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そうだ、学園へ行こう
Ⅱ 初撃決着はPVPの基本?
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戦いの舞台は、仮想結界というものを張った広場。観客席のある如何にもな場所だ。
勿論、ここで戦うのには理由がある。
仮想結界の中で起きたことは、文字通り仮想。怪我をしようと、武器が壊れようと、人が死のうと、全て無かったことに……正確に言うなら、中にあるものは仮想のものと置き換えられるのである。
そこで向き合うのは二人の少女。
「えっと、よろしくお願いします」
「よろしく」
アリスがお辞儀をすると、無表情のまま短く返す少女。まるで人形のようだとアリスは感じた。
それは、少女の頭髪が純白であることも理由の一つ。もう一つは、その無表情な顔が整い過ぎているからだ。
「……始めていい?」
首を傾げながら抑揚のない声で問う。
「うん、大丈夫」
人形のような少女から、自分の装備へと意識を戻したアリス。
その手に着けられているのは、騎士団長の剣を折った『ニャンクローver9.99』だ。
名前だけを見ればネタ装備だが、ver9.99――999回の強化を加えた超強力な武器でもある。
ただし、現在は刃を収納した肉球モードではあるが。
対する少女は、幅の狭い片手用直剣。
素人目にも業物だと分かるような一振り。刀身は少女の髪と同じく純白である。
「これより、アリス・ファンシアさんと在校生による模擬戦闘を行います。アリスさんは姫能を使えないため、攻撃手段からは省かせて頂きます。何か質問はありますか?」
「どうすれば勝ちになりますか?」
「戦闘不能にする。あるいは降参させて下さい」
その言葉に少しがっかりしたアリス。
結界の中だからと言って、特殊な防御フィールド等がある訳ではなさそうだ、と。
あるいは、これとは別にあるのかもしれない。
「では……最終試験――」
職員の声に耳をすませる二人。
互いに構えをとり、相手に意識を集中。
「――始めッ!」
合図と同時に飛び出したのは――両方。
アリスの動きは少女に比べてかなり遅いが、慌てることも焦ることも無い。速いだけの敵なら大した事は無いのだ。
少女が突き出す剣を、肉球で受け止める。
「っ!?」
普通に考えれば貫かれて当然の肉球は、貫かれること無く少女の剣を止めていた。
焦らず即座に引こうとする少女。
……それは、ほんの少し間に合わない。
受け止めた手と逆の手が、離れる寸前で剣を叩き折る。
武器破壊によって剣は真っ二つに。
それでも折れた剣で攻撃を続けようとするが、短くなった間合いならアリスの攻撃も当たってしまう。
「せいっ!」
可愛らしい掛け声と共に、少女の手を蹴る。
致命傷には程遠い傷。しかし、アリスが狙ったのは剣を手から離す事。そうなれば、少女が出来る事は何も無い。
武器を取らせる暇もなく突きつけられた肉球。
「……参りました」
「ありがとうございましたー!」
二人が結界の外に出ると、壊れた剣、少女の手が元に戻った。
「フィリス、あの人剣だけで戦うタイプじゃないっぽいよ」
「ええ、剣士にしては妙な動きをしてたものね」
「姫能があってこそなんだろうねー」
手加減されていた気分になり、あまり喜べないアリス。そして、これから戦うフィリスは自然体。
その二人を見ながら職員は思う。
(確かにそうですが、身体強化込みの動きに素の状態で勝てるというのはおかしいでしょう……)
つまり、アリスの動体視力がおかしい。
ただ、VRゲームならば少女よりも速いのが当たり前なので、アリス程ではないにしろ、中級以上のプレイヤーなら少女の動きを見切れるだろう。
それはともかく、少女の疲労が少ないという事でフィリスの試験も間を置かず行うようだ。
「よろしくお願いします」
「ん、よろしく」
アリスの時と同じような挨拶。
違うのは、少女が首を傾げている点。
(武器を持ってない?)
そう、フィリスの両手――勿論両足も武器を装備していないのだ。少女が考えたのは、素手による近接格闘だろうと言う事。
むしろ、本来はそれ以外ありえない。
それならば、今度は待ちに徹した方が……と合図を待ちながら決めた。それが正解だろう。
「――始めッ!」
……相手がフィリスでなければ。
刹那、轟音が鳴り響く。
まるで、何かが爆発したかのような轟音が。
「?」
少女は困惑する。
フィリスが持っているそれは何だ、と。
「しょ、勝者、フィリスさん……」
「…………え?」
何を言っているのか分からなかった。
自分は怪我一つしていないというのに、どうして負けたことになるのだろうか、と。……分からないのも無理は無い。
何故なら、少女は一瞬で吹き飛んでいたから。
フィリスが持つ武器、それが原因である。
『ドラグノフver 9.99 モードEX』
現実に存在するスナイパーライフルをモデルに作られたゲーム内の武器。初期の威力は、単発でありながら同レベル帯の雑魚モンスターすら二発必要で、プレイヤーの間ではクソ武器として有名だった。……一部を除いて。
実は、ゲーム内の武器は改造というものが出来た。
改造するまでどのような変化があるのかは不明で、それこそネットで調べでもしなければ分かりようもない。
その中で、ドラグノフは最も素材が必要な改造なのである。誰が弱い武器にそこまで注ぎ込もうとするだろうか?
そう、フィリスは注ぎ込んだ。
面白そうだから、という理由だけで。
その結果は、『モードチェンジ』。
幾つかの形態に変化可能となったのだ。
その一つが、『モードEX』という、対物ライフルならぬ対竜ライフル。竜はゲーム内で相当高レベルのモンスターだが……数発で仕留める事が出来る。
コストはあるものの、今は重要ではない。
この『モードEX』を利用した対人戦――開幕で対竜ライフルを放つという卑怯な技。
拡張ポーチから取り出した瞬間に放つ。それだけで相手が人なら終わってしまうのである。
「うん……相変わらずえげつない威力だねっ!」
「……反動で激痛が走ったんだけど」
結界の中は痛みも感じるので仕方ないだろう。
「……私、何もしてない気がする」
「おかしいですね……マナはそれ程感じないというのに……」
こうして、最終試験は無事(?)に終わった。
(最初に剣を一回振っただけ……)
……戦闘をさせて貰えなかった少女が可哀想である。
勿論、ここで戦うのには理由がある。
仮想結界の中で起きたことは、文字通り仮想。怪我をしようと、武器が壊れようと、人が死のうと、全て無かったことに……正確に言うなら、中にあるものは仮想のものと置き換えられるのである。
そこで向き合うのは二人の少女。
「えっと、よろしくお願いします」
「よろしく」
アリスがお辞儀をすると、無表情のまま短く返す少女。まるで人形のようだとアリスは感じた。
それは、少女の頭髪が純白であることも理由の一つ。もう一つは、その無表情な顔が整い過ぎているからだ。
「……始めていい?」
首を傾げながら抑揚のない声で問う。
「うん、大丈夫」
人形のような少女から、自分の装備へと意識を戻したアリス。
その手に着けられているのは、騎士団長の剣を折った『ニャンクローver9.99』だ。
名前だけを見ればネタ装備だが、ver9.99――999回の強化を加えた超強力な武器でもある。
ただし、現在は刃を収納した肉球モードではあるが。
対する少女は、幅の狭い片手用直剣。
素人目にも業物だと分かるような一振り。刀身は少女の髪と同じく純白である。
「これより、アリス・ファンシアさんと在校生による模擬戦闘を行います。アリスさんは姫能を使えないため、攻撃手段からは省かせて頂きます。何か質問はありますか?」
「どうすれば勝ちになりますか?」
「戦闘不能にする。あるいは降参させて下さい」
その言葉に少しがっかりしたアリス。
結界の中だからと言って、特殊な防御フィールド等がある訳ではなさそうだ、と。
あるいは、これとは別にあるのかもしれない。
「では……最終試験――」
職員の声に耳をすませる二人。
互いに構えをとり、相手に意識を集中。
「――始めッ!」
合図と同時に飛び出したのは――両方。
アリスの動きは少女に比べてかなり遅いが、慌てることも焦ることも無い。速いだけの敵なら大した事は無いのだ。
少女が突き出す剣を、肉球で受け止める。
「っ!?」
普通に考えれば貫かれて当然の肉球は、貫かれること無く少女の剣を止めていた。
焦らず即座に引こうとする少女。
……それは、ほんの少し間に合わない。
受け止めた手と逆の手が、離れる寸前で剣を叩き折る。
武器破壊によって剣は真っ二つに。
それでも折れた剣で攻撃を続けようとするが、短くなった間合いならアリスの攻撃も当たってしまう。
「せいっ!」
可愛らしい掛け声と共に、少女の手を蹴る。
致命傷には程遠い傷。しかし、アリスが狙ったのは剣を手から離す事。そうなれば、少女が出来る事は何も無い。
武器を取らせる暇もなく突きつけられた肉球。
「……参りました」
「ありがとうございましたー!」
二人が結界の外に出ると、壊れた剣、少女の手が元に戻った。
「フィリス、あの人剣だけで戦うタイプじゃないっぽいよ」
「ええ、剣士にしては妙な動きをしてたものね」
「姫能があってこそなんだろうねー」
手加減されていた気分になり、あまり喜べないアリス。そして、これから戦うフィリスは自然体。
その二人を見ながら職員は思う。
(確かにそうですが、身体強化込みの動きに素の状態で勝てるというのはおかしいでしょう……)
つまり、アリスの動体視力がおかしい。
ただ、VRゲームならば少女よりも速いのが当たり前なので、アリス程ではないにしろ、中級以上のプレイヤーなら少女の動きを見切れるだろう。
それはともかく、少女の疲労が少ないという事でフィリスの試験も間を置かず行うようだ。
「よろしくお願いします」
「ん、よろしく」
アリスの時と同じような挨拶。
違うのは、少女が首を傾げている点。
(武器を持ってない?)
そう、フィリスの両手――勿論両足も武器を装備していないのだ。少女が考えたのは、素手による近接格闘だろうと言う事。
むしろ、本来はそれ以外ありえない。
それならば、今度は待ちに徹した方が……と合図を待ちながら決めた。それが正解だろう。
「――始めッ!」
……相手がフィリスでなければ。
刹那、轟音が鳴り響く。
まるで、何かが爆発したかのような轟音が。
「?」
少女は困惑する。
フィリスが持っているそれは何だ、と。
「しょ、勝者、フィリスさん……」
「…………え?」
何を言っているのか分からなかった。
自分は怪我一つしていないというのに、どうして負けたことになるのだろうか、と。……分からないのも無理は無い。
何故なら、少女は一瞬で吹き飛んでいたから。
フィリスが持つ武器、それが原因である。
『ドラグノフver 9.99 モードEX』
現実に存在するスナイパーライフルをモデルに作られたゲーム内の武器。初期の威力は、単発でありながら同レベル帯の雑魚モンスターすら二発必要で、プレイヤーの間ではクソ武器として有名だった。……一部を除いて。
実は、ゲーム内の武器は改造というものが出来た。
改造するまでどのような変化があるのかは不明で、それこそネットで調べでもしなければ分かりようもない。
その中で、ドラグノフは最も素材が必要な改造なのである。誰が弱い武器にそこまで注ぎ込もうとするだろうか?
そう、フィリスは注ぎ込んだ。
面白そうだから、という理由だけで。
その結果は、『モードチェンジ』。
幾つかの形態に変化可能となったのだ。
その一つが、『モードEX』という、対物ライフルならぬ対竜ライフル。竜はゲーム内で相当高レベルのモンスターだが……数発で仕留める事が出来る。
コストはあるものの、今は重要ではない。
この『モードEX』を利用した対人戦――開幕で対竜ライフルを放つという卑怯な技。
拡張ポーチから取り出した瞬間に放つ。それだけで相手が人なら終わってしまうのである。
「うん……相変わらずえげつない威力だねっ!」
「……反動で激痛が走ったんだけど」
結界の中は痛みも感じるので仕方ないだろう。
「……私、何もしてない気がする」
「おかしいですね……マナはそれ程感じないというのに……」
こうして、最終試験は無事(?)に終わった。
(最初に剣を一回振っただけ……)
……戦闘をさせて貰えなかった少女が可哀想である。
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