上 下
21 / 38

リアムの過去 ①

しおりを挟む

「レノー様~。今日もお迎えに参りましたよ~」

軽くドアをノックして部屋の中へと入れば、俺の声に不機嫌そうに眉間に皺を寄せる白髪の紳士……。

「リアムの手は借りん……」
「え~っと……じゃあ、歩いて見ますか?」

俺の言葉に小さく頷くと、レノー様はベッドからなんとか起き上がり腰をかける。起き上がるだけですでに息が上がっているようにも見えるが……指摘すると怒るので見守る。
ベッド柵へと手をかけて立ち上がりまではできたがすぐにバランスを崩しベッドへと逆戻り……。
ハァァァ……と、それはそれは大きなため息を吐いた後、レノー様は忌々しそうに俺に視線をぶつけてくる。

「手を……貸してくれ……」

ようやく諦めがついたのか、最後はちゃんとお願いをしてくる辺りがレノー様の憎めないところだ。

「仰せのままに」

ニコリと笑みを浮かべてレノー様の体をいつものように抱えココの待つテラスへと向かう。
レノー様は俺に大人しく抱かれているが、眉間の皺はどんどん深くなっていく。

「抱かれ心地が悪いですか?」
「お前のような筋肉達磨に抱き上げられて喜ぶ理由がない」
「はは。そう言うのならば早く自分で歩けるようになって下さい、レノー様」

弱っていたレノー様も今では口だけは元に戻られたようだ。

「なぁ、リアム……」
「はい。どうしましたか?」
「いつになったらココに自分の正体を明かすつもりだ?」
「レノー様……。俺は自分の事は何も覚えていないんです……」
「私の前でもシラを切るつもりか? ……隣国の英雄ロンヴァルトよ」

久しぶりに呼ばれた本名にピクリと反応を見せてしまい、俺の反応を見てレノー様は眉間の皺をさらに深める……。

「ハハ……。英雄だなんて何を言っているんですかレノー様……」
「ふん。まぁ……よい。いいか。お前がどんな事情で英雄の名を捨てたなど興味はない。ただ……お前のいざこざでココを傷つけるような事があれば……分かっているな……」

つい数日前までは死にかけていたとは思えない威圧感にじわりと冷や汗がでる。流石、長年王家を裏で支えた国王の腹心レノー・ヴァントーラ……ゲスターなどとは格が違うな。

「ココを傷付けるような事は絶対にさせません。ココは俺の大事なご主人様なんですから……。どんな手を使っても守ってみせます」

俺の言葉にレノー様は不満そうな表情を浮かべていたが、それ以上俺の過去について問いただすことはなかった。



不完全だった俺の記憶は、万能薬を舐めた事により全てを思い出してしまう。
まさか、万能薬が記憶喪失にも効果があるなど考えもせずに口にしたせいで、思い出したくもない過去まで全て蘇ってしまったのだ……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モラトリアムの猫

青宮あんず
BL
幼少期に母親に捨てられ、母親の再婚相手だった義父に酷い扱いを受けながら暮らしていた朔也(20)は、ある日義父に売られてしまう。彼を買ったのは、稼ぎはいいものの面倒を嫌う伊吹(24)だった。 トラウマと体質に悩む朔也と、優しく可愛がりたい伊吹が2人暮らしをする話。 ちまちまと書き進めていきます。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

【完結】ねこネコ狂想曲

エウラ
BL
マンホールに落ちかけた猫を抱えて自らも落ちた高校生の僕。 長い落下で気を失い、次に目を覚ましたら知らない森の中。 テンプレな異世界転移と思ったら、何故か猫耳、尻尾が・・・? 助けたねこちゃんが実は散歩に来ていた他所の世界の神様で、帰るところだったのを僕と一緒に転移してしまったそうで・・・。 地球に戻せないお詫びにとチートを貰ったが、元より俺TUEEをする気はない。 のんびりと過ごしたい。 猫好きによる猫好きの為の(主に自分が)猫まみれな話・・・になる予定。 猫吸いは好きですか? 不定期更新です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

処理中です...