人が消えた世界で

赤牙

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第一章

42話

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今日もアストさんはガイルさんとソルと剣の稽古をしている。温室には草花の手入れをしているフィッツさんと僕の二人きり…

「あの…フィッツさん…。恋ってした事ありますか…?」
「えっ!?こ、恋ですか…?」


僕がずっとアストさんに対して抱えていた気持ちは…家族としてのものじゃない。
そう実感してしまった…。

村で皆と暮らしていた時も大好きだと思う子はいたけれど、アストさんに対する気持ちとはまるで違う。
本当に僕はアストさんの事を『好き』なのか…何故か自信が持てなくて相談できる相手は…と考えたところ、フィッツさんしか見当たらなかった。

ガイルさんとイザベラさんには相談できないし、ソルとルナはまだ恋なんて知らないかもしれない。
ゴードンさんは…なんだか相談しづらいし、マリオンさんには逆に質問責めされそうな気がした…。

フィッツさんは俺の質問に驚き少し照れた顔で話してくれる。

「恋をした事があるかと言われたら…あります」
「そうなんですか!それで…その…恋したらどんな気持ちきなりますか?」
「気持ちですか…。ずっと一緒にいたいとか…笑顔を見たいとか…そんな事を思っていました」

同じだ…。
僕がアストさんに抱く気持ちと、とても似ていて僕は思わずウンウンと頷きながらフィッツさんの話を聞いてしまう。

「フィッツさんは、その…恋をした人とはどうなったったんですか?」
「相手とですか?…今も一緒にいます」
「わっ!結ばれたって…ことですか?」

フィッツさんは僕の言葉に照れ笑いしながら頷いてくれる。

「そうです。でも…俺達は歳も凄く離れていたので最初は俺の片思いだったんですけど…番だったので上手くいったって感じですかね」
「番…?」
「えぇ。ハイル様は、俺達半獣人の恋愛と人の恋愛の違いについて知っていますか?」
「恋愛の違い…?僕とフィッツさんで違うんですか?」
「はい。俺達半獣人も人と同じように心を通わせて恋愛する人もいますが、人と決定的に違うのは『番』という存在がある事です」
「番があると何が違うんですか?」

初めて聞く言葉に首を傾げながらフィッツさんの話を聞いていく。

「半獣人にはそれぞれ番がいます。旦那様と奥様も番です。番かどうかは大体出会った時にわかります。匂いも他の人とは違いますしね…」
「そうなんですか…。初めて知りました…」
「番に出会えるということは半獣人にとって幸せなことです…。番は自分の半身みたいなものですからね…」

そう言ってフィッツさんは自分の番の事を思い出しているのか幸せそうに微笑む。


『番』に出会える事は半獣人にとって最高の幸せ…か…。

僕の心の中で『番』という言葉が重くのしかかる。

アストさんは僕のせいでこのお屋敷に縛られている。
それはつまり…アストさんがこれから出会う『番』との機会を奪っているということだ…。

僕のせいで…アストさんは番と出会えない…

花壇へと視線を向けるとアストさんが僕の為にと植えてくれた水色の花が目に入る。

『ハイルに…幸福な愛を贈りたい』

そう言って微笑んでくれたアストさんを思い出す。
きっとその言葉を貰う資格は僕になんてない…。本当にアストさんが『幸福な愛』を贈らなければいけない人がこの世界にいるんだ…


「フィッツさん。お話ありがとうございました…」
「はい。あの…ハイル様…?大丈夫ですか…?」
「…大丈夫です」

精一杯の笑顔を向けて僕は温室を後にした。
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