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4章 言霊のカタチ

網紐染め

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 学校帰りのハンバーガーショップで、わたしは千佳と一緒にシェイクを注文していた。
 学園祭の話し合いどころか、テレビ局まで来てしまう惨状に学生は早々に帰宅を促されたけれど、わたし達は理由を知っているし、むしろ悪化させた犯人である。

「ミカサ~っ。師匠がめっちゃ怖いスタンプを送ってきたんだけど!?」

 千佳のスマートフォンを覗き込むと、般若のスタンプが押してあった。
 どこでこういうスタンプを手に入れたの!? むしろそっちの方が気になってしまうところだけど、これは怖い。怒っているのがありありとわかる。

「これは……ヤバいね」
「ミカサ~っ! ヤバすぎでしょ! ねっ! これはヤバい~」
「ヤバいね! 逃げよう!」
「二人で愛の逃避行! するっきゃない! するっきゃないね!」
「ふあぁぁぁ~ん」

 二人で手を握り合って怖さをノリでふざけながら声をあげる。
 そんなことをしてもコゲツが許してくれる訳はないだろう。むしろ余計に怒られるのは明白だ。
 わたしも自分のスマートフォンを覗いてみる。
 スタンプは般若ではなかった……が、が、なのだ。
 押されていたスタンプは壁から顔を覗かせる恨みがましそうな猫。
 本当にコゲツはどこでこういう物を買っているのやらだ。

「これは本格的に夜逃げを考えた方がいいかも?」
「ミカサの方にもきてた?」
「この通りだよ」

 スマートフォンの画面を千佳の目の前に差し出して、わたしはシェイクを吸い込む。
 少し硬めなのか吸い込むのに肺活量が必要なようだ。
 わたしがシェイクと格闘している間に、千佳はスマートフォンを片手で弄っていた。

「よし。これで師匠もなんとかー……」

 言い終わる前に千佳のスマートフォンが不穏な音を立てる。
 なぜ有名なサメ映画の曲が着信音なのか聞きたいところだけど、コゲツの怖さを表しているかのようだ。

「ひぇっ……はい。師匠なんでしょうか!」

 ビシッと敬礼しつつスマートフォンに対応する千佳を見れば、「そんな!」「酷い!」と騒いで百面相状態になっている。
 これはコゲツに手厳しく言われているのだろう。ペコペコと頭を下げて忙しそうだ。
 千佳がスマートフォンを切ると眉尻を下げてわたしへと泣きついてきた。

「ミカサ~っ。師匠が酷いんだよ! ちょっとふざけて『ミカサの着替え写真をこっそり送るから許してください』ってアプリでメッセージを出しただけなのに、『網紐染め』が出来るまでは他の修行もしてくれないって! あんな面倒なの嫌だよー!」
「それはわたしが怒るわ。千佳、ふざけてると我が家に出入り禁止にするからね!」
「うわーん。冗談なのに! ミカサも師匠も酷すぎるよ~!」
「冗談でバカなことを書いて送った千佳が悪いの! もう。反省しなさい」

 ちなみに網紐染めというのは、コゲツが髪を結うのに使っている組紐のことで、糸の束に自分の霊力を込めながら編んでいく物のこと。
 簡易的に人ならざる者を捕まえる時に使ったりするらしい。
 コゲツは数珠の方が霊力があるので、そっちを基本的に使っている。ただし、千佳には数珠とかの道具は相性が悪い。三灯天神の能力と相殺し合ってしまうから、初めから千佳自身の能力を注いで作った網紐染めの方が使えるという訳だ。
 ただ、千佳は精神集中をしながらの作業が苦手で……とても苦戦している物でもある。

「いつまでもウソ泣きなんかしないの。ちゃんとコゲツから出された課題をやるんだよ?」
「ミカサも一緒に作ろうよー! 一人じゃ退屈なんだもん」
「んーっ、一緒にやってあげたいのは山々なんだけど。わたし、コゲツの髪を結ってあげようとして網紐染めを触ったら、霊力が全部抜けちゃってコゲツに絶対触っちゃ駄目って言われているんだよね」
「マジで……?」
「うん。マジもマジで、ダイさんとキョウさんにも笑われたぐらいだもん」

 コゲツのなんとも言えない肩の落としようと、キョウさんとダイさんの笑いよう。唯一反応が無かったのは子猫の火車くらいだ。
 それでも最近の火車はわたしの能力が出ている時は近付いてこないし、出ていない時だけすり寄ってくるからこの時は近寄ってもこなかったから反応が見える範囲にいなかったが正しい。
 キョウさんやダイさん天草先生のように使役されている人ならざる者は、契約がある限り滅多なことではわたしが触っても消えてしまうようなことはないらしい。
 ここら辺、自分の能力が未知過ぎて分からないところでもある。
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