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13話:オメガのフェロモン ②

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ーーあ、オメガの人だ。

 ネックガードをつけた女性は、華奢でとても綺麗な人で、長いストレートの黒髪を耳にかけながら僕に話しかけてくる。

「いきなり声をかけてすみません。あの……アランくんと同室の方ですよね?」
「は、はい」
「よかった。実は、アランくんに渡していただきたいものがあるんです」

 そう言うと、女性はカバンから何かの資料を取り出す。
 そして、ラッピングされた可愛らしい小箱も。
 僕は差し出されたものを受け取り問いかける。

「あの、つかぬことをお聞きしますが、アランとはどういったご関係なんですか?」
「アランくんとは同じ学部なんです。渡していただきたいのは、グループ研究の資料です。アランくんとは、一緒のグループなので、提出資料がまとまったので早めに渡しておこうと思って。それと、以前からアランくんには沢山迷惑をかけてしまったのでほんの少しですがお礼の品も」
「……分かりました。アランに渡しておきます」

 僕は女性にぺこりとおじぎをして、寮の玄関へ足早に向かった。
 部屋にたどり着き、胸に抱えた荷物に目を向ける。
 アランに直接渡せばいいのに、なんで僕に渡してきたのか、分からずアランの帰りを待つ。
 玄関の扉が開くと、慌てた足どりでアランがリビングにやってきた。
 僕を見つめ、そのあとは部屋の中をぐるりと見渡す。

「……誰か部屋にあげたの?」
「え? いや、誰もあげてないよ」
「じゃあ、この匂いは何?」
「匂い?」

 アランに問われ、僕は机に置いていた荷物に視線を向けた。
 僕の視線に釣られるように、アランも荷物へと視線を下ろすと舌打ちが聞こえる。
 驚いてアランを見れば、冷めた表情で荷物に手を伸ばす。

「預かってって言われたの?」
「うん……」

 アランがため息を吐くと、申し訳なさでいっぱいになる。

「ご、ごめん」

 謝るしかなくて謝罪すると、アランはハッと表情を変える。

「ごめん! ケイは何も悪くないんだ! ただ、この荷物を渡してきて人に苛立っちゃって……」
「これってアランにとって迷惑なものだった?」
「資料はまぁいいんだけど、その小箱がね……。オレがいつも拒否して受け取らないからって、ケイを使って渡すなんて思いもしなかったんだ」

 アランはラッピングの端をつまみ、ビニール袋の中へお礼の品を入れ、また袋を重ねる。
 
「それ、お礼の品だって言ってたけどよかったの?」
「お礼? こんなに自分のフェロモンを塗りつけた物はお礼でもなんでもないよ」
「フェロモンって……あの、オメガの人の?」
「そう。入学した時から、何度か声をかけられてたんだけど、ずっと無視してたんだ。そうしたら、強行突破してきて……ハァ。変なことに巻き込んで本当にごめんねケイ」

 アランはいつもの優しい表情に変わり、状況がうまく掴めない僕を抱き寄せる。

「ねぇ、アラン。またあの人が来たら、荷物とかは預からない方がいいかな?」
「……できればそうしてもらえると嬉しいかな」

 アランの抱きしめる腕の力が強くなる。
 抱きしめられた腕から感じるアランの不安。
 オメガのフェロモンのついたプレゼントを渡すということは、アルファであるアランに好意を持っているということだけれど、オメガのフェロモンはアルファを惑わすと言われている。
 あの女性は、そうしてまでアランに近づきたかったのだろうか。
 そう考えると、なんだか怖くなる。

ーーベータの僕はオメガのフェロモンにあらがえるけど、アルファのアランは違う。フェロモンに抗えなくなった時、アランは……

 オメガが突然ヒートを起こし、近くにいたアルファがラット状態になったという事件は時折耳にする。
 もし、アランがそうなったら時のことを考えると、僕が守ってあげなくちゃと強く思い、僕もぎゅっとアランの体を抱きしめる。

「もしも、何かあったら言ってね。僕はアランの味方だから」
「うん、ありがとう。ケイがそばにいてくれるだけで心強いよ」

 アランはそう言うと、感謝の気持ちを表し額にキスをくれる。
 僕はその気持ちに応えれるように大きく頷いた。
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