庶民のお弁当屋さんは、オオカミ隊長に拾われました。愛妻弁当はいかがですか?

ろいず

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番外編

お願い事はなんですか?(七夕特別番外編)

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 夏になり、港町イグラシアでは海辺の反射でジリジリと干乾びるような熱気が立ち込め始めた。
 獣人国あるあるとでもいうのかな? 毛がフサフサな人たちだから、換毛期で毛がいっぱい抜けるのよね。
 そこで、獣人国では換毛期に抜けた毛を丸くまぁーるく玉にして、家の玄関前に飾り、子供の健やかな成長を祈る祭りに使うの。
 へんてこなお祭りなのだけど、要は、我が子が将来禿げませんように……という、毛の悩みが無いとイイネ! という願いを込めたお祭りなのだ。
 最後は広場で燃やしちゃうのだけどねー。

「グーエン。こんなものでどうかな?」
「これまた可愛らしいですね」
「ふっふー。毛玉だるま!」

 わたしは両手に抱えた銀色の毛玉を雪だるまのように二つ重ね、その上に三角耳を付けたものを手に、グーエンに出来はどうかをチェックしてもらう。
 いやぁーわたし滅茶苦茶頑張っちゃったよ!
 グーエンは獣化すると倍以上の大きさになるから、毛玉も大きくなっちゃってね、わたしはそれはそれは大変な苦労をしたのよ。
 獣化したグーエンの上にまたがって、丁寧にブラシをかけて毛をかごに入れての繰り返しだったんだよね。
 
「ヒナが一心不乱にタコヤキのピックで毛をドスドス突きまくるので……私は、ヒナに何かしてしまったかと、少し心配しました」
「丸くして形を作るのに、ニードルが無かったからね。でも、こうして可愛く三角耳のグーエン毛玉が出来たでしょ」

 我ながら可愛くできたと思うのよ。
 町の奥さんたちに聞いたら「手でギュッと丸めるのよー」と、言っていたのだけど……獣人の奥様方は力強い……!! 非力なわたしには小さな丸を作るだけで精一杯。
 だから、羊毛フエルトをうろ覚えで真似したわけですよ。結果的に上手にできたのでわたしは満足。

「さて、グーエン。一緒に玄関前に飾っちゃおうか」
「ええ。こちらも椅子は作りましたよ」

 このお祭りは、海辺に漂流した物も一緒に処分してしまおうということもあり、漂流物の流木で毛玉を飾る棚や椅子を作るの。
 椅子や棚は旦那さんが作るのが役目で、奥さんは毛玉を丸めて飾るのが役目。
 新婚のわたし達には、子供が居ないから、子供の成長を願う事が出来ないから、健康な子供を授かりますように……というお願いごとのようなもの。
 少し恥ずかしいけど、いつか生まれる子供の健康のためにも参加しないとね!

「玄関のここでいい?」
「もう少し前で。そこだと、ヒナが元気よくドアを開いたらぶつかりますよ」
「はぁーい。って、わたし、そんなに勢いよく開けないよ?」
「ヒナは元気が良いですから」

 流木で作った木の椅子の上に、わたしの作ったグーエン毛玉のオオカミだるまを置き、グーエンがかがみこんでわたしにキスをして、唇が離れるとお互いに目を細めて笑い合う。
 
「家に入りましょうか。何か冷たい物でも飲みましょう」
「そうだね。今日は七夕なので、飲み物も七夕らしいものにしたんだよ~」
「タナバタ?」
「そっ。七夕。星の王子様とお姫様が年に一回、この日に会える日で、星に願いをすると叶う日って、わたしの国ではお伽噺とぎばなしがあるの」 

 正確には、織姫は神様の娘で彦星はただの若者だけどね。
 働き者の二人が結婚した途端に全く働かなくなって、怒った神様が二人の間に天の川を作って引き離してしまうのだけど、二人のあまりの嘆きように……前よりも真面目に働くなら一年に一回合わせてあげても良いよって話である。
 元々働き者なのに、前より真面目に働くってブラック企業も真っ青だね! と、わたしは思うけど……
 まぁ、そんな働き者の二人にあやかって「物事が上達しますように」と、願いを短冊に掛けたりするのよね。
 グーエンにその話をかいつまんで話してみた。

「私は、オリヒメとヒコボシの気持ちがわかってしまいますね」
「そう?」
「ヒナと結婚してから、仕事せずにヒナと一緒に居たいぐらいですし」
「ふふーっ。だから、職場を一緒にしたでしょ」
「一緒といっても、ヒナは食堂で、私は見回りや別の階で業務ですから……」
「こうして家では一緒なのだから、ワガママはダメだよ。ねっ、グーエン」

 冷蔵庫から冷たくひやしたジャラハニーを取り出す。

 『七夕・ジャラハニー』

キウイフルーツ・ライム・炭酸水・ジャラハニー(ユーカリの花からとれたハチミツなのだけど、異世界なので、似たハチミツを代用。濃厚でコクのある滑らかなハチミツだよ)ミント・氷

ライムを横半分に切り、残りはスライスにします。
ボウルにジャラハニーを入れて、ライムを絞りいれる。
輪切りにしたライムを四枚ほど残して、あとは一緒にボウルに入れて、ミントと一緒に麺棒で軽く潰す。
皮ごとやっちゃってね。

長いグラスに、潰したボウルの中身を均等に淹れていき、氷を入れ、グラスの内側から輪切りにしたライムを見栄えよく張り付けて、炭酸水を注ぐ。

そして最後に星型に切ったキウイフルーツを飾り入れたら、完成。

「ん~っ、ノンアルコールだけど、お酒気分!」
「清涼感のある飲み物ですね」
「星の形のキウイフルーツが七夕っぽくて良いかな? お願い事を星に掛けて食べちゃってね」
「そうですねぇ……」

 グーエンが目を少し伏せてから、キウイフルーツを口に入れる。
 わたしも願い事は何にしようかな? と思いつつ、やっぱり、グーエンが怪我しないように……かな? と願いを決める。
 グーエンは隊長さんだし、荒事の多い獣人国では怪我も多いからね。
 健康に怪我無く過ごしていってほしい。

「ヒナは何をお願いしたのですか?」
「それはやっぱり、グーエンが怪我をしないで、お家に帰ってこれるようにだよ」
「ありがとうございます。ヒナの為にも、無事に帰ってくるようにします」

 わたしの手を取って、チュッと甲に唇をつける。
 うーん。顔が良いから、この相手がわたしでなければ、とても絵になるシーンなのでは!?
 写真でパシャパシャ撮ってしまいたいぐらい! 惜しい! わたしが美少女! とか、だったら良かったのだけどねー。基本、わたしは元気が取り柄だけの、どこにでもいる平凡な地味顔なのよね。

「グーエンのお願い事は?」
「毛玉祭りと同じです」
「毛玉祭りと同じ……健康?」
「いえ、子供が健康に生まれてきますように。ですね」
「はぅあっ!」

 確かにね、子供は欲しいけど……そんな流し目で言わないで~!!
 そして、手を放してぇー! ああ、またキスをしないでー!
 グーエンと結婚するまで男女のあれそれには耐性の無い地味っこなのにぃ! というか、グーエンもわたしに会うまで女性とは付き合ったことが無いのに、どうしてお姫様のような扱いをわたしに流れるようにするのー!

「ヒナ。タナバタですし、願い事、叶うと良いですよね」
「ハイ。ソウデスネ」
「では、早速、健康な子供が生まれるように……ね?」
「ヒャッ!」

 グーエンに首筋にキスをされて甘噛みされ、わたしはあれよあれよという間に、ベッドに連れていかれてしまったのは言うまでも無く……わたしは思った。
 七夕のお願いは、わたしの体力増加をお願いすべきだったと……
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