【完結】あの人が欲しい

赤牙

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エンジュの過去 ⑤

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手紙を出した後、すぐにデリナム卿から返事がありすぐに面会する場が設けられる。
デリナム卿は偏屈な人だが、莫大な富を築いた手腕に一目置かれている存在だ。その反面で、奇抜な行動や考え方に頭がイカれていると陰では言われている。話を聞けば聞くほどに、計画を実行するにあたってこれ以上の適任者はいないのではないかと感じた。

デリナム卿の書斎へ通されると、車椅子を押され一人の老人が登場する。痩せ細った体に痩けた頬……窪んだ瞳……どう見ても死を待つ老人にしか見えないが、瞳の奥はギラギラと光り輝き僕の事を興味ありげに見つめてくる。

「おやおや……。公爵家の御子息がどういった御用件で? もしや……噂話を聞きつけていらっしゃったのかな? 私の遺産など貴方にとってはお小遣い程度ですよ」
「ハハ。ご冗談を。今回は貴方の遺産争いに参加しに来た訳ではありません。デリナム卿は……面白いものを見たいのですよね……?」
「あぁ。そうだ。私の余生を飽きさせない物を欲している。最高にイカれた物をな……」

ニヤリと口角を上げ悪い顔を見せるデリナム卿を見ていると余命宣告を受けたとは到底考えられない。

「では、貴方の余生を僕にくれませんか?」
「ほぅ……。私の大切な余生をどのように楽しませてくれるのかな……?」
「そうですね……デリナム卿には僕の片想いを見届けていただきたいと思っています」

僕の言葉にデリナム卿は面を喰らったように目を瞬かせる。

「あのアブソレル公爵家の次期当主の片想いを見届けるとは……。しかし、私にその話を持ってきたと言うことは相手は訳ありですかな?」

デリナム卿は僕の話に喰い気味に質問をしてくる。
反応を見る限りでは計画に乗ってくれそうだ……。

僕はダンテさんとの出会いと恋に落ちるまでの経緯、ダンテさんの現状、それに片想いを成就させる為の計画を伝えるとデリナム卿は大笑いする。

「ハハハハッ! その獣人もとんでもない人間から目をつけられたものだ。一方的な気持ちを押し付けられて監禁させられるなど……まさに狂気だな。だが……そんな面白い事が起きると知ってしまったら、その恋の結末を見届けなければ死んでも死にきれないな……」
「つまり……協力していただけるのですか?」
「あぁ、もちろんだとも。私の命の灯火で素敵な素敵な恋の物語を照らしてやろう」

デリナム卿の言葉に僕は歓喜し、僕達は熱い握手を交わした。

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