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俺だけの可愛いお嬢
しおりを挟むお嬢は決して、モテない訳ではない。
帆奈様こと彼女の母に似た白い肌と程よく大きな目、ふっくらとした小さな唇、立派に大人になったその身体も、
俺が長年手入れした染めても艶やかなその髪も、
元々整っている容姿も相まって、彼女に声をかけてくる男は少なくなかった。
そう…見た目だけなら
なぜなら、お嬢は世間一般の女子大生よりかなり恋愛的な面では遅れており、性に関する知識ももちろんそうだった。
炊事洗濯、買い物もした事ないし、掃除だって自分の部屋や、部屋住みの若いもんの庭掃除や雑巾掛けを手伝うくらいで、自分で飲む紅茶だって入れた事は無い。
もちろん、彼女の父の会社はアメリカで大成功しているのでお金にも困ってるおらず(お嬢は分かっていないけど)
俺だってお嬢の欲しいものはなんでも与えてきたし、
そこらの男じゃ満足出来ないほど、甘やかしてきた。
お嬢が俺から離れていく事はないと、そう確信していた…
たった今ままでは、
ーーーー
「だから愛慈、食事会に行くの。咲がモテる服って言ってたんだけど、どうしたらいいのか分かんなくて…」
「……………。」
「愛慈、聞いてる?その…だから服を選んで欲しいの。」
「お嬢、それは食事会と言う名の合コンでは?」
「そんな事ないよ!同期の男女でご飯するだけだよ。」
「それは行っちゃダメ。危険です。」
「ね、お願い。送り迎えはお願いするからっ」
「一服してきます。」
「吸わない癖にっ!いいよ、自分で用意して行くから!!」
新歓だって行かせなかったし、入学式に合わせて新車を買ってわざわざ目立つ所で下ろして牽制してやった。
なのに…今更男達と飯だと?そんなものに興味持つなんて、
いや、いつかはこんな日がくると分かっていただろう。
どのみち身支度だって一人でできやしないし、車だって自分で乗れないし、電車も乗れないだろう。
そう考えて、何もしてやらない事が一番効果的だと部屋にこもっていると…
「愛慈、迎えが来たから行ってくるわねっ!」
咲ちゃんが迎えに来たようで、アイボリーのタイトなふくらはぎまでのマーメイドスカートに黒のシフォン首元に控えめのフリルのついたノースリーブのシフォンブラウスにラベンダーカラーのふわりとした厚めのカーディガンを緩く羽織ったお嬢が、ヒョコっと顔を出して逃げるように玄関まで走って出ていった。
胸元が開いていないのが、上品だし、透けた黒とくびれが色っぽい。俺が朝に緩く巻いた髪がまた女神のような美しさを引き出し、可愛い、可愛い可愛い可愛いっ…………
「………はっ!!!お嬢ッ!!!」
ダダダダダッ
「ひ、日付け変わるまでに帰るから!お爺ちゃんにはもう伝えてあるからね~っ!」バタン
急いで車の鍵を取って出ようとすると、親父が向こう側からゆっくり歩いてきて声をかける。
お嬢の香水の残り香が、余計に俺を急かせている
「愛慈、行かしたれ。天音ももういい大人やろ。」
「………………っ、分かりました。」
まさか、お嬢が強行突破に出るとは思わなかった。
親父だって知らないはずだ、お嬢がどんだけ浮世離れしているか。
(いや、俺のせいなんだけど。)
「お前は今から仕事、あるやろ。」
「…すんません。行ってきます。」
「ああ、当番のもんに宜しくゆうといてくれ。事務所に顔だけ出すだけでええ。迎えは頼んだでー。」
呆れた顔して、面倒くさそうに部屋に帰って行った親父の言葉にドキリとしてポケットの携帯にチラリと目線をやって、溜め息をついた。
(お嬢のピンキーリングにGPS仕込んでんの親父にバレてんのかな。)
まぁ、いまの時代によっぽどの事がなければ誘拐や街中での抗争などない。急いで仕事を終わらせて行けば間に合うだろう。
「に、してもお嬢可愛かったな。」
ーーー
良かった。愛慈、追いかけてきてないわね!
お爺ちゃんに言っといてよかった~っ!
どこにいくのも、愛慈は付いてくるし大学の行事はほとんど行かせてくれない。
咲は親友で、信頼してる。
中学の頃からずっと仲良しで、学校もずっと一緒。
ずっと恋をしてみたいと思ってた。
友達と飲みに行ったり、カラオケしたり、ラインも家族と愛慈と咲達くらいしか鳴らないし、
「愛慈さんが、許してくれたら…食事会してみる?」
「咲っ!…行きたいっ!行ってみたい!!!」
咲が誘ってくれてとても嬉しかったし楽しみだった、愛慈は…説得できていないけど、追いかけてこない所をみると大丈夫そうだ。
「天音、モテ服じゃん。」
「そ、そう?自分で初めて選んだの、」
「え!誰が選んでんの!?」
「?何を?」
「いつも、服、天音の服…まさか愛慈さん?」
「うん、いつも全部着替えは愛慈が、…??」
「まさか、お風呂の用意は?」
「愛慈だと思うわ、いつも入る前に用意してあるから。」
咲の仰天した顔を見て、何かマズかったのかと焦った。
(天音、下着まで愛慈さんが選んでるってことに気づいていないのね、当たり前すぎて)
でも息を短く吐いて、天音の腕を組んだ咲にほっとした。
「今日は愛慈さんの話はしないでおこう!楽しもうね!」
「ん、わかった。楽しもうね~!」
二人はちょっとオシャレな居酒屋の前で顔を見合わせて、笑って
「初めてね、咲と夜にご飯なんて!」
「ほんとに、愛慈さん抜きで天音とこうして遊べる日がくるなんて!」
「「行きますか!!」」
店に入って行った。
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