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小梅の恋

小梅と小松

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 乕松とらまつ羊羹ようかんを一口で食べて、お茶を熱いまま飲み干す。
 それから、千吉と小梅と小松の話を佐平に聞かせる。

「千吉とお梅が祝言を挙げるってぇ話が耳に入ったのは、お梅が母親を亡くしちまった時分じゃねぇかなぁ」

 その頃合いだと、佐平は女房を亡くして悲しんでばかりで、母親のおいとに「しゃんとしな!」と尻を叩かれていた頃だろう。
 小さな娘を育てていく為にも、茶屋の仕事に精を出さねばと決意をし、亡くなった妻に胸を張って娘の心配はいらねぇから、安心して成仏しろと手を合わせては自分自身に言い聞かせていた。
 そんな具合だったもので、娘より自分を立て直すのに必死で娘と向き合っていた記憶はとんと無い。

「そんな小せぇ時からですかい?」
「おうよ。その前は、俺のとこへ嫁に行くってぇ言ってたのになぁ」
「それじゃあ、もしかして……小梅は、勝手に千吉に嫁に行くと、思っていただけなんで?」
「いやぁ、どうだろうなぁ。十年以上経っても言い続けてりゃ、嘘も誠かもしれねぇ」

 乕松の湯飲みに白湯を入れ、そこへ塩漬けの桜を添える。
 甘味の後に塩気を足して、また甘味が欲しくなるようにする茶屋の二杯目だ。
 
「千吉とお松が仲睦まじく通りを歩いているってぇ話は、つい最近の話みてぇだな」
「でしょうねぇ。うちの小梅が何かとありゃあ、千吉さん千吉さんと、あの青瓢箪あおびょうたんの後を追い回していましたからねぇ」

 我が娘ながら一途と言うべきなのか、色恋の麻疹はしかにかかって周りを見ていないだけなのか、佐平にもそこら辺はよくは分からない。
 これでは、娘を大事にしてきたと言っても娘の事に関しては、何も知らないのも同じだとも佐平は苦虫を噛みつぶしたような、渋い顔をしてしまう。
 乕松はそんな佐平に、にぃと笑ってみせる。

「俺が千吉と話した時も、お松が居てな……だがどうもありゃ、仲睦まじいって感じにゃあ、見えなかったな」
「そうなんで?」
「千吉に聞くより、お松に聞いた方が早ぇ話だとは思うぜ」
「小松ちゃんかぁ……うちの小梅が、また大騒ぎしそうだなぁ」

 佐平も乕松も、おかめかひょっとこの様に小梅が頬を膨らましそうだと言い合い、その話を水撒きから戻った小梅が聞いて、頬を餅のように膨らませた。
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