上 下
49 / 167
1章 

屋敷

しおりを挟む
 気分はお嬢様な鴨根かもね李都りと、十四歳です。
お風呂が……温泉の大浴場みたいなところで、ここでもやっぱり金の鹿の蛇口。
しかも巨大な鹿の口からお湯がザバーッと出ている。
この世界は鹿は蛇口の神様か何かなのかな?

 デンちゃんを先に丸洗いして、メイドさん達がデンちゃんを拭いてくれて、人に任せられるっていいなぁと、思ってたんだよね。
私は、久々のシャンプ―を念入りにしている最中……だったんだけど、戻ってきたメイドさん達に、髪も体も洗われたよ。
爪の間もブラシで綺麗にされて、ペンチの様な爪切りで綺麗に切り揃えられた。
足の指は自分でやるの大変だったから、そこは嬉しいけど、他人に洗われたり、爪を切られたりは疲れた……

 ようやくメイドさん達が浴室から出て行って、一人で大浴場を独り占め状態。
まぁ、体を洗われて疲れたから直ぐに出るけど、私には無理ぃー……
大浴場から出ると、メイドさん達が居た。
この後は、なにがあったか? それはもちろん、着替えをさせられて髪を梳かされてと、危うく意識が離脱する所だったよ。
イクシオン、こんな事されて育ったんだろうか?
本当にお坊ちゃんかもしれない。

 始めはドレスの様なのを着せられそうになったのを、何とかメイドさんと交渉して交渉しまくり、土下座寸前までの勢いで、可愛い丸い襟ぐりのシャツにハイウエストの長いスカートにしてもらった。
動きやすさを求めて、ズボンをお願いしたら却下され、久々のスカートになった。
群青色のロングスカートは銀糸で百合の花が刺繍されている。
靴は革で出来たブーツで少し踵が高い。髪も綺麗に切り揃えて貰って、ハーフアップにして群青色のリボンと、銀色のリボンを付けて貰った。

「うう……っ、森に帰りたい……」

 田舎者が都会にくるんじゃなかったっ!
確かに、ここもカントリーな感じではあるけど、西部劇の中の様なカントリーさで、森の中に比べたら全然都会だよ!
昔懐かしのアルプスの少女が、都会に出てきちゃったくらいだよ!?

 ヨタヨタしつつ、私に用意された部屋のベッドにボフンッと倒れ込む。
凄い柔らかさ……このまま眠ったら、きっと気持ちよさそう……

 イクシオンの『オレの番』発言から、何故か私はチヤホヤ状態を通り越して、お姫様の様な扱いを受けているのは何故なのか!?

「って、いうか……イクシオンは立派なお家もあるんだし、帰りは一人かな?」

 胸が少し痛い気もするけど、道は迷わないだろうし、帰れるし、またここにも一人でも来れるかな? デンちゃんが居れば道案内もしてくれるから大丈夫そう。
屋敷の人達があんなに喜んでるのに、森に帰るのは一週間以内とか言ってたけど、それは可哀想。
いや、荷物を届けたら、イクシオンはこの屋敷に帰るのかな?

 少しだけ、鼻の頭が痛くて涙がじわっと出たのを、枕に押し付けて拭いて「寂しくなんか、ないんだから」と、口に出した時点で、私は随分とイクシオンが一緒にいる生活が当たり前になり始めていたんだと思う。

 まぁ、誰だって、一人で半年以上も訳の分からない所で暮らして、やっと人が来たと思ったら、また別れて一人で暮らすって、寂しいのは当たり前。
うん。だから、私の寂しいは間違いじゃない。
 
 コンコンッと、ドアがノックされて「はい」と答えれば「失礼致します」とアーデルカさんのハッキリとした口調が聞こえ、部屋に入ってくる。

「リト様、イクシオン殿下の準備が出来ましたので、お迎えに上がりました」
「あ、はい。あの、様は要らないんですが……」
「いいえ、イクシオン殿下の番様に対して無礼があっては、ヴインダム国民の名がすたります」
「そんな……大袈裟な……」

 キリッとした顔で言われて、反論できずに大人しくリュックサックを持って出ようとしたら、「お持ち致します」と、アーデルカさんがリュックサックに手を伸ばす。

「あの、それ重いですよ?」
「まぁ、本当に重いですね。何が入っているのですか?」
「ガラス瓶に入った傷薬です。モギア草ってやつです。あとゼキキノコの乾燥させた物に、飲み水です」

 ガシッとアーデルカさんに両手で手を握られて、「まぁまぁまぁ!」と何だかズンズン顔を近付けられて、何事なの!? と、驚いて体が後退あとずさる。

「イクシオン殿下の部隊の方々に、そんな貴重な物をご用意するなんて……っ! やはりお小さくてもイクシオン殿下の番様なのですね!」
「え? あ、はぁ……」

 感動した! と、言わんばかりのアーデルカさんに「いや、それ売れるかなー? って持ってきたんです」とは言えなくなった。
 アーデルカさんについて行き、イクシオンの所にまで案内してもらうと、ビシッと群青色の詰襟を着て、髪も群青色の髪紐に黒い紐で結んである。
 お風呂に入って、綺麗さっぱりになったイクシオンのイケメン度が上がってる……?
いや、普通に周りに人が居るからビシッとしているのかな?

「リト、うん。その服、よく似合ってる。髪もいつもと違って新鮮だ」
「あ、はい。どうも?」

 おだてても何もでないよ? イクシオンの褒めちぎりには耐性少しはついてるからね?
 イクシオンにアーデルカさんがリュックサックを渡し、「リト様から部隊の方々への手土産ですので、くれぐれも慎重に」と、言われて、イクシオンが私を見て眉を下げて笑う。
あー、うん。そうだよー。アーデルカさんには敵わないから、部下の人にあげると良いよ?
私のお小遣いが……グスン。

「じゃあ、まずは買い物と思っていたけど、先に部下達の宿舎からでいいかい?」
「イクシオンにお任せします」

 イクシオンが私の髪を撫でて、「そうだな……」と言い、ニッコリする。

「こうして、婚約の証明を髪にしているのだし、イクスと愛称で呼んで?」
「うん? 婚約の証明?」
「髪に二本色紐やリボンをしているのは「婚約している」と周囲に分かりやすくする為だ。結婚前の男性は髪を伸ばして、結婚後に切る」
「それ、聞いてない……マジですかー……」

 異世界、分からないしきたりみたいなのが多い……誰か、私に異世界の常識を教えてプリーズ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

婚約の条件を『犬耳と尻尾あり』にしたところ、呪われた騎士団長様が名乗りを上げてきました

氷雨そら
恋愛
*3万文字くらいの完結済投稿です* 王立図書館で働く私に、毎日届く婚約の釣書。 祖父はどうしても私を結婚させたいらしい。 そこで私は、一芝居打つことにした。 「私、今まで言えなかったのですが、人と違う嗜好があるのです。それがない殿方にこの身を預けるなど、死んでも嫌です」 「……はあ。その嗜好とやらを言ってみなさい」 「……犬耳と尻尾が生えていない殿方と寝所をともにするなんて、死んでも嫌なのです!! あと、仕事を続けることを許してくれる方、というのはゆずれません!!」 けれど、私はこのとき想像もしなかった。 まさか、王国の英雄、騎士団長様が、犬耳と尻尾を生やして、私に婚約を申し込みに来るなんて。 *小説家になろう短編ランキング日間1位ありがとうございました*小説家になろうにも投稿しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...