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2章

黄金の本

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 魔導書……?
転移って、もしかして……この世界からあちらへの転移魔法だろうか?

「『行きは書を もちい、帰りは ぎょくを旗にせよ』……意味がわかんなーい!」

 この魔導書、もっと説明の仕方は無いんかーい! と、 めくってみても、説明はこれだけ!
あの小憎らしい氷のトカゲめ……、落としたアイテムも小憎らしいのだけどー!?

「うーん。行きの書はこの本だとして、帰りの玉…‥‥この本の丸い窪みに玉があるとしたら、あの日、イクスの所に玉が落ちたかもしれない……かなぁ?」

 氷の包丁の鞘のように、玉も出たかもしれない。
しかし、そうなると『旗』っていうのが分かんないんだよねー……
玉を旗? ううむ、分からない。

「李都ー! 書斎の棚を入れたなら、そろそろご飯を作らないと、今日はお祖父ちゃんも来るのよー!」
「はぁーい! 直ぐやるよー!」

 仕方がない。考えるのは後にして、本を先に片付けてしまおう。
黄金の書だけ別にして、後は適当に本棚に入れて行き、何故か、本棚にキチンと入っていたはずの本が、新しい本棚にも入れないと収納出来ないって、おかしくない? と、私は首を捻る。

「やれやれ、まぁいいか」

 黄金の書を手に、自分の部屋に持って行き、下着を入れている場所へ隠す。
ここならお父さんも手が出せまい。娘の下着入れを漁る父親はまず居ないだろう。ふはは。

 まぁ、なんでお父さんがあんな風に本を隠してたのか気になるけど、お父さんは本の虫だから、こういう本をじっくり見たかったのかもしれないけど、『神隠し』とか言われている娘の物を隠すあたり、この本が関係あるとか思ったのかもしれないしね。

「さーて、今日の夕飯作らなきゃなぁ。何にしよう?」

 トントントンと階段を下りていくと、丁度お祖父ちゃんが来たようで、ボン助が「ワンワン!」と元気な声を上げている。

「お祖父ちゃん、いらっしゃーい!」
「李都、またそんな格好してると腹壊すぞ?」
「夏だから平気だよ~。早く来たんだね」
「丁度、スイカが出来たから、早めに持って行って冷やして、夕飯に出せば良いだろうと思ってな」
「わぁーい。スイカだ~」

 お祖父ちゃんからスイカを貰い、リビングを通ってキッチンに行くと、お母さんが渋い顔をしていた。

「李都、その恰好は駄目! もう、ちゃんと服を着なさい!」
「上着きたのにぃ~」
「お祖父ちゃんの前で、みっともない恰好しないの!」

 お母さんは、お祖父ちゃんが苦手なんだよね。
お祖父ちゃんがその昔、目の前で猪の解体ショーをしたり、鶏を首切って庭にぶら下げたりしたから……こうして考えると、私はお祖父ちゃんの孫だなぁと思う。
スイカをお母さんに渡して、自分の部屋に再び戻り、シャツを脱いでから、上からワンピースを着てまたキッチンに戻る。

「お祖父ちゃん、何が食べたい?」
「何でも食うぞ。食べられない物なんて早々無いからな。いざとなりゃ、ボン助だって食っちまう」
「お祖父ちゃん、ボン助は私のモフモフ王国の住民だから駄目―」
「まぁ、ボン助食うより、李都が美味いもん食わしてくれる方が、祖父ちゃんも幸せだな」
「よーし、じゃあ、お祖父ちゃんのお腹を唸らせる一品を作らなきゃね」

 冷蔵庫を開けて、自作のスモークベーコンを取り出し、しめじとほうれん草と玉ねぎと卵にチーズを取り出す。
あっ、牛乳も必要。あと食パン!
今日のメニューは簡単パンでキッシュ!

 作り方は普通のキッシュと変わらないんだけど、パイ生地やクッキー生地ではない、食パンを使った時間短縮キッシュ!
スモークベーコン、ほうれん草、玉ねぎをざく切りにして、しめじは食べやすい大きさにカット。
食パンを耳を残して白い部分を四角く切り取り、四角く取れたら、麺棒で伸ばして広げてを6枚分して、耐熱容器にバターを塗った上に広げたパンを敷き詰めます。
ベーコンとかを軽く炒めて、卵牛乳チーズに塩コショウを入れて混ぜて、そこへ、炒めたベーコンとかを混ぜて、食パンの上に流し込む。余ったパンの耳はちぎって、外側に壁になるように入れていって、後はオーブンでニ十分くらい焼き上げれば、簡単な上に、カロリーを抑えたキッシュの出来上がり!

「あ、李都。手抜きキッシュにしたの? お母さんクッキー生地が良かった~」
「駄目。お母さん、後になって『あの時、李都が体重の増える様な物作るから』って、絶対言うもん」
「だって、美味しい物とカロリーは切っても切り離せないんだもの」
「だったら、体重の事言わないでよ~。こっちはお母さんのカロリー計算も視野に入れてるんだから」
「李都がお料理作り始めてから、お母さんは虐められてばっかり」
「苛めてないよ。ほら、お母さんキッチンに居ると邪魔だから、お祖父ちゃんがボン助食べないように見張ってて」

 お母さんをキッチンから追い出して、ここも簡単に温野菜でいこう。
ブロッコリー、かぼちゃ、ニンジン、キャベツ、ソーセージ。
材料はこんな感じで、食べやすい大きさに切って、耐熱容器にお水と一緒に入れて三分間電子レンジで温める。
あとは水を捨てて、上からドレッシングを掛ければオッケー。
ドレッシングは、味噌、しょうゆ、砂糖、ごま油、酢、すりおろしたニンニク、オリーブオイルを混ぜて作れば簡単に出来るよ。お好みで砕いたナッツを上に載せるのも良い。

「油もの欲しいかなー? お祖父ちゃん、コロッケと豚カツとエビフライ、どれがいい?」
「そうだなぁ、豚カツだな。そうすりゃ、ボン助の肉を食わずに済む」
「はーい。お祖父ちゃん、ボン助虐めてると練りからし鼻に突っ込むよー!」
 
 やれやれ、お祖父ちゃんは昔からボン助を食料に見るんだから、困ったものだ。
でも、ボン助はお祖父ちゃん大好きなんだよねー。
豚カツを準備して、油で揚げているとお父さんが帰宅してきた。

日都留ひづるさん、おかえりなさーい」
「ただいま。絵李香えりか
「おっ、日都留早かったなー」
「お父さん、おかえりー」

 少し小難しそうな顔をした、見た目は怖いけど、お母さんを溺愛している私のお父さん、鴨根かもね日都留のご帰還である。
こう見えて、とても甘党な可愛いお父さんだったりする。見た目は無表情っぽく見えるんだけどね。家族にはちゃんと表情の違いは判る物で、他の人からは「李都のパパ怖い!」とかよく言われたりする。大学でも生徒に「怖い先生」の一人に挙げられている。

 お父さんはお祖父ちゃんに顔は似てるけど、お祖父ちゃんは良く笑う人なので、お父さんも笑えば同じ顔になると思う。
お父さんの笑顔の基本は、少しだけ口角が上がるだけ。

「お父さん、昨日作ったプリン、食べ頃だよ~」
「そうか」

 うん。口の先が上がってるから、満面の笑みだよ!

「あ、お父さん。書斎片付けて棚のスペース開けてって言ったでしょー、もう、大変だったんだからね」
「もう作ったのか?」
「もっちのろん! 私のスケジュールは常に一杯だから、作れる物は一気に作っちゃうの」
「ありがとう。着替えるついでに見に行くよ」
「はぁーい。ご飯もうすぐだから、早めにねー」

 しっかり手作りの棚を見て、私を褒めるが良いのだ。ついでにお小遣いアップもしてくれると良い。
私が上機嫌で豚カツを揚げて、キャベツを千切りにしていたら、お父さんが着替えに行ったはずなのに、着替えないままリビングに戻ってきたのだった。
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