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一章
夢と髪
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一日の仕事を終え、朝の下準備も出来た私はお風呂に入ってから部屋のベッドの上でのんびりと横になっていた。
歓談ルームという大きめの広間では、まだお酒の飲み合いをしているらしく、楽しそうな笑い声が二階まで響いていた。
私の歓迎会だー! と、騒いでいたのに、いつの間にやら主役の私を置いてけぼりで皆大騒ぎしているのだから、何とも言えない。
おそらく、飲むための口実なのだろうと思う。
昼間、御守さんに買って貰ったクッションを抱きしめて、久々の寝心地の良い場所だと私はニンマリ笑う。
今までは、ネットカフェが私の家のような感じで、飲み物には困らなかったけれど、体はバキバキになるし、寝心地は最悪だった。
たまにお金に余裕のある時に、カプセルホテルや温泉施設で疲れを癒したりするぐらいしか手が無かったのもある。
「明日は朝はー……焼き鮭と……切り干し大根……」
明日の朝のメニューを復唱しているうちに、瞼が重くなり、ウトウトしていると眠りに落ちていった。
体がスッと暗闇に落ちていく感覚。
…………
…………
……
桜がハラハラと舞っていた。
桜の木によじ登ろうとして、後ろからお腹を両脇で持たれて持ち上げられる。
『届きそうかい?』
『うん。とどいた!』
聞き覚えのある声がする。桜の枝から桜の花を採り、手に握る。
手の平の中には桜の花と蕾があった。
小さな手。
私の手はこんなに小さかっただろうか……ああ、夢だ。
『ー……。桜をどうするんだい?』
『スイにあげるの!』
私は体を捻ると、私のお腹を持っていた人物は私を抱っこする。
その人の髪が揺れる。
大きなウェーブのあるくせっ毛で白く短い髪をしていた。
透き通るような銀色の目。
優しい目のその人は、私を抱きしめて笑う。
『僕のお姫様は、スイばかり 贔屓するね』
『だって、ー……は、スイのおよめさんになるんだもん!』
恥ずかし気も無く私はそう言い、彼は眉を下げる。
『もう。僕のお姫様。そういう事は、僕に最初に言うべきでしょ!?』
『やだー! だって、』
私は幸せな顔をして口を開く。
そして、同時に悲しくて、胸が痛くて、眠りから覚める。
「……パパ、なんだ、もの……」
夢の最後の台詞が口から出ると、涙がぼろぼろと落ちていく。
私のお父さん。優しく笑うあの男性は、私のお父さんだ。
どうして、今まで忘れていたんだろうか?
パチンと、小さく暗い部屋で何かが割れる音がした。
パチパチと、小さい音が、涙を流す度にする。
ドタドタと足音がし、部屋のドアがバンッと勢いよく開くと、暗がりの部屋に薄っすらと廊下の灯りが入り込み、涙で歪む視界の中に御守さんが映る。
「麻乃! 駄目だ! 泣くな! 消えて無くなるぞ!」
消えて、無くなる?
御守さんに抱きしめられて、目の前に手が 翳される。
「スイ……私、お父さんを、思い出した」
「……そうか。でも、お前にはまだ早すぎる。今はまだ忘れろ」
「嫌……。忘れたくない。お父さんを、忘れたくない……」
「分かっている。オレも、忘れて欲しくはない。あの人は、誰よりもお前を愛していたから……でも、あの人の望みは、お前が生きる事だ」
白い光で意識は遠のいていく。
意識の残った最後の記憶は、御守さんの声だった。
「すまない。まだここでゆっくり休め……時がくれば、きっと大丈夫だからな」
時がくれば……?
それは、いつになるのだろう?
歓談ルームという大きめの広間では、まだお酒の飲み合いをしているらしく、楽しそうな笑い声が二階まで響いていた。
私の歓迎会だー! と、騒いでいたのに、いつの間にやら主役の私を置いてけぼりで皆大騒ぎしているのだから、何とも言えない。
おそらく、飲むための口実なのだろうと思う。
昼間、御守さんに買って貰ったクッションを抱きしめて、久々の寝心地の良い場所だと私はニンマリ笑う。
今までは、ネットカフェが私の家のような感じで、飲み物には困らなかったけれど、体はバキバキになるし、寝心地は最悪だった。
たまにお金に余裕のある時に、カプセルホテルや温泉施設で疲れを癒したりするぐらいしか手が無かったのもある。
「明日は朝はー……焼き鮭と……切り干し大根……」
明日の朝のメニューを復唱しているうちに、瞼が重くなり、ウトウトしていると眠りに落ちていった。
体がスッと暗闇に落ちていく感覚。
…………
…………
……
桜がハラハラと舞っていた。
桜の木によじ登ろうとして、後ろからお腹を両脇で持たれて持ち上げられる。
『届きそうかい?』
『うん。とどいた!』
聞き覚えのある声がする。桜の枝から桜の花を採り、手に握る。
手の平の中には桜の花と蕾があった。
小さな手。
私の手はこんなに小さかっただろうか……ああ、夢だ。
『ー……。桜をどうするんだい?』
『スイにあげるの!』
私は体を捻ると、私のお腹を持っていた人物は私を抱っこする。
その人の髪が揺れる。
大きなウェーブのあるくせっ毛で白く短い髪をしていた。
透き通るような銀色の目。
優しい目のその人は、私を抱きしめて笑う。
『僕のお姫様は、スイばかり 贔屓するね』
『だって、ー……は、スイのおよめさんになるんだもん!』
恥ずかし気も無く私はそう言い、彼は眉を下げる。
『もう。僕のお姫様。そういう事は、僕に最初に言うべきでしょ!?』
『やだー! だって、』
私は幸せな顔をして口を開く。
そして、同時に悲しくて、胸が痛くて、眠りから覚める。
「……パパ、なんだ、もの……」
夢の最後の台詞が口から出ると、涙がぼろぼろと落ちていく。
私のお父さん。優しく笑うあの男性は、私のお父さんだ。
どうして、今まで忘れていたんだろうか?
パチンと、小さく暗い部屋で何かが割れる音がした。
パチパチと、小さい音が、涙を流す度にする。
ドタドタと足音がし、部屋のドアがバンッと勢いよく開くと、暗がりの部屋に薄っすらと廊下の灯りが入り込み、涙で歪む視界の中に御守さんが映る。
「麻乃! 駄目だ! 泣くな! 消えて無くなるぞ!」
消えて、無くなる?
御守さんに抱きしめられて、目の前に手が 翳される。
「スイ……私、お父さんを、思い出した」
「……そうか。でも、お前にはまだ早すぎる。今はまだ忘れろ」
「嫌……。忘れたくない。お父さんを、忘れたくない……」
「分かっている。オレも、忘れて欲しくはない。あの人は、誰よりもお前を愛していたから……でも、あの人の望みは、お前が生きる事だ」
白い光で意識は遠のいていく。
意識の残った最後の記憶は、御守さんの声だった。
「すまない。まだここでゆっくり休め……時がくれば、きっと大丈夫だからな」
時がくれば……?
それは、いつになるのだろう?
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