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繭の恋

見合いの席

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 【久世楼】の居間が、まるで元旦を祝うように飾られ、冬場には珍しい切り花を集めて飾られていた。
 一番良しとされている千年杉の一枚板で作った座卓までもが出されている。

「女将も張り切ったもんを出したもんだねぇ」
「でも、ありゃ売れ残りだろ? 高すぎて売れねぇって旦那様が前にぼやいてましたし」

 従業員達は廊下から覗き見ては、豪華に飾り立てられた居間を騒ぎ立てる。
 そこへ女将に連れられて、高そうな着物に袖を通した繭がやってきた。
 いつもの子供のようなあどけない顔から、化粧をして少しだけ大人びた繭に従業員達も「おお!」と声を出す。

「繭もそうしてりゃあ、早目に嫁の貰い手もついたのになぁ」
「何言ってんだい。化粧なんかなくてもうちの繭は器量よしだよ。それが分からないような男は、始めからアタシが追い払ってやるさね」
「女将は、繭贔屓だねぇ」
「当たり前だろ。うちの大事な娘だからね」

 堂々と従業員に繭を自慢してニンマリと、乕松と同じ口元で笑う。
 乕松が女将に似ているともいうが。
 繭はこれはいよいよもって、見合いの話が断りづらくなったと、心の中で溜め息をつく。

「さぁ、繭。しっかり見極めるんだよ。アンタの一生が掛かってるんだからね」

 女将に背を叩かれ、繭は居間へと入り用意された座布団の上に座る。
 相手はまだ来ては居なかった。



 
 一方で、乕松は一人茶屋へと足を運んでいた。

 茶屋は今日もお人好しそうな佐平と、気が強いく闘鶏とうけいのような看板娘の小梅、そして小梅の天敵の小松がせわしなく小さな茶屋で、店の切り盛りをしていた。

「おや、乕松の若旦那。こんな時間にどうしたんです?」
「こんな時間って、まだ昼飯前じゃねぇか」
「いえ、いつもなら、昼飯の時間にこんな場所に着てたら、お繭が若様ーって、怒るからってんで来ないじゃねぇですか」
「そうだったかねぇ?」

 頷く佐平に、乕松は懐から煙管きせるを出して火を点ける。
 昼ご飯を【久世楼】で食べるのは、従業員達に午前の引継ぎや、午後からくる客の説明を飯を食べながらするという、【久世楼】の習慣のようなものだ。
 ふらふらと出歩く乕松を、繭は毎度連れ戻しに来ていた。

嗚呼ああ、それも、もう無くなるのか……」

 煙管から煙を肺に送り込み、口から出すとほろ苦さだけが残る。
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