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1章
謁見 イクシオン視点
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気が重いというより、面倒くさいと思いつつ、謁見の間にガリュウを伴って入室する。
既にオレが生きていると報告はあっただろうに、呼び出すとは暇人め……
疑心暗鬼な兄の前に立つと、表情も感情も殺そうとしない兄は王座に座り、こちらを睨み鼻にしわを寄せている。
だから、会うのも嫌なら呼び出すなと言うのだ。
「兄上、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「ハッ、手配してやった治療師がよくやってくれたようだな」
「……兄上には手配して下さったこと、感謝しています」
治療師は来たが、オレ達がヴァンハロー領に戻って一週間してから、来たという。
随分と遅い派遣だ。どうせ、行かせない様に手を回していたのだろう。
まぁ、その頃にはオレはリトの所で看病されていたから、感謝ならリトに山ほど言いたいところだ。
口にしても、リトは首を横に振って『気にしないで! これは冬越えのお礼なんだから!』と、遠慮されてしまうのだが……兄にもリトの優しさの少しでもあれば、いや、リトの優しさは兄には勿体ないか。
「もう全快したのか?」
「はい。ご心配なく。この通りですので」
「ハッ、なら夏前の討伐もお前に任せる。精々、また怪我をしないことだな」
「心得ています。不覚はもう取りません」
「ハッ、もう良い、下がれ」
「失礼致します」
軽く会釈だけして、サッサと謁見室から出る。
相変わらず、嫌味しかない。「ハッ」と一々、鼻で笑わないと喋れないのか?
ガリュウが肩をすくめて首を横に振る。
たったこれだけの為に、人を二日も掛けて移動させて呼び出すなと……
「イクシオン叔父上、お久しぶりです」
「ああ、エルファーレンか。久しいな元気にしていたか?」
「はい。イクシオン叔父上が亡くなったと、聞かされた時は驚きましたが、お元気そうで何よりです。父上が悔しがっていたでしょうね」
クスクス笑う楽しそうな甥のエルファーレンは、兄に姿は似ているのに、性格は子供のようでいて、大人より物を考えている分別がある子である。
「オレは直ぐに領に戻らねばならないから、今度またゆっくり話そう」
「はい。あっ、ガリュウ叔父さんに少し話があるから貸してもらっていい?」
「なんだよ?」
「いいから、僕の部屋に来てよ」
強引にガリュウの腕を引っ張って、エルファーレンは王宮区へ消えていく。
気を使ってくれているのは有り難いが、気にする奴は居ないと思うんだがなぁ……
ガリュウが兄の従弟に当たる為に、オレの傍にガリュウが居ると監視されている……と、言われている。
まぁ、そんな事はガリュウの性格上、無理だとは思う。
「イクシオン殿下! やはり生きておられたんですね!」
「信じていましたよ! 絶対、ヴインダム王家の血筋が絶えたとは思っていませんでした!」
「ああ、お前達か。心配を掛けたな」
財政務官と宰相の二人組が声を掛けて駆け寄って来る。
昔、母に仕えていた家臣で、この城に多く、今もこの城に残っているのは兄が、この国で好き勝手しないように見張っている者達だ。
実質、この国は兄では無く、この家臣達が動かしている様な物で、軍事に関してだけは口出しが出来ない為に、唯一、兄が口を挟める軍事でオレをコキ使う事が出来る場でもある。
父の一族は軍事に携わっていた家系で、それだけは今も変わらない兄の唯一の力だ。
「殿下、お怪我はもう大丈夫ですか? 瀕死の重傷とお聞きしていましたが」
「ご無理をさせてまで、呼び寄せるなど……けしからん!」
「大丈夫だ。他の者達にも、心配ない様に言ってくれ」
「それは勿論! 殿下の無事を知れば、皆喜びます!」
「殿下が亡くなったと聞いた時は、暴動が起きそうになっていたのですよ?」
「暴動は止めてくれ。まったく、心配を掛けたオレも悪いが、お前達も死に急がないでくれ」
「殿下~っ」
母に仕えていた家臣達は涙もろいのか情に熱いのか、しがみ付いておいおい泣くのだから、困ったものだ。
こうした人々に守られて自分は生きてきたのだから、そこは母に感謝しなくてはいけない。
「二人共、またしばらく国から討伐で離れるが、お前達が居るから安心して任せられる。いつも通り、この国を頼んだぞ」
「はい、イクシオン殿下ご立派になられて……」
「怪我をしたばかりなのに、また討伐とは……この城と国は我々が守っておきますからご安心を」
決して、立派な事を言っているわけでは無く、彼等に押し付けているだけなのだが……王国を陰で支えている彼等は、王家の血筋に拘って、それに希望を持っているので、否定をすると面倒で放置しているのもある。
エルファーレンが王になれば、少しは今より彼等も、仕える王が出来て働きやすくなると思うが、まだ十五歳の少年に全てを任せるわけにもいかない。今しばらくは、半分はオレが引き受けておこう。
城を出て、城下を獣騎で走っていたら城下で、婦女子の喜びそうな菓子屋を見掛けて、リトが喜びそうだと、クッキーの入った大きな瓶とジェリービーンズの入った大きな瓶を買った。
店員に「贈り物ですか?」と聞かれ、「ああ。オレの大事な可愛い子に贈るんだ」と笑うと、過剰なぐらいの可愛いラッピングをされた。
屋敷に戻ったら、アーデルカやメイミー達に冷やかされそうだ。
「リトは今頃何をしているかな……」
リトの暮らす聖域の森の方を見れば、薄っすらと白いベールが天から掛かっている。
婚約紐は流石に兄の前では出来ないが、腕に巻きつけた黒い紐を見て、小さく笑う。
既にオレが生きていると報告はあっただろうに、呼び出すとは暇人め……
疑心暗鬼な兄の前に立つと、表情も感情も殺そうとしない兄は王座に座り、こちらを睨み鼻にしわを寄せている。
だから、会うのも嫌なら呼び出すなと言うのだ。
「兄上、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「ハッ、手配してやった治療師がよくやってくれたようだな」
「……兄上には手配して下さったこと、感謝しています」
治療師は来たが、オレ達がヴァンハロー領に戻って一週間してから、来たという。
随分と遅い派遣だ。どうせ、行かせない様に手を回していたのだろう。
まぁ、その頃にはオレはリトの所で看病されていたから、感謝ならリトに山ほど言いたいところだ。
口にしても、リトは首を横に振って『気にしないで! これは冬越えのお礼なんだから!』と、遠慮されてしまうのだが……兄にもリトの優しさの少しでもあれば、いや、リトの優しさは兄には勿体ないか。
「もう全快したのか?」
「はい。ご心配なく。この通りですので」
「ハッ、なら夏前の討伐もお前に任せる。精々、また怪我をしないことだな」
「心得ています。不覚はもう取りません」
「ハッ、もう良い、下がれ」
「失礼致します」
軽く会釈だけして、サッサと謁見室から出る。
相変わらず、嫌味しかない。「ハッ」と一々、鼻で笑わないと喋れないのか?
ガリュウが肩をすくめて首を横に振る。
たったこれだけの為に、人を二日も掛けて移動させて呼び出すなと……
「イクシオン叔父上、お久しぶりです」
「ああ、エルファーレンか。久しいな元気にしていたか?」
「はい。イクシオン叔父上が亡くなったと、聞かされた時は驚きましたが、お元気そうで何よりです。父上が悔しがっていたでしょうね」
クスクス笑う楽しそうな甥のエルファーレンは、兄に姿は似ているのに、性格は子供のようでいて、大人より物を考えている分別がある子である。
「オレは直ぐに領に戻らねばならないから、今度またゆっくり話そう」
「はい。あっ、ガリュウ叔父さんに少し話があるから貸してもらっていい?」
「なんだよ?」
「いいから、僕の部屋に来てよ」
強引にガリュウの腕を引っ張って、エルファーレンは王宮区へ消えていく。
気を使ってくれているのは有り難いが、気にする奴は居ないと思うんだがなぁ……
ガリュウが兄の従弟に当たる為に、オレの傍にガリュウが居ると監視されている……と、言われている。
まぁ、そんな事はガリュウの性格上、無理だとは思う。
「イクシオン殿下! やはり生きておられたんですね!」
「信じていましたよ! 絶対、ヴインダム王家の血筋が絶えたとは思っていませんでした!」
「ああ、お前達か。心配を掛けたな」
財政務官と宰相の二人組が声を掛けて駆け寄って来る。
昔、母に仕えていた家臣で、この城に多く、今もこの城に残っているのは兄が、この国で好き勝手しないように見張っている者達だ。
実質、この国は兄では無く、この家臣達が動かしている様な物で、軍事に関してだけは口出しが出来ない為に、唯一、兄が口を挟める軍事でオレをコキ使う事が出来る場でもある。
父の一族は軍事に携わっていた家系で、それだけは今も変わらない兄の唯一の力だ。
「殿下、お怪我はもう大丈夫ですか? 瀕死の重傷とお聞きしていましたが」
「ご無理をさせてまで、呼び寄せるなど……けしからん!」
「大丈夫だ。他の者達にも、心配ない様に言ってくれ」
「それは勿論! 殿下の無事を知れば、皆喜びます!」
「殿下が亡くなったと聞いた時は、暴動が起きそうになっていたのですよ?」
「暴動は止めてくれ。まったく、心配を掛けたオレも悪いが、お前達も死に急がないでくれ」
「殿下~っ」
母に仕えていた家臣達は涙もろいのか情に熱いのか、しがみ付いておいおい泣くのだから、困ったものだ。
こうした人々に守られて自分は生きてきたのだから、そこは母に感謝しなくてはいけない。
「二人共、またしばらく国から討伐で離れるが、お前達が居るから安心して任せられる。いつも通り、この国を頼んだぞ」
「はい、イクシオン殿下ご立派になられて……」
「怪我をしたばかりなのに、また討伐とは……この城と国は我々が守っておきますからご安心を」
決して、立派な事を言っているわけでは無く、彼等に押し付けているだけなのだが……王国を陰で支えている彼等は、王家の血筋に拘って、それに希望を持っているので、否定をすると面倒で放置しているのもある。
エルファーレンが王になれば、少しは今より彼等も、仕える王が出来て働きやすくなると思うが、まだ十五歳の少年に全てを任せるわけにもいかない。今しばらくは、半分はオレが引き受けておこう。
城を出て、城下を獣騎で走っていたら城下で、婦女子の喜びそうな菓子屋を見掛けて、リトが喜びそうだと、クッキーの入った大きな瓶とジェリービーンズの入った大きな瓶を買った。
店員に「贈り物ですか?」と聞かれ、「ああ。オレの大事な可愛い子に贈るんだ」と笑うと、過剰なぐらいの可愛いラッピングをされた。
屋敷に戻ったら、アーデルカやメイミー達に冷やかされそうだ。
「リトは今頃何をしているかな……」
リトの暮らす聖域の森の方を見れば、薄っすらと白いベールが天から掛かっている。
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