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色欲の魔女は冒険者になる。

縮地と瞬動のコンボは最強ですね

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 翌朝。
 ……ルリと朝風呂中。

「……クウだけ、ずるい……」

「えっと……じゃあ、今からする?」

「………」

 ルリが無言で抱きついてきた。

「んっ……急にどうしたの……?」

「……こう、したくて……」

 正面から抱きついてキスをする。

 再度目を閉じて顔を近づけると……

『オオオォォォッッ!!!』

「「ッッ!?」」

 背後に現れた熊の魔物。
 二人揃って手を出し、ボクが風刃、ルリは水刃を放つ。当然魔物は即死し、4つに別れた死骸から血が出続ける。

『レベルアップ!』

「「………」」

 もう……なんでこのタイミングなのかな?

「……お風呂、普通に……入る?」

「そうだね……そういう気分でもなくなっちゃったし……あの熊、ムカつくー!」

「……どう、どう」

 結局、そういう事をする雰囲気でもないからということで、普通にイチャイチャしながら温まった。






 次の日も順調に進み、やっとの事で王都に到着。

 クウは身分証云々があるから一時的に体を消して貰ったけど、人のいない所で出せばいい。

「なんか……めちゃくちゃ大きいね!」

「……無駄に」

『それ言っちゃダメなやつだよっ』

 最後のはクウ。ボクにしか聞こえてないけど。

 あの高さの魔物だったら、そもそも壁が意味をなさないとは思うけど……そういうこと言うと怒る人達が居るから!

 ボク達の番が来るまで待つのかぁ……

 …………

「お前達、僕ちんの妾にしてやるでゲス」

 暇だなぁ……

「聞いてるのでゲスか?」

 はぁ……2時間はかかるよねー?

「いい加減こっちを向くでゲス!」

 うーん、豚の鳴き声が近くで聞こえる気が……そんな訳ないね、何も聞こえてませーん。

「庶民の分際で――」

 剣を構えてる気がしないでもないけど、あえて一撃喰らえば犯罪者にできるかなー?

 と思った直後、

 ブタの驚愕と、剣を弾いたような金属音が響く。数日前にも見た騎士団の鎧。それを着た青年が弾いたのだ。

「な、なんでゲスかお前は!」

「シュヴァイス騎士団所属、ソーディス・アルベール。国王陛下の命に従い、ノア殿とその一行を陛下の元へお連れする」

 思いっきりボクを見てる。ブタの方は一切見てないですね! 可哀想……でもないや。
 ……ブタ? 国王陛下の命と聞いて、逃げるように自分の馬車まで戻って行ったよ!

 さて……騎士団の人なんだけど、国王陛下の命って言ってるのと、上から目線じゃない感じがいい。
 街中で人殺しが出来るわけもないし、着いていく方が……というか、それしか選択肢ないよね。

「分かりました、着いていくのは問題ありません。……けど、どうして私の事を知っているんですか?」

「街に忍ばせていた仲間から聞きました」

『忍ばせていた』のなら、騎士というのは嘘かもしれない。 秘密裏に調査をしてた可能性もある。
 それと、アルベールさんの雰囲気が急に和らいだ。

 大丈夫そうではあるが、一応警戒しつつ着いていく。
 その途中で話しかけてみた。

「えっと……アルベールさん?」

「ソーディスで構いませんよ」

「じゃあ、ソーディスさん。本当は騎士団の人じゃない……あるいは、本職が別なんですよね?」

「……それについては、後で説明します」

 ソーディスさんの雰囲気が和らいだとは言ったけど、なんだか焦っているような……?
 もしかしたら、王様になにかあったのかも。

「本来なら馬車で向かう手筈でしたが……少し急ぐために、走ってもよろしいですか?」

「あ、はい。……了解です」

 ある程度強くなると、馬車よりも普通に走った方が速いんだよね。分かる分かる。
 という訳で走ります。ソーディスさんは鎧を着てるから、そんなに速くは走れないみたいだけど。

 ………………

 …………

 ……


「そこで止ま――グハッ!」

 王城の前に来たのはいいけど、ソーディスさんが人を斬りました。……何を言ってるのかと思うかもしれない。でもね、事実斬ってるんだもん。

「ソーディスさん、その人斬っていいんですか? ねぇ、いいんですかぁー?」

「問題ありません。この者は敵ですので」

「敵って……あ、騎士団長?」

「その通りです」

 その通りなんだ……というか、そんな所にボクを連れていく理由って……

「何と戦えばいいの?」

 戦えと? そういう事だよね? それ以外に思いつかないんだけど。なお、敬語は無くなりました。いや、いきなり戦わされるとか、敬意も何もないよね。

「……騎士団です。現在、5級以上の冒険者は街に居ません。そこで陛下が、ノア殿を連れてくるように命じられました。……既に騎士団の者が向かっていたようですが」

「陛下の方は良いとしても、騎士団は何でボクの事を知ってたの?」

「どうやら、ギルドマスターのアッシュ殿に薬を使い、無理矢理聞き出したようです」

 わーお、可哀想。
 ……ん? ルリはどうしたって? 着いてくるのが精一杯なだけだよ。ボクが回復魔法をかけてるから、疲れは癒してるけどね。

 豪華なお城の内部を駆け抜け、少し大きめの扉をソーディスさんが勢いよく開いた。

「! ……よかった、来てくれたようだね」

「はい、ノア殿をお連れしましたが……これは」

 恐らく王様だと思われる人物……剣持ってるし、騎士団長っぽい人と対峙してますけど。
 鑑定したら、やっぱり王様と騎士団長でした!

 ソーディスさんが見ているのは、騎士団長が抱えている人質。鑑定してみたけど、この国のお姫様だね。

「動くな。動けばリアナ姫を殺す。それが嫌なら、ブラインドタイガーを渡せ」



 ……リアナを、殺す……?



 湧き上がる怒りと、脳裏に浮かび上がる光景。ボクのものじゃない記憶……けれどボクは知っている。

 今、思い出した――


 ――はいっ、約束です!


 花たちに囲まれて、2人で誓い合ったあの時。

 ずっとこの幸せが続くと思っていた。

 終わりなんて無いと思っていた。

 それなのに……



 また別の光景が映し出される。



 ――ごめんなさい。あなたは、生きて……


 守れなかった約束。

 真っ赤に染まる大切な人達。

 この手から全てこぼれ落ちて行く。

 力があっても誰一人守れない無力な自分。

 それが悔しくて、悲しくて、許せなくて……


 だから、


「――今度は誰も奪わせない」


 今の記憶が誰の物かなんて分からない。

 それでも、失う辛さは知っている。

 なら、今するべきなのは守ること。

 ルリを、クウを…………リアナを。

「死ぬのはそっちだよ」

「な――」

 一瞬にして騎士団長の懐に入り込み、全力で蹴りを叩き込む。吹き飛んだ騎士団長は壁に衝突してめり込むが、既にリアナは取り返した後。

 今行った人間離れしている動きは、縮地と瞬動の同時発動によるものである。

 縮地は、予備動作を無くす事で、相手の認識を遅らせる。
 瞬動は、肉体のリミッターを解除することで、瞬間移動のような動きが可能に。ただし、反動でHPが削られる。

 同時に発動すれば、予備動作なく瞬間移動が可能という化け物の完成。

 使えるのはHPが無くなるまでだ。
 それも、回復魔法があれば問題ない。

「リアナは下がってて」

「え? は、はい……分かりました!」

 リアナがある程度離れたのを確認して、騎士団長が立ち上がるのを待つことなく風刃で追撃。

「舐めるなぁッ!!」

 風刃の連射によってダメージは与えたものの、無理矢理立ち上がってこちらに走り出す。

「うぉぉぉ――」

 目を血走らせているが、動きは遅い。

「一」

 すれ違いざまに首を切りつける。鎧があろうとも、頭を守っていなければ意味が無い。

「二」

 あえて鎧の隙間を突き刺す。実際は、鎧ごと斬る事も可能だが、動きが遅くなるのは避けた。
 刺した剣を抜くと、騎士団長の剣が横に振るわれる。しかし、既にボクは背後へと回っている。

「っ……」

 すると、リアナが視界に入る。
 どうして、こんなにも様々な感情が渦巻くのだろうか。悲しいのに嬉しくて、辛いのに幸せで……

「死ねぇッッ!」

「避けてっ!!」

 ボクの動きが止まった所を狙い、騎士団長が剣を振り下ろしてくるが、この程度は獣人なら見切れる。

 左の剣で軽く逸らし、騎士団長の首を一閃。

 追撃しようとするボクから逃げようとしているが、それを許さず回り込んで一閃。

「ま、待て……こ、殺さないでくれ……」

 ここに来て騎士団長のHPはほぼ尽きたらしく、怯えた様子で命乞いを始めた。『二度とこんな事はしない』『チャンスをくれ』……信じるに値しない。
 それが出来るなら、王様を狙うなんて事はしない。

 まあでも、

「いいよ、チャンスをあげる」

 剣を下げ、騎士団長に背中を向ける。

 すると、騎士団長はゆっくり立ち上がった。

「甘いぞ小娘ぇぇ!!」









 ――ブシュゥゥ!



「それ自体罠なんだけどさ」

 突然、騎士団長の首から上が無くなり、血を吹き出す。王様、ソーディスさん、リアナは固まる。

『レベルアップ!』

 まあ、簡単な話だ。
 こうなるのは元々予想出来ていた。
 だから、ボクのすぐ後ろに次元刃を配置。何もしなければ助かり、そこへ自分から突っ込めば……丁度首に当たって消し飛ぶ。

「……呆気ない、終わり方……」

「あ、ルリ。だって、空間魔法強いもん。魔力消費も多いけど、1発100とかだし?」

「……回復、戦闘中にするのは……自殺行為。……普通なら」

 そだねー、それなりに集中しないとダメだし。





 ……何はともあれ、みんな無事です!
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