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2章

ゴシップ記事とリト

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 鬼の形相__と、言うのが表現するとしたら、目の前のアーデルカさんとアンゾロさんの顔がそうなのかもしれない。
 私は庭で公爵夫人らしからぬ、焚火をしてビルズ芋を焼いていたわけで……もくもく上がる煙に驚いたのだろう。
見付からない様に裏庭でビブロースさんと一緒に枯葉を集めていたのだけど、バレてしまったらしい。

「リト様……」
「はいッ!」

 ビシッと垂直に体を強張らせ、怒られる体制を取ったけど、アーデルカさんに手渡されたのは新聞だった。
おや? どうやら芋は新聞紙に包んでお食べなさい。という、親切だった。
なんだ、良かったーと、ホッとして胸を撫でおろして、新聞を貰い頭を下げておく。

「他の者から何を言われても、お気になさらないで下さい」
「はい……? よく分からないけど、ありがとうございます?」
「……我々は情報を確認してまいりますから、どうか出ていかれる事の無い様にお願いいたします」
「はぁーい」

 二人は少しだけ眉を下げてから、きびすを返してお屋敷の中へと戻ってしまう。
うーん。周りの領民に『あそこの奥さん、庭で芋焼いてるぜ。公爵家は実は極貧生活なのか?』とか噂をされていないかを調べるってことかな?
流石に、森でこれをやった方が良かったかな……でも、そろそろイクシオンが帰って来るから待って居たいからお屋敷に居たいんだよね。だから、忠告しなくても、私はここに居るつもりである。

「お芋焼けたかなー?」

 枝で中に放り込んだビルズ芋をプスプス刺して、食べごろの突き刺し具合にニマ~ッと笑って、貰った新聞紙にビルズ芋を包んで、お芋の皮をぺりぺりと剥がし、あーんっと一口齧りつく。
ジャガイモに似た食感とサツマイモの様な甘さ。
ここにバターを載せたら……甘じょっぱさの奇跡の味が出来上がるのでは!?
ホクホクで熱々のうちにバターを載ってけてしまいたいっ!!

 もぐもぐと少し食べつつ、厨房へ向かっているとメイドさん達の近付く足音に、ヤバいッ!食べ歩きはお行儀が悪いって怒られるっ!! 飲み込め! 飲み込んで証拠隠滅するのよ! 私頑張れ!!

「んぐっ!! ウッ……うぐぐっ!!」

 急いで食べたせいで、熱いわ喉に詰まるわで、手で口を押えながら涙目でダッシュして、メイドさん達の前を爆走する公爵夫人……我ながら無いわーって思う。
お芋を咥えて歩くのと、ダッシュで駆けていくの、どっちがマシなのか……?

「プハーッ、死ぬかと思った……」

 水を飲んで、ホッと一息ついてから、厨房からバターの入った茶色の壺から小皿にバターを取り分けて、再び裏庭へ。
実は、まだお芋は焼いているのよ。ふっふっふっ。

「あ、火が消えちゃいそう……新聞、火種にしちゃえ」

 私が新聞紙を燃やしていると、ビブロースさんがやってきて追加の枯葉を掛けてくれた。
ビブロースさんと一緒に芋をおやつに、食べていると……何かの業者さんが来て、ビブロースさんが私を手招きした。

「イクシオン殿下が、燻製機を送ってきた。何処に置きますか?」
「えーっ! 本当!? わぁ、嬉しいっ!! どこが良いかな? んーっ、煙が出るならやっぱり、裏庭かな?」

 業者さんに運んでもらった燻製機は私が丸ごと入るぐらいの大きさで、銅製の物を周りにレンガを固めて頑丈に作ってくれるらしく、お芋焼きの場所は邪魔になるので、芋を回収して水をバサーッと焚火にかけると煙がボフンッとあがり、咳き込みながら退散した。

「大丈夫ですか? リト様」
「ケフッ、煙たいねー、ケホッ」
「顔に すすがついてます」

 ビブロースさんがズボンのポケットからハンカチを出して、私の顔を拭いてくれてくれて……ビブロースさんはお兄さんっぽい世話焼きだなって、思ったら、ビブロースさんって妹さんが四人もいるという。
ちなみに、お兄さんも三人居るのだとか……後妻さんとかでもなく、正真正銘お母さんが一人で八人産んだというのだから、ビックリだよね。

「リト様……イクシオン殿下が、戻られたそうです」

 おずおずとメイドさんがそう言って、いつもの元気の良いメイドさん達にしては耳がぺしゃっとしていて、もしかしてイクシオンに何かあったんだろうか?
胸がドクンと嫌な予感で騒がしくなって、足元から血が下がってしまった感覚だった。

「っ、リト様! お顔が真っ青です!」
「大丈夫ですか!?」
「だい、じょーぶ……です」

 小さくカタカタと歯がなって、涙がぽろぽろ溢れだすと、メイドさん達に連れられて部屋の方へ戻された。

「イクスを、出迎えに、行かなきゃ……」
「駄目ですッ! 少しお休みください」
「大丈夫、だよ……ぐすっ」
「お可哀想に……ッ」

 メイドさんにギュッと抱かれて、イクシオンは……どんな状態なのか、悪い予感だけが頭をぐるぐると過っていく。
心臓がキューッと、痛くなって目の前が真っ暗になると、私は意識が遠のいていった。
メイドさん達の悲鳴のような声が凄く遠くで聞こえた気がした。
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