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2章

あれから……

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 ヴインダム王国に本来の王様が戻ったという事で、国中が大騒ぎになっていた。
元々、王弟派と国王派に分裂していて、王弟派が八割、国王派が二割という感じだった。
そこへ、不遇の王族イクシオンが王として王座に就き、王弟派は国王派をいつでも一網打尽に出来るように用意をしていたらしく、イクシオンが王になったという一報が入ったと同時に不正現場を押さえられたりと、そこそこの数の貴族や商人が捕まったそうだ。

 エルファーレン王太子……元、王太子かな?
彼は、あの日、私達が動きやすい様に、国王専属の軍と騎士が動けない様に裏で画策していてくれたらしい。
だからこそ、あの場に来るのが遅れ、父親が他国の王にまで刃を向けた事を止められなかった。
一応、これに関しては、各国の王族が不問にしてくれてはいるが、実のところ、ただ単に弱みを他国に握られたというような状態でもある。

 エルファーレンは、今まで父親に代わって王になる準備をしていただけあり、政務や人材に関しては完璧で、今はイクシオンの補佐官として動いてもらっている。

 お父さんは姫ちゃんの出産で自宅へ飛んで帰り、無事に出産に間に合って、四匹の子犬のお世話で引き籠っている。
愛犬家にお父さんはなってしまったようで、姫ちゃんがガルガル言うなら判るんだけど、お父さんが子犬を手放さずガルガルいう感じだ。
ちなみにボン助は、まだ子犬に会うのは早いという事で出禁を食らい、私と一緒に過ごしている。

「ボン助や、ボン助も子犬見たいよねぇ」
「ワン……」
「落ち込むんじゃない。ボン助はパパになったんだから、ね?」
「ワフーン……」

 私はボン助の頭を撫でて、三月の少し肌寒いけれど、日光に当たっていれば温かい、微妙な季節感を肌で感じで河原の大きめの岩の上で寝転んでいる。

「ハァー……森はやっぱり良いよねぇ」
「ワン」
「イクス、今頃何してるかなー?」

 多分今頃、獅子族軍の隠しアジトが、イクシオンの手で壊滅状態にされている頃だと思う。
獅子族の人達は、男性よりも女性が強くてね、最後まで抵抗を続けていたのは女性陣で、隠れアジトに夫や息子を逃がして、王国軍と戦っていたんだよ。
ライオンのメスはメス同士でオスの為に狩りをしたり、子供を育てたりするだけあって、獅子族の女性陣は統率のとれた軍人という感じらしい。

 前王の王妃様も獅子族で抵抗が凄かったらしいしね。
エルファーレンが説得に説得を重ねて、ようやく王宮から出ていって、今はエルファーレンが所持することを許されたお屋敷に移り住んでいる。

 ちなみに私は、獅子族の軍部が全員捕まえられるまでは身を隠しておけるようにと、賢者の森に居るわけですよ。
『神子』とはいえ、私はひ弱な人間なわけで、狙われたら一溜りもないからね。

「ワオーン!」
「あっ、デンちゃーん!」
「ワンワンッ!」
「ワフッ!」

 デンちゃんが上機嫌で、捕まえた鳥を見せに来てくれる。
今回も立派な鳥が獲れたようだ。太股のナイフホルダーからナイフを出して、スパンッと首を落とし、蔓で鳥の足を縛って木に吊り下げる。
首を落としても、ナイフの切れ味が良いから、鳥は大暴れ中なわけで、血が飛び散りまくる為に、私達は一時撤退をする。

「血抜きが終わったら、お鍋で鳥を茹でないとね。今日のオヤツは鶏肉よー!」
「ワオーン!」
「ワン!」

 小屋に戻ってお鍋を持って、再び川に行き焚火を準備する。
既に鳥はご臨終して動かない。そろそろ鳥を茹でますかね。やっぱり私はこうしたサバイバル生活が丁度いいわ~。

「ヴァンハローで暮らしてたけど、森にはなかなか来れなかったしねー」

 ヴァンハロー領に移住した貴族は、イクシオンが王都へ戻った事もあり、王都に戻る人も居れば、ヴァンハロー領ののんびりした暮らしに慣れて、そのまま余生をヴァンハローで過ごすという人、まちまちである。

 お屋敷の人達も同じような感じで、ついてくる人とそのままお屋敷に居る人の二手に分かれた。
まぁ、半分の原因は私である。
私が色々起こした事業が、順調に業績を伸ばしているので、他国にも売り出しを開始することもあり、拠点はヴァンハローのあのお屋敷で、仕事を手伝ってくれるのはヴァンハロー領の住民達なので、領を挙げての事業ともいえる。

 ビブロースさんとチェチェリンさんはヴァンハローのお屋敷に残る組で、チェチェリンさんにパンツやブラに、ネッククーラーは一任した感じである。
蜂蜜の巣を使った蜜蝋の化粧品等も、ヴァンハロー領に残ったメイドの子に頼んである。
スナップボタンとジッパーは工場を建てたので、そこに一任してある。

 ゼキキノコとかモギア草はお父さんが薬師『ネギ』で売ってくれているし、私は何か思いついた商品を、王宮についてきた組のアンゾロさんとアーデルカさんとメイミーに言って、企画が通るかどうかという、商品開発者になっている。

「さて、鳥を三分茹でます!!」

 鳥をドボンとお鍋の中に入れて、むしりやすい様にぐるぐる回していたら、いつもなら美味しい匂いと感じる匂いが生臭く気持ち悪い。

「おえぇー……気持ち悪い……」

 しかし、早くむしらないといけない。
手袋をして、羽をブチブチむしり、たまに気持ち悪さに吐き戻しつつ、鶏肉っぽい見た目になったのは20分くらい掛かった。
いつもはもっとパパッとむしれるんだけどね。

 ナイフで内臓を取り出して、川でザブザブ洗っていると、やはり鶏肉の匂いで気持ち悪さがピークである。

「うぇぇ~……気持ち悪い。もぉー駄目……」

 フラフラしながら岩の上に仰向けになって目を閉じると、太陽の日差しで瞼の裏は赤く見える。
フッと暗くなって目を開けると、イクシオンが顔を覗き込んでいた。

「リト、大丈夫か? 少し薄着すぎないか? 川なんて危ないだろう」
「あー……イクス、おかえり」

 心配そうな顔をして、私に着ている上着を掛ける。
うーん、熱いし、重いよこの上着……

「ただいま。リト、肉を捌いておけばいいのか?」
「あ、うん。骨を抜こうと思ってて……そしたら、匂いで気持ち悪くて」
「後はやっておくから、先にデンと帰っておくかい?」
「ううん。イクス、ごめんね。獅子族のアジトの帰りでしょ?」
「気にするな。どうせ、後はエルファーレンが事後処理するだろうしな」

 エルファーレンもコキ使われてるけど、彼は王を目指す事を諦めてからは、憑き物が落ちた様に生き生きとしているから、ワーカーホリック気味。でも、楽しそうに過ごしている。
付き合わされている、元・お付きのデイルとラッドにパムネリーさんは今もエルファーレンの手足という感じで一緒にコキ使われているから、休む暇なしという感じかな?
今頃文句言ってそうだけど。

「リト、体調はどうだ? 変わりないか?」
「もぉー、心配性だなぁ。大丈夫だよ」
「一人の体じゃないんだから、無理はしないでくれ」
「はいはい。でもね、まだ妊娠初期だから、動けるうちに動いておかないと、出産の時に運動不足で難産になりたくないし……」
「初期だから、安静にしていて欲しいんだ。まったく」

 うーん。イクシオンがとてもガミガミ魔なので、私は少し耳を塞ぎたい。
いやぁ~、実は私、妊娠しました。
あれだけ毎日のようにしていたから、可能性はゼロでは無かったし、危険日に子作りもしてたからね。
計画的な子作り!! まぁ、まだ二ヶ月だから、つわりが酷いだけなんだけど。
お腹もまだぺたんこだしね。
少し、もにっとしてるのは……ウィリアムさんの作ってくれるご飯が美味しいからだよ!
くぅ~っ、ダイエットしたいけど、今は激しい運動は出来ないし、食べなきゃ駄目だし、どうにもならない。

「骨は取り終わったが、これをどうするんだ?」
「デンちゃんとボン助のオヤツだよ」
「なら、簡単に茹でて冷まして、与えれば良いか?」
「うん。あ……気持ちわるぃぃ~うぇぇ~」
「リトッ! もう戻ろう!」
「でも、お肉が―……」
「持ち帰って、城で調理させるから、もう戻るぞ」
「うぇー……」

 黄金の書をイクシオンが使い、デンちゃんとボン助と一緒にお城の寝室に連れ帰られた。
もう少し自由を満喫したかったんだけどなぁ……

「イクシオン陛下、お帰りなさいませ」
「アーデルカ、リトが悪阻で辛い様で、ボンスケとデンに鳥肉をあげられないと嘆く、これを二匹に食べさせるように言っておいてくれ」
「畏まりました」

 アーデルカさんにお肉を渡して、デンちゃんとボン助がアーデルカさんを追って出ていく。
イクシオンに洗面台まで連れて行って貰って、手を洗って口をゆすいで、ベッドに横にさせてもらう。

「うーん……ぐるぐるするー」
「よしよし、もう少しの辛抱だからな」

 少しって……多分、少しじゃない気がする―……
でも、イクシオンが幸せそうに笑って、少しだけ困った顔をしているから、我慢しておこう。

「イクス、幸せ?」
「ああ。凄く幸せだよ。まぁ、多少忙しくはなったけどな」
「ふふっ、子供が生まれたらもっと大変だよ?」
「それは大変なうちに入らない。リトが二人居ると思えばいいからね」
「それは、どういう意味かなぁ? このこの~」

 イクシオンのお腹にパンチを繰り出しつつ、おでこにキスを落とされて幸せを噛みしめる。イクシオンの尻尾を触って、モフモフ感とサラサラ感を同時に味わえる至福の時を過ごす。まさに贅沢モフモフ時間。

 十三歳の時に召喚されて、一人サバイバルを強いられ、やさぐれつつも何とか生き延びて、こうして理想の旦那様と一緒に生きている事、ある意味、奇跡だと思う。

「リト、愛してるよ」
「私も、同じだよ」

 交わした唇の熱に胸がきゅんとして、まだまだイクシオンに私は惚れる気なのか!
うーん。ヤバい。これ以上は、メロメロになれない~ッ。
惚れてるのに、これ以上惚れるとか!! 
私の溺愛っぷりは止まらないみたいだ……


                      Fin
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