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30話:独占欲

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 アランからもらったネックガードをつけ、シャツのボタンを閉めればネックガードはきれいに隠れる。
 鏡の前で色んな角度で見てみるけれど、襟首を掴まれたりしなければ大丈夫そうだった。
 登校前には、アランが一粒の薬を手渡してくれる。
 薬は一番軽いオメガの抑制剤だった。
 手渡されたオレンジ色のカプセルを見ていると、自分がオメガになったことを再認識させられる。

「ケイ、薬はやっぱり抵抗ある?」

 声をかけられアランの方を見上げれば、眉根を下げ申し訳なさそうな表情を見せる。
 アランは僕がオメガになったのは自分のせいだと言っていたけれど、きっとアランだけのせいじゃない。
 アランを思う気持ちが特別に変わってから、僕はオメガの人を羨むようになった。
 そして、心の奥底では『僕もアランの特別な人になりたい』と思っていた。
 だから、きっと最後は僕がこの変化を望んだんだと今は思うようになった。
 
 心配してくれるアランを元気ずけるために、僕はめいっぱいの笑顔を向ける。

「ううん。薬を飲んでた方が僕も安心だよ。ありがとう、アラン」

 パクッと薬を口の中に放り込んで、水で一気に流し込みまたアランにニッと笑顔を向ける。
 アランは安心した顔をすると、「ありがとう」と言って僕の頭を優しく撫でてくれた。

 そして、緊張しながら僕たちは大学へとむかった。 
 アランは心配して保護者のようだったけれど、薬も飲んだし大丈夫だよと言って別れた。
 講堂にたどり着くと、机にうつ伏せている叶斗くんを見つけた。
 オレンジ色の目立つ髪色を目印に駆け寄り、隣の席に座ると物音に気づいて叶斗くんが顔を上げる。

「ん……あ、おはよう圭」
「おはよう、叶斗くん」

 ちょっと緊張して挨拶を返すと、叶斗くんはいつもと変わらず接してくれる。
 オメガになっても、やっぱりベータには変化が分からないことにホッとして講義を受けた。
 講義が終わると、アランから連絡がきていて迎えに行くから一人で出歩かないようにとメールがきていた。
 待ち合わせ場所は、ベータが多い社会学部のエントランス。
 待っていると、アランが小走りでやってくる。

「お待たせ、ケイ」
「ううん。迎えに来てくれてありがとう」

 へへっと笑いかけると、アランは目を細める。

「変わったことはなかった? 薬を飲んだあと動悸や吐き気とかもなかった?」

 僕に変わったことがないか心配してくれるアラン。
 そんなアランに安心してもらいたくて笑顔を向ける。

「いつもと変わりないよ。叶斗くんからも何も言われなかったし、薬を飲んだあとも副作用は出なかったよ」

 アランを見上げ、ズレたびん底眼鏡をあげながら笑いかけると、安心した表情でアランが微笑む。

「よかった。じゃあ、帰ろう」

 スッと差し出された手を迷わずに掴むと、強く握りしめてくれる。
 アランの温もりを感じると、じんわりとうなじが熱くなるのを感じる。

ーーアランを意識しちゃうと、やっぱりここが熱くなる……

 チラリとアランに視線を向けると目が合い耳元で小声で囁かれる。

「少しフェロモンが漏れてるね」
「あ、ごめん」

 アランの囁き声にまたゾクリとしてしまう。
 思わずうなじを隠すように触れてしまうと、ふっとアランが微笑んだ。

「大丈夫。オレにしか分からないくらいの微量のフェロモンだから」
「ほんとに?」
「うん。顔を寄せれば香るくらいだから大丈夫。オレくらいでしょ? ケイにこんな距離まで近づけるのは」
「……うん」

 顔を赤くして頷くと、灰色の瞳が満足げに弧を描く。
 アランの独占欲が見えると、心から嬉しいと思ってしまう。
 もっと僕を独占してほしいと思うと、またうなじがじわりと熱くなった。






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