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2章

続きは帰ってきてから

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 あの冬の日からこちらでは三ヶ月経った『聖域の森』に私はデンちゃんに乗って、ゲッちゃんとボン助を連れて戻ってきた。
雪もすっかり溶けきって、新緑の眩しい緑の森になり、私はその中でマイ包丁『熊吉』と魔法の武器の杖や斧を探して歩いている。

「ゲキョー」
「ゲッちゃんあったー?」
「ゲキョキョー」

 くるくると旋回するゲッちゃんの所に走って、周りの草を掻き分けて氷色に光るファンシーな熊の包丁を見付けた。
少し離れた所に鞘も落ちていて、「良かったー」と土を布巾で拭き取り、包丁の回収をした。

「ウー、ウウゥ」
「ムーフー、ウー」

 ボン助とデンちゃんが魔法の杖を二匹で口に咥え、私の方へ持ってきながらも、お互いに自分が持って行くのだと引っ張り合いをしながら走って来る。
デンちゃんはボン助に合わせて、柴犬サイズになってくれているので、最近は一緒にじゃれて遊ぶことも多くなった。
まぁ、ボン助は先輩風を吹かせまわってるけどね。

「ボン助、デンちゃん、二匹ともお利口さん。ありがとうねー」
「ワンッ!」
「ワフッ!」

 二匹とも尻尾がちぎれるんじゃないかって位の振り様に、可愛いなぁとナデナデと両手で一匹ずつ撫でる。
ヴァンハローのお屋敷でいい物食べさせて貰っているから、毛艶も良くなっちゃっている。触り心地満点のモフモフちゃん達である!

「ゲキョ」
「ゲッちゃん、斧も回収したらお家に帰ろうか」
「ゲキョキョ」
「ワンッ! ワンワンッ!」
「ワフーン!」

 皆、お喋りで嬉しそうに声を出すから、やっぱり森に来てよかった。
包丁の事とかは気になってはいたんだけど、結婚式とかドレス選びとか色々あって、少しお屋敷でする事が多かったから、なかなか帰る事が出来ないでいたんだよね。

 私がここの世界だと、去年の秋口から冬にかけてゼキキノコの飲み薬を、流しの薬師としてイクシオンに融通した事で、王様がイクシオンの功績として宴を開くとかで、大型魔獣の討伐についての褒美も出すとか何とか……胡散臭うさんくさいことを言ってイクシオンを呼んでいるらしい。

 イクシオンは「大方、家臣や国民にゼキキノコの事で責め立てられて、オレに何か褒美でもやらないと収まらなくなったんだろう」と言っていた。
そして、イクシオンがヴァンハロー領に居ない間に、私に何かあっては心配だからと、森に一時的に帰る様に言われて、こうして森に帰ってきた。

「あっ、斧見っけ―」

 全ての武器を回収して、小屋に久々に戻ると、カバンから赤黒い液体の入った小瓶を四本出す。
まずはゲッちゃん、次にデンちゃん、ボン助、そしてイクシオンの血。
小さな筆で『鴨』とドアの内側に書いていき、ドアが光ると、これで聖域の森とこの小屋への出入りは登録された。
今回はイクシオンに黄金の本を持って行って貰っているから、それを使ってここに出てこれるはずだ。
王様には白く濁った玉の偽物を提出するから、ヴァンハローのお屋敷の書斎に本物の玉は置いてある。
帰りは玉の所へ出るはずだ。
まぁ、玉が無くても、行ったことのある場所に本を持っていれば行けるから、玉にこだわりはそれ程ない。

「あの日のままだねー」

 テーブルの上の地図を見れば、イクシオンが王都へ向かって動いているのが分かる。
結構進んだみたいだ。早馬で二日の距離だからかなり飛ばして行っているみたいで、王都までこのままなら次の日の朝には着きそうだ。

 ここにイクシオンが来るのも早い気がする。
王都に行く前に「続きは帰ってきてから」と、言われた事が頭を過って、頬がポッと赤くなる。

 ◇◇◇◇

 アーデルカさんの目を盗んで、夜イクシオンが私の部屋を訪ねてきた。
窓の外からというオマケ付きだけど。「危ないよ?」と言うと、イクシオンは苦笑いして窓から部屋に入ってきた。

「リトと普通に話をする事も、アーデルカ達に防がれているからね」
「そうだねー、イクシオンがこのお屋敷の当主なのにね。ふふふっ」
 
 お互いに笑って、イクシオンが私を抱きしめる。
心臓がドキドキしていたけど、顔が近付いて吐息がお互い判るくらいになって、目を閉じると唇が触れあって、ガチガチに緊張していた私は歯をぐっと閉じていて、イクシオンが私の頬を指で小さくくすぐり、「ひゃっ」と小さく声をあげると、合わさる唇が角度を変えて繰り返された。

「んっ、ぁ、ふ……んっ」

 緊張しているのと息継ぎのタイミングが分からずに、少し酸欠気味な私は息が上がって、鼻の奥から甘い声が漏れていく。
こんな声が自分の口から途切れ途切れ出るのも恥ずかしいけど、こういう時、声って出して良いのか、出さないのかも分からない。
マンガではどうだった? ああ、分からない。閨教育でもそこら辺教えといてくださいっ!
こっちは初心者! 分からない事だらけの若葉マークだよ~っ!!

「ぁ、ん……っ、ぁ」
「……はぁ、リトをこのまま攫って閉じ込めたい」
「ふぁ? さらう?」
「式までは、肌に傷一つ付けるなと、アーデルカがうるさいからな。ここまでが限界なのが、悔しいな」
「はぁ、んっ、息が、もぉ……続かない……はぁ、ふぅ」

 顔が離れて、息が吸えるようになると、くたっとイクシオンの胸に寄り掛かる。
キスでここまで体力とは違う何かが消耗されるなんて……驚き。
イクシオンに抱きしめられたまま、はぁはぁと息を繰り返すだけで精一杯。キスってこんなに凄い物だったっけ?

「リト、明日からしばらく離れることになる」
「うん、王都……気を付けて行ってね」
「ああ。リトは心配だから森に戻っておいて」
「ここでも、待ってられるよ……はふっ」

 イクシオンにまた唇を重ねられて、力が抜けそうになる。

「こんな可愛い姿のリトをオレが居ない間に、誰かが見てるのが嫌なんだ」

 甘い。イクシオンが甘いよ~っ、ひぇぇ~っ。
目を細めたイクシオンに、「わかった?」と囁かれて、コクリと頷くと、もう一度キスされていた。

「安全面も考えて、リトは森で過ごしておいてくれ。流石に式の準備はもう疲れただろうしな」

 そこら辺はもうお疲れ様過ぎて、ドレスも選んだし、食事も選んだし、私はもう必要ない気もするんだよね。
式はヴァンハロー領の人達だけで行う感じで、少しだけ、王弟派の重要な人物だけを呼ぶらしい。
今は日程合わせをしている段階だからね。

「久々に森でリトらしく過ごしてくるといい。オレも兄との話が終わればすぐ行くから」
「あ、黄金の本持って行く? 小屋に血で契約しておけば、森に出入り出来るって、お祖父ちゃんが言ってたよ」
「じゃあ、そうさせてもらう」
「ふふ、来るのを小屋で待ってるね?」
「ああ。ついでに、この続きは帰ってきてからしよう」
「え……んっんっ」

 最後にまた唇が塞がれて、息切れ酸欠状態の私は目を回して、気付いたらベッドの上で寝ていたという……
ううっ、十八歳になって数日で、大人の階段を上らされた気分だけど、キスって、一番初めの段階なんだっけ?
これの続きって? これ以上って……無理ぃ~っ!! と、心の中で大騒ぎしつつも、朝早くに王都に向かったイクシオンに「いってらっしゃい」と、言った時にキュッと胸が痛くなって、少しだけイクシオンの服の袖を掴んでしまったのは内緒。

 イクシオンが出て行って、私も直ぐに森へと移動して、今現在、ここに居るという訳です。
続きって、本当に何なんだろう? キス以上はアーデルカさんに怒られそうだし、ううっ、心臓がドキドキしすぎて顔から火が出そう……
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