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色欲の魔女は冒険者になる。

生きるためなら

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「見た目だけは良いようだからな、殺す前に――」

 言葉の途中で固まる騎士……達。
 無駄な話をしている間に、魔眼で魅了させてもらった。こうなれば、後は首を跳ねるだけの簡単なお仕事。

 そう、人殺し。

 ……ボクは殺さないといけない。

「……ノア、震えてる……ルリが、やる?」

「そうだよお姉ちゃん。私でもいいから……」

「ダメ、これはボクがやらなきゃいけないことなんだよ。これから先、間違いなく人を殺す必要が出てくる。その筆頭は魔女だね」

 殺さなければ、殺される。 
 震える手を抑え、騎士の目の前に立つ。本当に殺す必要はあるのかな? ううん、殺さないと敵が増えるだけ。
 今回は、殺すのが最善。

「だから、ボクがこの人達を殺す」

 ズパッ! と首を跳ねる。
 一瞬にしてHPが全損し、首は下に落ちた。それを人数分繰り返す。やはり震えは止まらない。

 肉や骨を断つ感触……決して気持ちのいいものではないし、気持ち悪いという程でもない。
 人は殺せば死ぬ。そんな当たり前の事だけが分かった。簡単に死ぬんだと。

 そっか、死んじゃうんだ……

 ルリも、クウは……微妙だけど、ボクの不老不死だって、魔力切れの時は普通に死ぬ。
 守るには、敵を殺すか……あるいは、圧倒的な力で捩じ伏せるしかない。当然、そう上手くは行かないだろうし、殺すという選択肢しか残らないだろう。

 覚悟は出来た。

 いつの間にか震えも収まっていた。

 ボクが躊躇うことで、仲間は簡単に死んでしまうと気づいたから。それは絶対に許されない。

 出来れば殺すのは嫌だ。
 でも、それで仲間が危険に晒されるのはもっと嫌だ。

 それでも怖いから、ボクは縋る。

「ボクが人殺しでも、嫌いにならない?」

「……ん、別に……敵なら、仕方ない」

「お姉ちゃん以外どうでもいい!」

 クウのはどうなんだろうと思うけど、嫌われてないことがとにかく嬉しかった。
 ルリだって、ボクが悪にならない限りは大丈夫だと言ってくれる。ちょっと泣きそうかも。

「……でも、どうする、の?」

「勿論、騎士団長さんにはお礼しないと……こんな事に巻き込んでくれたお礼をね?」

「ん、おっけー……」

「フルボッコだドン!」

 どこの太鼓さんなのかな、クウは。
 死体は回収、馬車の中にある物資も回収。

「ルリ、御者とか出来る?」

「……無理」

「だよね~……」

「なんで私には聞いてくれないのー?」

 馬車を眺めつつため息をつくと、クウからそんな事を言われた。いや、今まで剣だったのに出来るはずないじゃん。

「出来るとしても、引く方かな」

「さ、さすがにそれは死んじゃう……」

 とは言いつつも頬を赤らめる辺り、クウはかなり業が深いと思う。……絶対やらせないけどね。
 馬車、勿体ないなぁ……

「馬も乗れないし、御者も出来ない……馬車だけ回収して徒歩にするしかなさそう?」

「……もう暗い……明日に、した方が」

「馬車で1泊だねっ」

 確かに暗い状態で歩くのは良くないかもしれない。幸いな事に視界は悪くないから、野宿したとしても見張り番とかしやすそう。

 というわけで、馬車を端に寄せる。馬は持ち上げて運んだけど、すごい暴れてた。
 馬どうしよっかなー、殺すのはなー。

『色欲の魔眼、スキルレベルアップ!』

 あ、はい、そうですか……
 やっぱり、常に微弱な魅了が発動してるっぽい? いきなり堕ちる程じゃないけど、エレナさんみたいにありえない早さでデレるのとかそのせいじゃないかと思う。
 元々好意がない時は平気なはず。そうじゃなければ、関わった人達全員に惚れられる訳だからね。

「んー? 範囲が増えてるのは良いとして、洗脳ってどうなんだろ……いいのかな?」

 魅了して骨抜きには出来るが、そうなると思考力などは致命的に下がり、言うことを聞く人形のような感じだった。
 洗脳なら、都合よく動かせるが自分でも考えるという、便利な駒扱いになる訳である。

 敵に使う分には心が痛まない。
 ただ、相当大変な時じゃなければ使わない、と思う。

 ……そんな事より動物と意思疎通が出来る方が嬉しいんだけどなぁ……ま、無い物ねだりしてもしょうがない!

 2人には馬車の中で寝れるように準備してもらっている。ベッドならあるのだが、馬車がそこまで広くないので、柔らかめの布を大量に敷いて寝るしかない。

「まずは、お風呂を準備!」

 土魔法を使い大きく複雑な構造をした岩を作ったら、風刃で3段(各3メートル四方)にする。
 そして、お湯を入れる部分を切り取り、座れるようにちょっとした段差も付ける。

 お次は下を削って足にする事により、でこぼこな場所でも置けるようにする。使い終わったら異空間収納に入れますから。

 続いて、空間魔法の次元刃……切るのではなく消滅させるという特性を活かして、全体の表面を滑らかにする。

 最後に木の板を敷いてそれっぽく。

「装飾があった方がいいかな?」

 各段にルリが杖を構えた像、ボクが双剣を抜き放つ時の像、クウが大剣を振り下ろした瞬間の像の3つを配置してみた。
 全部デフォルメされてるけどね。

 あ、これだと面白くないから、3箇所を繋げよ。
 上から熱いお湯を流して、下に行くと丁度いい温度になるやつ。下から上に流して魔法の練習をするから、下の方が熱いけどね。

 こう、水魔法で常にお湯を出し続け、重力魔法でお湯にかかる重力を減らし、空間魔法で上に送る。

 溢れたものは異空間収納にボッシュート!

「これで……どこでも露天風呂の完成!」

 一応、狭いところでも入れるように、小さい普通のも作ってあるよ。そして収納しました。

「お姉ちゃん、こっちは終わったけどお風呂は……って、地面を切り出すだけじゃないの?」

「まあね。魔法の練習も兼ねてるけど、いつでもお風呂に入れるようにっていうのが1番かな」

「……大きい」

 大きい方が開放感あるじゃん!
 異世界だから泳いでも良さそうだし。

「それにしても、魔法の練習捗るよね! 常に何かしら魔法を使ってれば、すぐに上がるもん」

「それ、普通の魔法使いじゃ出来ないからっ!」

「あ~、魔力ガンガン持ってくから?」

 1分で10前後減って、1割以下になったらやめる。普段はだいたい1日で全快するけど、睡眠時は回復量が増えるから全部使ってオーケー。

 ……これ、回復が早くなるセーターを着てた方がいいかな? 今のところ戦闘はあんまりないし。むしろ、街道に魔物が居たらおかしいよね。結構人が通るんだから、随時討伐してると思う。

 ちなみに、ルリみたいに杖を持ってないのは、双剣……クウ自体が発動媒体になってるから。
 発動媒体があると、消費魔力の削減や威力の増幅が出来る。クウは元聖剣だから超優秀だよ?

 さて、お風呂の前にご飯作らないと。

「豚バラ……オークバラ? 大根で行こう」

 土魔法で適当な台を作って、フライパンを置く。火魔法で熱するから火力調整も楽ちん。

「ノア……出来る、の?」

 ルリが心配そうに、クウは尻尾をふりふりしながら見守っている中、料理を開始。

 お肉を炒めながら考える。
 醤油やら味噌があるのはどうしてだろうかと。日本人の可能性も捨てきれないけど、普通に見つけただけっていう可能性は高い。

 そう思う理由は、味噌の言い方がこの世界のものだから。というか、見るまで味噌の事だとは思わなかったし。
 日本人が伝えたなら、そのまま味噌っていう名前になっててもおかしくないよね。

「お姉ちゃん、出来たー?」

「調味料が少ないけど、一応出来たよー! お米が無いから味はちょい薄だけどね」

 そう言いながらフォークに刺した大根を、落ち着きのないクウとルリの前に差し出す。

 ぱくっ

「 …………美味しいっ!」

「別にそこまでじゃないでしょ」

「ん……そんな事、ない」

「そ、そう? 調理スキルがあるからかな……?」

 何はともあれ、食事にしよっか。


 ――数十分後。

 美味しそうに食べてくれるのは嬉しいよ? でもさ、残す前提で作ったのに全部無くなるって……そんなに気に入ったの?

 あ、今はお風呂に入ってます。

「騎士団長がボクを殺そうとする理由ってなんだと思う?」

「……邪魔、だから?」

 まあ、何かしらの邪魔になってるんだろうね。ブラインドタイガー関連だと……

「お金かな? どのくらいか分からないけど、王様が途方もない金額を提示したとか」

「分かった! その騎士団長さん、王子様なんだよっ! でねでね、自分が王位簒奪を狙ってる時にそのお話が出てきちゃったから、慌てて動いてるんじゃない!?」

「いや~……王子様が騎士団長にはならないんじゃないかなー? 王様も多少は警戒してると思うし……」

 でも、本当にそうだったら面白いよね!
 ……ボク達が巻き込まれないなら。

「こうも知らないと予想が立てられないよね……」




 面倒なことになったら他の国に逃げよっと。
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