上 下
45 / 167
1章 

街に行く準備をしよう

しおりを挟む
 ゲッちゃんの羽の色を染める為に、木で作った大きなお皿に、色の濃い花や木の実を採取しつつ、のんびりと散策してジャングルの中を、イクシオンとゲッちゃんとデンちゃんと歩く。

「この花はどうかな?」
「それなら色が濃いから良さそうだ。なるべく黄色をメインにしていこう。黄色に青なら割りと何処にでもいる鳥に見えるからな」

 スカイブルーに白い線の入ったゲッちゃんの体の白い部分を黄色く染めて、少しでも聖鳥とはわからないように染めるのである。
直ぐに落ちちゃうみたいだけど、一週間もしないで帰ってくるというし、予備を小瓶に入れて持って行くぐらいで良いかな? と思ってる。

「街に行くの、楽しみだね!」
「街と言っても、ヴァンハロー領に行くだけだけどな」

 私にとってはここ以外、というのが心躍るのだよ? それにヴァンハロー領は獣人の街らしいので、ケモ耳が! フサフサがいっぱいのパラダイスに違いない!!
期待しない訳が無い!!

「早く行きたいねー」
「今日中に備蓄庫の肉を平らげないとな」

 街に行く前に、備蓄庫の中身も少し片づけようという事で、ここ二、三日は食事の量が多い。
どうせ、ガラス瓶の中にあれば腐らないから良いと思うんだけど、新しい物を詰め込むのに、少しでもガラス瓶は開けておこうという話で……
明日にでも街には行けそうな勢いで順調に減っていっている。

 イクシオンが立ち止まると、複数の手に持っていた武器を地面に置く。
 
「リト、ここら辺で一度、試しても良いか?」
「うん。あんまり勢いよくやると大変だから気を付けてね? 軽くだよ」

 イクシオンが手に持っているのは私が愛用している魔法の斧。
どうやら、この世界では魔法の武器って少ないそうだ。
魔法自体は人は出せるけど、それ程の威力は無いらしく、魔法の武器というのは国宝級とかなんとか……
イクシオンに武器部屋の武器を見て貰ったところ、口を開いたまま呆然としていた。
どうやら、私の前に住んでいた賢者さんは魔法の武器をかなり貯め込んでいたみたい。

 イクシオンが試し切りしたいと言うので、何本か持ってきたのである。

「縦に振ったら上に飛んだから、上に向けると良いかも?」
「わかった。リトは危ないから少し下がっていろ」
「はーい。ゲッちゃん、デンちゃんこっちにおいでー」

 二人を自分の近くに呼び寄せて、斧を下から上に振り上げたイクシオンに「頑張れー」と声を掛ける。
シュンッと白い光が斧から上がり、空へと消えた。
相変わらず、この魔法の斧は景気よく上がる。

「どう? 結構便利で使ってたんだけど、どういう武器か分かった?」
「ああ、凄いな。感じからして使用者の力加減で威力が変わると言うのは、ブレイカーバスターに似ているかもしれない」
「ブレイカーバスター?」
「竜人の国にある魔法の武器で、斧の形をしているんだが、使用者が力を入れる程、攻撃された相手は力を失うと言われている斧で、殺傷力は無いのに無力化してくる……と、聞いたことがある。これはその逆という感じだな」
「じゃあ、もしかしたら、ここで賢者さんがお正月の魔獣を倒して、竜人の方でもお正月魔獣が倒されて、同じ様な双子の斧が出たのかもしれないね」

 私の包丁とイクシオンの所で出た包丁の鞘が同じ物だとしたら、何かしら繋がりはあるのかもしれない。
一応、鞘も魔法の武器らしいけど、効果がイマイチわからない為に二つを一つに合わせてみるつもりらしい。
包丁も効果は分からないしね。冷たく凍った物でも切れるくらいかな?

 次にイクシオンにお願いして杖もやってもらった。
杖に関しては私は中二病な発言をして終わったから、実は少し気になっていたのだ。

「目くらましの魔法で良いか……『リ・オム』」

 杖の先から空に向かいオレンジ色のデンちゃんサイズの炎が打ち上がり、まるで溜め込んだ炎が爆発する様に空に広がった。

「うわ……っ」
「ここまでの威力とは……」
「イクシオン、リオムってどういう意味?」
「火の玉という意味だ。あと、リで一回止める発音をする」

 なるほど、ここの世界の言葉じゃなかったから、ファイヤーボールが出なかったのか……
ファイヤーボールも火の玉だしね。つまり、この世界の言葉を覚えれば、私にも使えるのかも?

「イクシオン、杖貸して」
「リト、威力は小さい物でも大きく反映されるから、気を付けろ」
「はーい。イクシオン、回復ってここの世界では何て言うの?」
「回復は、レ・ミーフだ。レで一回止める発音だが、回復魔法というのは無いぞ?」
「えぇーっ、無いの?」
「あれば、オレも怪我なんてしてない」

 残念。こんなファンタジー世界なのに、回復魔法が無いなんて……回復魔法に少し夢見た私の気持ちを帰して欲しい。

 でも、確かに回復魔法があれば、イクシオンはあんな瀕死状態では無かっただろう。
イクシオンが元気になったのはモギア草のおかげ。
あの染みる薬草、実はすっごく高級品で、生えている場所がほとんど無いのだそうだ。
流石、賢者が暮らしていただけはある。
また摘み採って薬にしておかなきゃ! 備えあれば患いなし!

「ワオン!」
「うわっ、デンちゃん、これは食べ物じゃないのー!」
「ワフッ!」
「デン、待て。リトを困らせるな」
「クゥーン」

 手に持っていた花弁と木の実を漁っていたデンちゃんを、イクシオンが声を掛けただけで止めてくれたんだけど、デンちゃんはイクシオンの手下か!? というぐらいに言う事を聞いている。
イクシオンの話では私を守る守護獣じゃなかったのかな? おかしくない? 酷くない!?
 私が口を尖らせると、ゲッちゃんが揶揄う様に「ゲキョキョキョ」と鳴いて私の周りを飛びまわる。

「もぉー! ゲッちゃんもデンちゃんも覚悟しなさい!」
「ワフッ!」
「ゲキョキョー」
「待て―!」

 手に持っていたお皿を地面に置いて、私達が追いかけっこを始めて、ワァワァ騒いでいるのをイクシオンが目を細めて笑っている。
そんな姿をチラッと見て、胸がドキッとした。
空の下で見るイクシオンは、やっぱり大人の男の人で、なんだか、追いかけっこをしている私は、子供っぽいかな? とか、今まで意識しなかった、変に恥ずかしいと思う気持ちを誤魔化すように走った。

 この気持ちは、何だろう? これが『好き』の感情なら、困る……心臓がもたないよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

運命は、手に入れられなかったけれど

夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。 けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。 愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。 すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。 一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。 運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。 ※カクヨム様でも連載しています。 そちらが一番早いです。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

獣人の国に置いて行かれた私の行き先

能登原あめ
恋愛
※ 本編完結後R18、シリアス寄りです。タグの確認お願いします。  家族揃って初めての旅行。  獣人の国は見るもの全て新しくて、私はわくわくした。  でもそれは、母にとって私を捨てる旅だった。  獣人の国に置いて行かれたフィオレンサが、甥っ子のコレットの世話で困っていたネッドに拾われる話です。 * コメント欄にネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。 * 本編10話+R18含む小話、その後の話 * Rシーンには※マークつけます。本編で回収していない部分をこちらにちょこっと追加、年齢も少し引き上げて改稿しました('22.01) * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。  

処理中です...