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愛慈の彼女
しおりを挟む今日は仕事がないらしく、愛慈はご飯にまで連れてってくれた。お洒落なバルで大好きなお肉をいっぱい食べさせて貰って、初めて見る夜の繁華街を愛慈に手を引かれて歩いている。
「すごい、こんなに沢山の人がいるんだね!」
「愛慈さん、うっす!」
「愛慈くーん、久しぶり~!」
愛慈はいろんな人に声をかけられていて、いつもより少しだけ怖い雰囲気。すると、パタリと愛慈の脚が止まって天音の手を離した。
「愛慈くん?…今日はお仕事?」
チラリと天音を見て言った、
緩くウェーブさせた艶やかな黒髪をさらりとはらって、前髪をかき上げる、この女性は夜のお仕事をしている人だろうか?
とびっきりの美人が黒のシンプルなドレスをきて立って居た。
「ああ。お前も仕事じゃなかったの?」
(あー最悪だ。こいつなんでこの時間にいんの。)
「やだ、感じ悪いわね。彼女に向かって…後で部屋で待ってる。」
天音にも辛うじて聞こえるくらいの声で言って、じゃあねとヒールを鳴らして歩いて行った彼女に少しだけ天音はもやっとした。
「お嬢、行こう。」
「今の人、彼女??」
「え"…あーそんなもんかな。」
「ふーん、」
厳密に言うと、愛慈はモテるのでそういう女性はたまにいたが、今の彼女とは長く付き合っていた。
年上で物分かりも良く、恋愛というよりはお互い割り切った関係だった。
自宅に帰るまで口数が減った天音を見てヤキモチかな?と嬉しそうにしている愛慈を置いて彼女はお風呂へ行った。
お風呂上がりの天音を見て、愛慈はまた驚いた。
フリルのついたピンクの透け感のある生地のワンピースに勿論透けては居ないのだが、同じ素材のガウン。
膝上までの短いワンピースだが、その中はきっと愛慈が選んだものを着けているのだろう。
「なんですかその格好は?」
「半分離れみたいになってるし、私と愛慈しか居ないのにまさかこの位で怒んないよね…これも咲とお揃いで買ったの」
(愛茲の為に………)
今言われた訳ではないが昼の天音の言葉が脳内で何度も再生される…
「…変かな?」
(イイ!俺の為の可愛い部屋着!可愛い)
「いや、お嬢によく似合ってる。可愛いですよ。」
内心とは裏腹に努めて澄ました顔で言う俺にムッとした顔をしてお嬢はくるりと踵を返して部屋に入ってしまった。
(なによ、どうせあんなにセクシーじゃないわよ。)
ーーコンコン
「お嬢、はいりますよ。」
「なに?」
「……ヤキモチですか?」
「え…なに、そんな訳ないじゃない!」
「さっきの女に妬きました?」
「違うわ!大人になった所を見せたかっただけよ!」
「服だって選べるし、お風呂だって自分で支度できるわ、学校にも自分で行って帰るんだから!自立して彼氏作るもん!」
ーーピシ
(彼氏?…は?自立?…お嬢が?)
(いや、冷静なれ。できる訳がないしできたとて俺ほど完璧な相手はいないはずすぐに戻ってくる。3日で音をあげるだろう。)
「そうですか。でも…」
「お嬢は俺が居ないとだめでしょう。」
すると、余計にムキになったのか、
「私にだって、できるわよ!絶対に彼氏作ってやるんだから!」
と、怒って部屋を追い出されてしまった。
そして翌朝から、愛慈にとっての地獄の日々が始まったのだった。
「お嬢、起きて…」
「愛慈、おはよう!もうシャワー浴びたよ。次どうぞ。」
自分で選んだものを着て、自分で髪をセットしている。
そんな短いスカートはいつ買ったのか…
ベージュのスカートに白の流行りのガーリーなブラウスを着て、髪を緩くふわふわに巻いてハーフアップにしたお嬢はとても可愛い。
「髪、するの難しいね…いつもありがとう愛慈。」
はにかんで俺に言ったと思ったら、もうお嬢は全身鏡の前で香水をふっていた。
「いつも、つきっきりで大変だったでしょ?帰りも大丈夫だから、たまには彼女さんと過ごしてね?」ニコリ
お嬢が少し怖く見えて、玄関の前で固まった俺を組の者たちが背後からみてクスクスと笑っていた。
「愛慈、お嬢も独り立ちかー?」
「女でもバレたか?」
「いや、お嬢は愛慈にそんなんじゃないっしょ!」
みんなで勝手な事を言って笑ってる居ると、どよ~んと暗い雰囲気の愛慈は車の鍵を持ってどこかに行った。
「お、女ん所でもいったか?」
「いや、ありゃストーカーだな。」
「愛慈さんってお嬢命ですよね。」
「気付いてねぇのはお嬢だけだよ、ぶわはは!」
ーー
一方、天音は比較的に家の近い明日菜と合流して、電車に乗っていた。
「初めて、緊張する。」
「大丈夫だよ~っ、この時間まだ空いてるから」
「よかった、ありがとう」
「ふふふ、なんか嬉しいねこうやって一緒に行けて、」
明日菜の言葉に胸がじんわりと暖かくなった。
(大学生になってよかった~~っ!!)
「…あれ?あれって高梨先輩じゃない~?」
「あ、ほんとだ。後でこの間の事謝っておかなきゃ」
「高梨先輩ってめっちゃ人気あるんだよ~?絶対、天音に気があるし、行かなきゃ損だよ!!」
そんな事を言っていると視線を感じたのか、こちらに気づいた高梨先輩が手を振った。
「…わ、私どうしよう。」
「あはっ、目が合っただけじゃん~大丈夫気楽にいこ~」
電車を降りると高梨先輩が駆け寄ってきて、天音の腕を取った。
「あっ、ごめん!引き止めたくて、」
パッと手を離して真剣に謝ってくれている、高梨先輩に天音は好感を持った。
「そんな、全然大丈夫です!…あのこの間はすみませんでした。」
「あれはこっちが悪いんだから、気にしないで!…あの人は、彼氏さん?」
「違いますよ~、天音のお父さんの部下で、一緒にお祖父さんのところに住んでる、お兄さんみたいな感じです」
なぜか明日菜が、食い気味に言うと高梨先輩はほっとしたように笑って
「良かった!じゃあ俺にもチャンスあるかな?」
って笑ったので、天音は思わず赤面した。
「なっ、な、な…」
「あはは、まずはお友達からだよね。連絡先聞いてもいい?」
「はい。」
そのまま三人で学校へ行って、咲や陽翔、凛花と響也も交じり、学校が終わった後はみんなで食事に行った。
「ただいま~っ、あれ?松岡さん愛慈は??」
「え~、部屋じゃないすか?」
「そう、…」「お嬢、遅かったですね。」
「あ、愛慈!ちょっとご飯、食べてきたの。」
(知ってるっつーの。)
「お嬢。携帯、充電しときます?お風呂どうぞ。」
「…….なにか企んでる顔してる。」
「えっ、そんなことは….」
「こいつ、お嬢が男と連絡先交換したって怒り狂ってましたよーはははは」
「松岡さんっ!!」
「見てたの?愛慈の馬鹿!…消すつもり?」
(鋭い、ここは….寛大に)
「そんな事しませんよ。どんな奴かなーって。ははっ」
「見たでしょ?この間隣に居た黒髪の方の、高梨先輩よ。とてもモテるしいい人なの。」
「なっ、!お嬢!待って!!ちょっと!」
スタスタとお風呂場へ行った天音の後ろを早足で追いかける愛慈を見てみんなで笑っていた。
「なんやあれ。あいつら」
「親父!!!」
「「「「「っす」」」」」
「いやぁ愛慈の女、天音さんに見つかったらしくて…っぷ」
「天音さんに自立する言われて、追いかけまわしてんですよ」
「何やってんねん、ええ大人が。ほんまいつまでたっても……ほっとけ…」
呆れたように、手をシッシッと振って部屋の奥に戻っていった。
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