上 下
23 / 38

リアムの過去 ③

しおりを挟む
王都周辺に現れたドラゴンは『厄災』と呼ばれるレッドドラゴンだった。
普通のドラゴンならば厄災などと大それた名前はつかないが、レッドドラゴンは鎧をも溶かす火炎を吐き近づいても鋭い爪で寄せ付けない。
そして、厄介なところは頑丈な鱗。普通の剣ではレッドドラゴンに傷すらつけられない……。
気性が荒く攻撃的な性格でレッドドラゴンが襲った村や町は無惨な姿へ変わる……。

「ロンヴァルト、イーゼル。お前達にも出動命令が出ている。支度し直ぐに出動しろ」
「「はっ!」」

団長からの命令を受けて俺とイーゼルはすぐに準備を始める。今までの魔獣とはレベルが違うレッドドラゴンとの対戦に俺の鼓動は高鳴る。

「ロンヴァルト。お前、今すごくウキウキしてるだろ」
「え? そう見えるか……?」
「あぁ。お前は強敵に立ち向かう時はいつも目をキラキラとさせているからな……。今日は特にだ」

イーゼルは俺の顔を見ながらクスッと笑みを溢す。

「すまん……。レッドドラゴンと対峙するのに浮かれてちゃダメだよな……」
「いや、お前らしくていいよ。動きやすいように私は後方からサポートする。だからいつものように暴れ回ってこい」
「あぁ。よろしく頼むよ相棒」

俺とイーゼルはいつものようにコツンと拳を合わせレッドドラゴンの元へと向かった。




レッドドラゴンが出没したという王都近くにある集落はすでに悲惨な状態になっていた……。あちらこちらで焼け焦げた匂いと煙……そこにあったであろう家屋は焼け崩れていた。
そして、その状況を作り出した張本人レッドドラゴンは優雅に空を舞っていた。

「ロンヴァルト。まずはアイツを地上へと引きずり下ろす。その後は頼んだぞ」
「あぁ、任せてくれ」

イーゼルは魔法が使える他の騎士達と共にレッドドラゴンへと魔法攻撃を繰り出す。攻撃を受けたレッドドラゴンは、怒りを露わにしイーゼル達がいる騎士達を標的とし攻撃を繰り出してくる。

イーゼル達は障壁などを駆使してレッドドラゴンを引きつけてくれ、痺れを切らしたレッドドラゴンは直接攻撃しようとイーゼル達へ牙を向く。

今だ……!

レッドドラゴンが地上へと向かってくるタイミングに合わせて物陰から駆け出すと跳躍しレッドドラゴンの背中に乗り込む。
レッドドラゴンは驚き、俺を振り払おうと必死に抵抗を見せるが俺も負けてはいられない。剣を背中へと突き立ててみるが頑丈な鱗に守られ通らない……。

ならば……と、最近覚えた剣そのものを強化する強化魔法を使いもう一度攻撃をすると、あんなに硬かった鱗はいとも簡単に貫通する。
痛みにレッドドラゴンは暴れ回り俺を背中に乗せたまま空へと舞い上がる。

空中戦になれば俺の勝ち目はない……。
相打ち覚悟で背中を蹴り上げレッドドラゴンの頭上まで飛び上がり剣を振り下ろす。
レッドドラゴンの首に剣が入るが、相手も抵抗し鋭い爪が襲う。痛みで一瞬意識が遠のくが、気力を振り絞り剣に力を入れる。

コイツを倒さなければ……終われないんだ……。

「うらぁぁぁぁぁぁあああ!」

最後の力を振り絞り残りの魔力を全て剣へと注ぎ込み振り抜くと、レッドドラゴンの首と胴体が二つに別れる……。
そして、俺とレッドドラゴンは仲良く地上へと降下していく。魔力を使い果たした俺は何も出来ずに落ちていき、あと少しで地面へと体を叩きつけられる……と、思った時に体の周囲に風が巻き起こりふわりと体が浮く。

レッドドラゴンの胴体と頭は地響きをならし地面へと叩きつけられ、俺はその隣にドサリと落ちる。
立つ事すら出来ずに仰向けのまま空を見つめていると、歓声と共にこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。
俺の視界にキラリと輝きを放つ金髪と心配そうに覗き込んでくる水色の瞳を見て、戦いが終わった事を実感する。

「大丈夫かロンヴァルト? 酷くやられたな……すぐに手当てをするからな」
「あぁ……頼む」

イーゼルは救護班を呼び俺の手当てを始める。興奮冷めやらぬ騎士団達や俺達の戦いを見守っていた集落の人々に笑顔が戻るのを見て俺も自然と頬が緩む。

「なぁイーゼル。落ちる時に風魔法使ってくれたのはお前だろ?」
「あぁ。あのまま落ちれば今の怪我どころじゃないからな。間に合ってよかったよ」
「そうだな……。ありがとうな、イーゼル」
「気にするな。大事な相棒を守るのが私の役目だからな」

イーゼルは優しく笑みを溢し、俺もつられて笑顔を見せる。


こうして厄災と呼ばれたレッドドラゴンとの戦いは終わり、また厳しい訓練と戦いの日々が続くと思っていたが……


俺の生活は王から与えられた『英雄』の称号により一変してしまうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

【完結】ねこネコ狂想曲

エウラ
BL
マンホールに落ちかけた猫を抱えて自らも落ちた高校生の僕。 長い落下で気を失い、次に目を覚ましたら知らない森の中。 テンプレな異世界転移と思ったら、何故か猫耳、尻尾が・・・? 助けたねこちゃんが実は散歩に来ていた他所の世界の神様で、帰るところだったのを僕と一緒に転移してしまったそうで・・・。 地球に戻せないお詫びにとチートを貰ったが、元より俺TUEEをする気はない。 のんびりと過ごしたい。 猫好きによる猫好きの為の(主に自分が)猫まみれな話・・・になる予定。 猫吸いは好きですか? 不定期更新です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...