞いたの…」
「他の人と婚約だなんてありえないよ!私の知る限り愛慈さんは天音無しじゃ生きていけない人だよ!?」
「愛慈なしで生きてけないのは私のほうだよ…なのに好きだって気付いた瞬間にこんな…、」
天音は伏せ目がちにそういってアイスティーのストローに口をつけた。
咲は親友の悲しげな姿に心を痛めたがどうしても腑に落ちなかった。
(愛慈さんが…絶対に何かある。)
「天音…辛いね。けど、愛慈さんにちゃんと確認しなきゃね…」
「咲…、ありがとう。」
ここで愛慈を悪く言われても心を痛めただろう。
かと言って思い過ごしだと笑われても辛かった。
咲はただ、ずっと天音の言葉に耳を傾けて咲から見た二人の仲を信頼しながら言葉をくれていた。
天音にはそれがとても嬉しかった。
「あら…、アナタ、」
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