21 / 55
第一章
21話
しおりを挟む
ソルからお兄さんの話を聞いてから、ずっとその事ばかり考えていた。
フィッツさんには、あれ以上聞ける雰囲気でもないしなぁ…。
寝かされたベッドの上でそう思っていると部屋にルナがやってくる。文字が上手く書けない僕にルナは毎日文字を教えに来てくれている。
今日も本やノートを抱えてやってきたルナはベッド横の椅子へ腰掛け、僕に持ってきた本を渡してくる。
「さぁハイルさん。昨日の続きからやりましょう」
「うん…」
ソルとは対象的でルナは凄く大人びている。
ルナの授業はなかなか厳しくて…年下だけど、たまにおっかないと感じる。
今日もテキパキと教えてくれるが、ただでさえ勉強は苦手なのに今はお兄さんの事も気になって尚更頭に入ってこない。
う~ん…と、頭を捻りながら、なんとか頑張るが先にルナが痺れを切らし大きなため息をつかれる。
「ハイルさん。今日は集中できてないみたいですけど何かありましたか?」
「あぁ…ごめん。えっとね…」
ルナから質問されて、このタイミングならお兄さんの事を聞けると思った僕はルナに質問をぶつける。
「ねぇルナ…。お兄さんのことを聞いてもいい?」
僕の口から『お兄さん』という言葉を聞いたルナは一気に表情をくもらせて鋭い目つきで僕のことを見てくる。
「……誰から聞いたんですか?」
「えっと…ソルが言ってたんだ。大きくて強いお兄さんがいるって…」
「兄様の事で聞いたのはそれだけですか?」
「うん…」
ルナの表情と雰囲気の変化に安易にお兄さんの話を聞いたことを後悔する。
お兄さんが凶獣化した事は咄嗟に知らないふりをした。
「…アスト兄様は大きくて強いだけじゃないです」
ポツリとルナが呟く。
「強くて優しくて凄くカッコよくて…自慢の兄なんです」
「うん…」
「私が小さな頃はよく遊んでもらって、兄様に肩車してもらうのが大好きでした」
ルナは少し上を見上げ懐かしむように話を続ける。
「でも…今は訳あって離れた場所で暮らしています。離れていても兄様と私達家族は心で繋がっているんです…」
そう言ってルナは窓へと目線を向ける。
目線の先には離れにある小さな屋敷がありルナは辛そうな顔をしながらその屋敷を見つめていた…。
✳︎
それから数週間…。
僕は部屋の中ならば一人で歩けるようになり少しずつ歩く距離を伸ばしている。
そして、暇があれば窓から離れの屋敷を見ていた。
離れの屋敷には毎日ゴードンさんやフィッツさんが決まった時間に食事を持っていっている。
ガイルさんやイザベラさんも毎日屋敷を訪れていた。
「やっぱり…あそこにお兄さんがいるのかな…」
お兄さんの事を考えていると凶獣化した子ども達や、その親の顔を思い出す。
子ども達は自我を失い、親はそんな自分の子どもを鎖で繋ぎ閉じ込めておかなければいけない。
あの時は自分の事で必死で半獣人の事を考える余裕なんてなかったが、今思うと皆凶獣化という現象に苦しんでいた。
ガイルさんやイザベラさん、双子やゴードンさん達だって苦しんでいる。
そして、お兄さん本人も…。
「僕が出来ること…」
過去を思い出しズキリと重く痛む首筋を撫でながら、僕は屋敷の中にいるお兄さんの事を考えた。
フィッツさんには、あれ以上聞ける雰囲気でもないしなぁ…。
寝かされたベッドの上でそう思っていると部屋にルナがやってくる。文字が上手く書けない僕にルナは毎日文字を教えに来てくれている。
今日も本やノートを抱えてやってきたルナはベッド横の椅子へ腰掛け、僕に持ってきた本を渡してくる。
「さぁハイルさん。昨日の続きからやりましょう」
「うん…」
ソルとは対象的でルナは凄く大人びている。
ルナの授業はなかなか厳しくて…年下だけど、たまにおっかないと感じる。
今日もテキパキと教えてくれるが、ただでさえ勉強は苦手なのに今はお兄さんの事も気になって尚更頭に入ってこない。
う~ん…と、頭を捻りながら、なんとか頑張るが先にルナが痺れを切らし大きなため息をつかれる。
「ハイルさん。今日は集中できてないみたいですけど何かありましたか?」
「あぁ…ごめん。えっとね…」
ルナから質問されて、このタイミングならお兄さんの事を聞けると思った僕はルナに質問をぶつける。
「ねぇルナ…。お兄さんのことを聞いてもいい?」
僕の口から『お兄さん』という言葉を聞いたルナは一気に表情をくもらせて鋭い目つきで僕のことを見てくる。
「……誰から聞いたんですか?」
「えっと…ソルが言ってたんだ。大きくて強いお兄さんがいるって…」
「兄様の事で聞いたのはそれだけですか?」
「うん…」
ルナの表情と雰囲気の変化に安易にお兄さんの話を聞いたことを後悔する。
お兄さんが凶獣化した事は咄嗟に知らないふりをした。
「…アスト兄様は大きくて強いだけじゃないです」
ポツリとルナが呟く。
「強くて優しくて凄くカッコよくて…自慢の兄なんです」
「うん…」
「私が小さな頃はよく遊んでもらって、兄様に肩車してもらうのが大好きでした」
ルナは少し上を見上げ懐かしむように話を続ける。
「でも…今は訳あって離れた場所で暮らしています。離れていても兄様と私達家族は心で繋がっているんです…」
そう言ってルナは窓へと目線を向ける。
目線の先には離れにある小さな屋敷がありルナは辛そうな顔をしながらその屋敷を見つめていた…。
✳︎
それから数週間…。
僕は部屋の中ならば一人で歩けるようになり少しずつ歩く距離を伸ばしている。
そして、暇があれば窓から離れの屋敷を見ていた。
離れの屋敷には毎日ゴードンさんやフィッツさんが決まった時間に食事を持っていっている。
ガイルさんやイザベラさんも毎日屋敷を訪れていた。
「やっぱり…あそこにお兄さんがいるのかな…」
お兄さんの事を考えていると凶獣化した子ども達や、その親の顔を思い出す。
子ども達は自我を失い、親はそんな自分の子どもを鎖で繋ぎ閉じ込めておかなければいけない。
あの時は自分の事で必死で半獣人の事を考える余裕なんてなかったが、今思うと皆凶獣化という現象に苦しんでいた。
ガイルさんやイザベラさん、双子やゴードンさん達だって苦しんでいる。
そして、お兄さん本人も…。
「僕が出来ること…」
過去を思い出しズキリと重く痛む首筋を撫でながら、僕は屋敷の中にいるお兄さんの事を考えた。
6
お気に入りに追加
939
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる