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色欲の魔女は冒険者になる。
ブランドタイガーの価値
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あの後、みんなでゼンさんをからかってから、合格ということで先程居た部屋に通された。
「では、諸々説明させて頂きますね」
当たり前の所や聞かなくても分かる所は省き、重要な所だけ。
・その1、ギルドの階級は12段階。
よく見るのはアルファベットだけど、ここのは何級っていうのになっているそうな。
元々の基準は六大魔女だったけど、それじゃ1つの階級にピンからキリまであるってことで倍まで増やしたらしいよ。
分かるとは思うけど、下から、
12、11、10、9………と数字が小さくなるにつれて、階級は上という扱いになる。
……うん、七大魔女じゃないのかって言いたいんでしょ? ボクも思ったけど、色欲は今の時代では知られないみたい。
危険だし、その力を欲しがる人も出てくる可能性はあるからね。隠蔽したんでしょ。
・その2、階級を上げるには……?
1つ目は依頼達成。
自分の階級と同じ難易度なら30回。1つ上の難易度なら10回で階級が上がる。
2つ目は魔物討伐数。
こっちは自分と同じかそれより上の脅威度になってる魔物ならいいけど、同じ数だけ倒さないといけない。
自分より弱いのを倒しても意味ないからね。
強い魔物を倒しても貢献度が変わらないのは、無謀な事をして死ぬ冒険者を減らすため。
必要な討伐数は階級の低い順から、100、250、500、800、1150、1600、500、200、150、80、30。
最後の方が少ないのは、そこまで強い魔物は数が多くないし、倒すのも大変だから。
最高難易度の魔物に関しては、何十人単位で挑むものだし、災害級の酷さなんだとか。
・その3、三級以上になると義務がある。
月毎(ひと月は30日、1年は14ヶ月)に依頼を20以上達成する。
指名依頼を断れない。
貴族の権力を得られる代わりに、貴族社会に放り込まれる。これは上がった時に詳しく教えてくれるって。難しいし、多いから。
「つまり、四級までにしろってことだね」
「そうね……大体の人はそうなるわ。冒険者で階級が高い人って、元々自由に生きたい人が多いから。そうじゃなければ、騎士にでもなってるわよ」
「だよねー……それ、権力者が圧をかけてきたりしない?」
「大丈夫。実際にやった時、暴動が起きかけたそうなの」
やっぱり? 絶対そうなると思った。
あ、そうそう、話してる内に打ち解けてきたよ。名前はエレナで、趣味は食べ歩き。好きな体位は――見ようと思ったけど、未経験だから分からなかったです!
まだ22歳なんだけど、この世界の20歳以上って行き遅れ扱いされるらしいよ? やだねー。
モテそうなのに未経験なのにはびっくりかな。
「……ところで、ずっと気になっていたことがあるのだけど」
「なーに?」
「どうしてそんな恰好なのかしら」
うっ、ついにその質問が出てきてしまった……いや、当然といえば当然だし、それらしい理由も考えてあるよ!
「呪い的なあれなの。服が一定面積以上を隠すと、強制的にこんな感じになっちゃうっていう。一応言わせてもらうと、見えてるこれは下着じゃなくて、水着っていう泳ぐ時に使うものなんだよ?」
「……海の近い街で売ってるらしいっていうのは聞いた事あるわね。よかったわ、痴女だったらどうしようかと」
「うん、絶対、誰かそう言うだろうなーって思ってた! でも、すこーし失礼じゃないかなー?」
気持ちは大いに分かるけどね。
分かる、けど……ボクは男に興味ありません。いくらイケメンでも……ん? 違和感が……獣人、人間……そっか!
「そういえば、この街って亜人差別とかないんだね」
「元々、差別の無い国を作りたかったそうだから。他の国だと酷いところもあるみたいだけど」
最初に来たのがここで良かった。もし酷いところだったら、強くなる前に奴隷にされちゃったり……ラノベだったら当たり前のことを忘れるなんて。
「それにしても、勇者って凄いわよね……私達の知らない世界から呼び出されて、家族からも引き離されて、世界を救えだなんて言われて、それを成し遂げた上でこの国まで作っちゃったのよ?」
「うんうん、ボクだったら即逃げてるねー。勇者とかめんどくさいし、そんな重荷背負いたくないもん」
「そんなの、背負える人の方が珍しいんじゃないかしら。でも、そうね……ノアがそういう状況になったら、軽く背負ってしまいそうだわ」
それはないかなー……大多数のために頑張るような、正義感溢れる心優しい少女じゃないし。
精々、身近な誰かを守るくらいだよ。ほら、それくらいなら魔女の力でなんとかなるから。
ラノベだとチートずるいなーって思ってたけど、実際来てみるとチート万歳。……魔女はボクだけじゃないし、チートって訳でもないのかな?
というか、通貨云々の話で薄々思ってはいたけど……勇者は召喚されてた上に、この国の王様だったんだね。あ、作ったってだけだから、王様だったとは限らないのかな?
ぐぅ~……
「あっ……えっとね、その……」
真面目な話をしてる時にお腹が鳴るのは、死ぬほど恥ずかしいです。だって、女の子だもの。
エレナさんを見ると、上品に笑ってた。
「ふふっ、お腹空いてたの?」
「……気絶してたからわかんないけど、たぶん昨日? から何も食べてなくて……ここの食堂ってご飯美味しい?」
「気絶って……いえ、あまり大きな声では言えないけれど、ここの料理は微妙ね。具体的には、スキルのない私が作った物と同じくらいよ」
気絶の部分で眉を寄せたエレナさんだったけど、ボクが元気そうなのを見て何も聞かなかった。
というか、料理スキルが無くても同じくらいって……普通の料理ってことでいいね? きっと量が多くて安いとか、そういう良さがあると見た。
でも、異世界初……一応、ボクとしては初の食事だし、どうせなら美味しいものがいいな~。
「じゃあさ、お風呂付きでご飯も美味しい、しかもそこそこ安い宿とかないかな?」
「そんな無茶な……と言いたい所ではあるのだけど、心当たりがあるわね。1泊2食付きで15000ギルと格安。他でお風呂ありの宿なら、食事なしの1泊でも……最低20000ギルは取られるのよ?」
「わー、やっすいね~……安さの理由は?」
「あら、そこでその質問が出てくるってことは、意外としっかりしてるのね。ノアなら無邪気に喜ぶかと思ったのに」
意外とは余計じゃないかな! ……ああでも、ノアは騙されやすい性格だったみたいだし、あながち間違いでもないかもね……くそぅ、ニヤニヤしないでよ!
安い所って、警備がダメダメだったりサービスの質が悪かったり、何かしらワケありなことが多いでしょ?
と思ったんだけど、
「でも、今回は心配要らないわ。この街では有名な宿だし、街の人に『そよ風のゆりかご亭』って聞いてみればすぐに分かるもの」
「へー? それなら行ってからのお楽しみって事にするね」
「あのね、ノア。あなた……お金はあるの?」
「ちょっと強めの魔物を倒してきたから宿代くらいは余裕でなんとかなる……はず」
露骨に不安そうな顔をするエレナさん。中途半端でハッキリ言わなかったボクが悪いんだけども。
「なら買い取り……じゃなかったわね。はいこれ、八級の腕輪。無くすと再発行に150000ギル必要だから気を付けて」
「手首に付けるこの感じ……かっこいいかも」
「ノアならきっと言うと思ってたわ」
既に理解されてる!? 嬉しいような、微妙なような……仲良くなれたってことでよし!
冒険者の腕輪
階級:色
12級 緑
11級 緑に青縁
10級 青
9級 青に赤縁
8級 赤 ←今これだよ!
7級 赤に銀縁
6級 銀
5級 銀に金縁
4級 金
3級 金に黒縁
2級 黒
1級 薄紫
一応教えて貰ったんだけど、
「なんで、金よりも黒と薄紫が上なの?」
「黒は勇者の髪色よ。薄紫は……私も知らないの。ノアの瞳も薄紫だから、もし一級になったら同じ色ね」
「……薄紫?」
……もしかして。
記憶から引っ張り出してみても、ノアは髪と同じダークブラウンの瞳だった。つまり……そう、薄紫とは、『色欲の魔女』を示す色。
この事を知ってる人が居るかどうかは分からないけど、コンタクトレンズ的なものを探した方が良いね。
「どうしたの?」
「あ、ううん……腕輪の再発行に150000もかかるなら、何か他の機能もあるのかなって」
「なるほど……確かに高いものね。まず1つ目は、登録者が倒した魔物を記録してくれるの。階級を上げるのなら、討伐数が分からないと困るでしょう?」
「そっか、魔物だけなら買ってきたり出来るもんね。……1つ目ってことは、他にもあるの?」
記録されちゃうのは微妙に困るような……まあ、そこまで危険な魔物と戦わなければいっか。
「ええ。アイテムバッグって言ってみて」
「……アイテムバッグ?」
言われた通り口に出すと、赤い腕輪の横幅が広がって、黒い渦のようなものが出てきた。
「アイテムボックスの劣化版だから、アイテムバック。まあ、一級ともなるとこの部屋の4倍は入るそうだけど」
6畳はあるこの部屋を、さらに4倍。
大型の魔物も居るだろうし、そのくらいじゃないと死体を持ち帰れないのかもね。
試しに、異空間収納から薬草(島で拾った)を2つ取り出して、アイテムバッグに入れる。八級だと3畳くらいは入るっぽいよ?
取り出そうとすると……
「入れた物の一覧が画像付きで見れるんだ……うん、高くなるのも納得の性能だよ。ボクは要らないけど」
異空間収納だと脳内に直接浮かび上がるし、時間停止もあるし、容量制限なんてないからさ!
「でしょうね……ちなみに、一級の腕輪を無くしたら800万ギルだそうよ」
「うわー……」
「じゃあ、今度こそ買い取りするから、解体所まで行きましょう? 数が多いんでしょうし」
「……数っていうか、大きさなんだけどね~」
あのブランドタイガー、この部屋より大きいけど大丈夫かな? 不味くても、エレナさんなら黙っててくれると思うけど……。
「すみません、解体をお願いしたいのですが……」
「おお、エレナと新人のお嬢ちゃんが来おったか。さっきはいい回し蹴りじゃった……」
「ありがとうございます。ボクのことはノアって呼んでもらえれば! えっと……」
チラッとエレナさんを見る。
ボクの、『この立派な髭のおじいちゃん、名前何?』という疑問を察して小声で教えてくれた。
「副ギルドマスターのリッツさんよ」
「副ギルドマスターが解体させられるの!?」
「やらされとる訳ではないぞ。解体はいい運動になるし、金も貰えるんじゃ。魔物の変化にも気づけるしのぉ……」
「あ、確かに。自分で確認できるから……」
「実際には九割趣味じゃがな」
わお、尊敬しかけてたのに。
ちょっと残念なリッツおじいちゃんの目の前に、ブランドタイガーを出してみる。
……目が輝いてますね。でも無理はしないで。
リッツさんは軽く驚いただけだったけど、横に居たエレナさんはそうでもなかった。狼狽えてボクの腕を揺らす姿が可愛い。
「……の、ノア? こんな大物だとは聞いてないのだけれど」
「うん、言ってないもん。(これが大物だとすら知らなかったとか、恥ずかしくて言えない)」
「だ、だって、あなた、『なんとかなる……はず』とか曖昧な感じだったじゃない!」
「エレナさん、声真似上手……」
「え? そうかしら? ――じゃなくて!」
ノリいいね! エレナさんみたいな人は好きだよ。もちろん、友人として。いや、女性としてでもボクはありだけどね? エレナさんは、男でも女の子でも恋愛対象になるらしいし。
……本人も自覚してるみたいだしー?
おっと、リッツさんが凄い動きしてる。
「これが、解体レベル240の力じゃ!」
「「高っ!?」」
エレナさんも知らなかったみたいで、ボクへの追求を忘れて目を見開いてる。
鑑定してみると、まさかの210歳……?
ここでノアの知識紹介。この世界では、魔力によって老化が遅くなるので、人間の平均寿命が200歳、獣人が100歳くらいなんだとか。
あ、ボクは魔女だから不老不死だよ? (唐突)
レベルは148で、スキルも割と豊富。HP、筋力と敏捷の数値が低いのは老化によるものかな。
それでも、ボクには余裕で勝てるステータス!
「「解体のし甲斐があるのぅ……!」」
「ねぇ、私の目はおかしくなったのかしら……? リッツさんの残像が見えるのよ……」
「ごめん、ボクもそれ見える。というか、分身スキルを使ってるんじゃない?」
あんなに残る残像はおかしいもん。
しかも、どんどん増えていって……今は6人で解体してる。早い……残り5分の1もないし。
「……エレナさん、あの虎って何ギルになる?」
「……そうね、依頼は無いけど市場に出せば1500万は間違いなく……それに、最近では珍しい魔物という事もあって、下手をすれば5000万くらいになるかもしれないわ」
遠い目をしながら聞いてみると、同じく遠い目をしたエレナさんの口からとんでもない額が出てきた。
「み、みんなには秘密だからね?」
「当たり前よ! ……あなたが死体で発見されるのは嫌だもの」
ねぇ、真剣な顔で言わないでよ。
本気で怖くなってくるから……うぅ……
お互い黙って待っていると、数分で解体が完了。リッツおじいちゃんは超人だったね!
「市場に流すのも一興じゃが、競りに出せば貴族が食いつく」
解体しながら話も聞いてたの……?
これにより、再び遠い目をするボク達。
「それで、なんで貴族? お肉が美味しいとか?」
「それもあるのぅ……しかし、重要なのはこの眼球。眼球と言いつつ金属になっておるが、こやつが使う時は視界を奪うだけじゃな。して、その仕組みは知っておるか?」
「「いえ、全く」」
「お主もか、エレナ……結構長いじゃろ」
「……ブランドタイガーは4年勤めた中で1度だけでしたから」
へー、そんなに長いんだ。
あと、4年で1度だけとかオリンピックなの?
「こやつが使う盲目というのはな、一定範囲内に居る生き物の体内魔力を乱す事により、脳へ送られる五感情報を遮るものじゃ。視覚が最も重要じゃからこそ盲目なぞと呼ばれておるが、問題は、『効果を一定範囲内から一点に集中した場合』じゃ」
「……どうなるの?」
「答えは、どんな強力な魔法使いであろうと『魔力が一切扱えなくなる』魔道具の完成じゃ。……使い道は、魔女対策じゃよ」
そっか、なるほどね。
魔女のユニークスキルは基本的に魔力を消費するし、魔法自体もふざけた威力になる。だから、その攻撃手段を先に奪うと。
「じゃあ、ブランドタイガーの数が少ないのは……」
「……魔女が滅ぼそうとした、ということでしょうか?」
「うむ、間違いない。この一体は、世界を左右する程貴重な物じゃ。……先程は競りに出すと言ったが、もし魔女が居た場合、奪われる可能性も否定出来んのぅ……アッシュが直接王へ届ける方がいいじゃろ」
「アッシュさんって?」
「ギルドマスターの事よ」
「あ、そうなんだ。んー、ボクの名前さえ出なければ……後お金が貰えれば、好きにしていいよ!」
思いっきり自分首を絞める行為な気もするけど、ここで断ると怪しまれるし、バレた時って割とバッドエンドだと思うんだよねー。
なら、最終的にバレしても大丈夫なくらい――
――味方を増やせばいいんだよね?
「では、諸々説明させて頂きますね」
当たり前の所や聞かなくても分かる所は省き、重要な所だけ。
・その1、ギルドの階級は12段階。
よく見るのはアルファベットだけど、ここのは何級っていうのになっているそうな。
元々の基準は六大魔女だったけど、それじゃ1つの階級にピンからキリまであるってことで倍まで増やしたらしいよ。
分かるとは思うけど、下から、
12、11、10、9………と数字が小さくなるにつれて、階級は上という扱いになる。
……うん、七大魔女じゃないのかって言いたいんでしょ? ボクも思ったけど、色欲は今の時代では知られないみたい。
危険だし、その力を欲しがる人も出てくる可能性はあるからね。隠蔽したんでしょ。
・その2、階級を上げるには……?
1つ目は依頼達成。
自分の階級と同じ難易度なら30回。1つ上の難易度なら10回で階級が上がる。
2つ目は魔物討伐数。
こっちは自分と同じかそれより上の脅威度になってる魔物ならいいけど、同じ数だけ倒さないといけない。
自分より弱いのを倒しても意味ないからね。
強い魔物を倒しても貢献度が変わらないのは、無謀な事をして死ぬ冒険者を減らすため。
必要な討伐数は階級の低い順から、100、250、500、800、1150、1600、500、200、150、80、30。
最後の方が少ないのは、そこまで強い魔物は数が多くないし、倒すのも大変だから。
最高難易度の魔物に関しては、何十人単位で挑むものだし、災害級の酷さなんだとか。
・その3、三級以上になると義務がある。
月毎(ひと月は30日、1年は14ヶ月)に依頼を20以上達成する。
指名依頼を断れない。
貴族の権力を得られる代わりに、貴族社会に放り込まれる。これは上がった時に詳しく教えてくれるって。難しいし、多いから。
「つまり、四級までにしろってことだね」
「そうね……大体の人はそうなるわ。冒険者で階級が高い人って、元々自由に生きたい人が多いから。そうじゃなければ、騎士にでもなってるわよ」
「だよねー……それ、権力者が圧をかけてきたりしない?」
「大丈夫。実際にやった時、暴動が起きかけたそうなの」
やっぱり? 絶対そうなると思った。
あ、そうそう、話してる内に打ち解けてきたよ。名前はエレナで、趣味は食べ歩き。好きな体位は――見ようと思ったけど、未経験だから分からなかったです!
まだ22歳なんだけど、この世界の20歳以上って行き遅れ扱いされるらしいよ? やだねー。
モテそうなのに未経験なのにはびっくりかな。
「……ところで、ずっと気になっていたことがあるのだけど」
「なーに?」
「どうしてそんな恰好なのかしら」
うっ、ついにその質問が出てきてしまった……いや、当然といえば当然だし、それらしい理由も考えてあるよ!
「呪い的なあれなの。服が一定面積以上を隠すと、強制的にこんな感じになっちゃうっていう。一応言わせてもらうと、見えてるこれは下着じゃなくて、水着っていう泳ぐ時に使うものなんだよ?」
「……海の近い街で売ってるらしいっていうのは聞いた事あるわね。よかったわ、痴女だったらどうしようかと」
「うん、絶対、誰かそう言うだろうなーって思ってた! でも、すこーし失礼じゃないかなー?」
気持ちは大いに分かるけどね。
分かる、けど……ボクは男に興味ありません。いくらイケメンでも……ん? 違和感が……獣人、人間……そっか!
「そういえば、この街って亜人差別とかないんだね」
「元々、差別の無い国を作りたかったそうだから。他の国だと酷いところもあるみたいだけど」
最初に来たのがここで良かった。もし酷いところだったら、強くなる前に奴隷にされちゃったり……ラノベだったら当たり前のことを忘れるなんて。
「それにしても、勇者って凄いわよね……私達の知らない世界から呼び出されて、家族からも引き離されて、世界を救えだなんて言われて、それを成し遂げた上でこの国まで作っちゃったのよ?」
「うんうん、ボクだったら即逃げてるねー。勇者とかめんどくさいし、そんな重荷背負いたくないもん」
「そんなの、背負える人の方が珍しいんじゃないかしら。でも、そうね……ノアがそういう状況になったら、軽く背負ってしまいそうだわ」
それはないかなー……大多数のために頑張るような、正義感溢れる心優しい少女じゃないし。
精々、身近な誰かを守るくらいだよ。ほら、それくらいなら魔女の力でなんとかなるから。
ラノベだとチートずるいなーって思ってたけど、実際来てみるとチート万歳。……魔女はボクだけじゃないし、チートって訳でもないのかな?
というか、通貨云々の話で薄々思ってはいたけど……勇者は召喚されてた上に、この国の王様だったんだね。あ、作ったってだけだから、王様だったとは限らないのかな?
ぐぅ~……
「あっ……えっとね、その……」
真面目な話をしてる時にお腹が鳴るのは、死ぬほど恥ずかしいです。だって、女の子だもの。
エレナさんを見ると、上品に笑ってた。
「ふふっ、お腹空いてたの?」
「……気絶してたからわかんないけど、たぶん昨日? から何も食べてなくて……ここの食堂ってご飯美味しい?」
「気絶って……いえ、あまり大きな声では言えないけれど、ここの料理は微妙ね。具体的には、スキルのない私が作った物と同じくらいよ」
気絶の部分で眉を寄せたエレナさんだったけど、ボクが元気そうなのを見て何も聞かなかった。
というか、料理スキルが無くても同じくらいって……普通の料理ってことでいいね? きっと量が多くて安いとか、そういう良さがあると見た。
でも、異世界初……一応、ボクとしては初の食事だし、どうせなら美味しいものがいいな~。
「じゃあさ、お風呂付きでご飯も美味しい、しかもそこそこ安い宿とかないかな?」
「そんな無茶な……と言いたい所ではあるのだけど、心当たりがあるわね。1泊2食付きで15000ギルと格安。他でお風呂ありの宿なら、食事なしの1泊でも……最低20000ギルは取られるのよ?」
「わー、やっすいね~……安さの理由は?」
「あら、そこでその質問が出てくるってことは、意外としっかりしてるのね。ノアなら無邪気に喜ぶかと思ったのに」
意外とは余計じゃないかな! ……ああでも、ノアは騙されやすい性格だったみたいだし、あながち間違いでもないかもね……くそぅ、ニヤニヤしないでよ!
安い所って、警備がダメダメだったりサービスの質が悪かったり、何かしらワケありなことが多いでしょ?
と思ったんだけど、
「でも、今回は心配要らないわ。この街では有名な宿だし、街の人に『そよ風のゆりかご亭』って聞いてみればすぐに分かるもの」
「へー? それなら行ってからのお楽しみって事にするね」
「あのね、ノア。あなた……お金はあるの?」
「ちょっと強めの魔物を倒してきたから宿代くらいは余裕でなんとかなる……はず」
露骨に不安そうな顔をするエレナさん。中途半端でハッキリ言わなかったボクが悪いんだけども。
「なら買い取り……じゃなかったわね。はいこれ、八級の腕輪。無くすと再発行に150000ギル必要だから気を付けて」
「手首に付けるこの感じ……かっこいいかも」
「ノアならきっと言うと思ってたわ」
既に理解されてる!? 嬉しいような、微妙なような……仲良くなれたってことでよし!
冒険者の腕輪
階級:色
12級 緑
11級 緑に青縁
10級 青
9級 青に赤縁
8級 赤 ←今これだよ!
7級 赤に銀縁
6級 銀
5級 銀に金縁
4級 金
3級 金に黒縁
2級 黒
1級 薄紫
一応教えて貰ったんだけど、
「なんで、金よりも黒と薄紫が上なの?」
「黒は勇者の髪色よ。薄紫は……私も知らないの。ノアの瞳も薄紫だから、もし一級になったら同じ色ね」
「……薄紫?」
……もしかして。
記憶から引っ張り出してみても、ノアは髪と同じダークブラウンの瞳だった。つまり……そう、薄紫とは、『色欲の魔女』を示す色。
この事を知ってる人が居るかどうかは分からないけど、コンタクトレンズ的なものを探した方が良いね。
「どうしたの?」
「あ、ううん……腕輪の再発行に150000もかかるなら、何か他の機能もあるのかなって」
「なるほど……確かに高いものね。まず1つ目は、登録者が倒した魔物を記録してくれるの。階級を上げるのなら、討伐数が分からないと困るでしょう?」
「そっか、魔物だけなら買ってきたり出来るもんね。……1つ目ってことは、他にもあるの?」
記録されちゃうのは微妙に困るような……まあ、そこまで危険な魔物と戦わなければいっか。
「ええ。アイテムバッグって言ってみて」
「……アイテムバッグ?」
言われた通り口に出すと、赤い腕輪の横幅が広がって、黒い渦のようなものが出てきた。
「アイテムボックスの劣化版だから、アイテムバック。まあ、一級ともなるとこの部屋の4倍は入るそうだけど」
6畳はあるこの部屋を、さらに4倍。
大型の魔物も居るだろうし、そのくらいじゃないと死体を持ち帰れないのかもね。
試しに、異空間収納から薬草(島で拾った)を2つ取り出して、アイテムバッグに入れる。八級だと3畳くらいは入るっぽいよ?
取り出そうとすると……
「入れた物の一覧が画像付きで見れるんだ……うん、高くなるのも納得の性能だよ。ボクは要らないけど」
異空間収納だと脳内に直接浮かび上がるし、時間停止もあるし、容量制限なんてないからさ!
「でしょうね……ちなみに、一級の腕輪を無くしたら800万ギルだそうよ」
「うわー……」
「じゃあ、今度こそ買い取りするから、解体所まで行きましょう? 数が多いんでしょうし」
「……数っていうか、大きさなんだけどね~」
あのブランドタイガー、この部屋より大きいけど大丈夫かな? 不味くても、エレナさんなら黙っててくれると思うけど……。
「すみません、解体をお願いしたいのですが……」
「おお、エレナと新人のお嬢ちゃんが来おったか。さっきはいい回し蹴りじゃった……」
「ありがとうございます。ボクのことはノアって呼んでもらえれば! えっと……」
チラッとエレナさんを見る。
ボクの、『この立派な髭のおじいちゃん、名前何?』という疑問を察して小声で教えてくれた。
「副ギルドマスターのリッツさんよ」
「副ギルドマスターが解体させられるの!?」
「やらされとる訳ではないぞ。解体はいい運動になるし、金も貰えるんじゃ。魔物の変化にも気づけるしのぉ……」
「あ、確かに。自分で確認できるから……」
「実際には九割趣味じゃがな」
わお、尊敬しかけてたのに。
ちょっと残念なリッツおじいちゃんの目の前に、ブランドタイガーを出してみる。
……目が輝いてますね。でも無理はしないで。
リッツさんは軽く驚いただけだったけど、横に居たエレナさんはそうでもなかった。狼狽えてボクの腕を揺らす姿が可愛い。
「……の、ノア? こんな大物だとは聞いてないのだけれど」
「うん、言ってないもん。(これが大物だとすら知らなかったとか、恥ずかしくて言えない)」
「だ、だって、あなた、『なんとかなる……はず』とか曖昧な感じだったじゃない!」
「エレナさん、声真似上手……」
「え? そうかしら? ――じゃなくて!」
ノリいいね! エレナさんみたいな人は好きだよ。もちろん、友人として。いや、女性としてでもボクはありだけどね? エレナさんは、男でも女の子でも恋愛対象になるらしいし。
……本人も自覚してるみたいだしー?
おっと、リッツさんが凄い動きしてる。
「これが、解体レベル240の力じゃ!」
「「高っ!?」」
エレナさんも知らなかったみたいで、ボクへの追求を忘れて目を見開いてる。
鑑定してみると、まさかの210歳……?
ここでノアの知識紹介。この世界では、魔力によって老化が遅くなるので、人間の平均寿命が200歳、獣人が100歳くらいなんだとか。
あ、ボクは魔女だから不老不死だよ? (唐突)
レベルは148で、スキルも割と豊富。HP、筋力と敏捷の数値が低いのは老化によるものかな。
それでも、ボクには余裕で勝てるステータス!
「「解体のし甲斐があるのぅ……!」」
「ねぇ、私の目はおかしくなったのかしら……? リッツさんの残像が見えるのよ……」
「ごめん、ボクもそれ見える。というか、分身スキルを使ってるんじゃない?」
あんなに残る残像はおかしいもん。
しかも、どんどん増えていって……今は6人で解体してる。早い……残り5分の1もないし。
「……エレナさん、あの虎って何ギルになる?」
「……そうね、依頼は無いけど市場に出せば1500万は間違いなく……それに、最近では珍しい魔物という事もあって、下手をすれば5000万くらいになるかもしれないわ」
遠い目をしながら聞いてみると、同じく遠い目をしたエレナさんの口からとんでもない額が出てきた。
「み、みんなには秘密だからね?」
「当たり前よ! ……あなたが死体で発見されるのは嫌だもの」
ねぇ、真剣な顔で言わないでよ。
本気で怖くなってくるから……うぅ……
お互い黙って待っていると、数分で解体が完了。リッツおじいちゃんは超人だったね!
「市場に流すのも一興じゃが、競りに出せば貴族が食いつく」
解体しながら話も聞いてたの……?
これにより、再び遠い目をするボク達。
「それで、なんで貴族? お肉が美味しいとか?」
「それもあるのぅ……しかし、重要なのはこの眼球。眼球と言いつつ金属になっておるが、こやつが使う時は視界を奪うだけじゃな。して、その仕組みは知っておるか?」
「「いえ、全く」」
「お主もか、エレナ……結構長いじゃろ」
「……ブランドタイガーは4年勤めた中で1度だけでしたから」
へー、そんなに長いんだ。
あと、4年で1度だけとかオリンピックなの?
「こやつが使う盲目というのはな、一定範囲内に居る生き物の体内魔力を乱す事により、脳へ送られる五感情報を遮るものじゃ。視覚が最も重要じゃからこそ盲目なぞと呼ばれておるが、問題は、『効果を一定範囲内から一点に集中した場合』じゃ」
「……どうなるの?」
「答えは、どんな強力な魔法使いであろうと『魔力が一切扱えなくなる』魔道具の完成じゃ。……使い道は、魔女対策じゃよ」
そっか、なるほどね。
魔女のユニークスキルは基本的に魔力を消費するし、魔法自体もふざけた威力になる。だから、その攻撃手段を先に奪うと。
「じゃあ、ブランドタイガーの数が少ないのは……」
「……魔女が滅ぼそうとした、ということでしょうか?」
「うむ、間違いない。この一体は、世界を左右する程貴重な物じゃ。……先程は競りに出すと言ったが、もし魔女が居た場合、奪われる可能性も否定出来んのぅ……アッシュが直接王へ届ける方がいいじゃろ」
「アッシュさんって?」
「ギルドマスターの事よ」
「あ、そうなんだ。んー、ボクの名前さえ出なければ……後お金が貰えれば、好きにしていいよ!」
思いっきり自分首を絞める行為な気もするけど、ここで断ると怪しまれるし、バレた時って割とバッドエンドだと思うんだよねー。
なら、最終的にバレしても大丈夫なくらい――
――味方を増やせばいいんだよね?
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キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
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【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
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貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
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