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送別会 ①
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「千景~。朝だぞ。今日は一限目から授業だろ」
「ん……は~ぃ……」
三月に入り、ほんの少しだけ寒さが和らぎ始めたが朝はまだ寒い。ゴソゴソと時間をかけて布団から抜け出すと、テーブルの上にはパンとベーコンエッグとカフェオレが並んでいる。
「ほれ。さっさと飯食っておけよ」
「ありがとうございます、先輩」
まだ眠たい目を擦りながら、大きめのパーカーの袖をまくり温かいカフェオレを口にする。
飲んだ瞬間、お腹の中から温かくなりマヌケ面を晒すといつも苳也先輩に笑われる。
「相変わらず不細工な顔するな」
「むぅ……。先輩も相変わらず失礼っすね」
土日を先輩の部屋で過ごす事が多くなった俺は、先輩のマンションがバイト先や大学からも近いせいか、月の半分以上を苳也先輩のマンションで過ごすようになってしまった。
俺の私物もどんどん増えていき、ちょっぴり狭くなった苳也先輩の部屋は褒めたくはないがとても居心地が良く……気が付けば先輩の部屋の住人になっていた。
決して苳也先輩に甘えている訳ではなく……俺が家に帰ると言うと寂しそうな顔をするので仕方なくいる時もある。
そう。仕方なくだ。
いつものように先輩と文句言い合いながら朝食を食べていると、先輩のスマホが鳴る。メールがきたのかスマホを手に取ると、先輩は眉間に皺を寄せる。
「なぁ千景。部長の送別会って来週の15日だっけ?」
「あ、一回目の送別会ですか? 確か15日だったと思います」
「マジかよ……。店長が15日バイトに入って欲しいって言ってきてんだよなぁ……。しかも、ラストまで……。極め付けが、絶対に断るなと念押ししてくる店長の土下座画像付きかよ……」
苳也先輩は面倒臭そうに画面を見つめ大きなため息を吐く。
四年の先輩達は就職や大学院生など各自の進路を決めていた。
そうなってくると、我がスイーツ研究同好会も唯一の四年生の部長の送別会が開かれる事になる。
けれど、皆が集まれる日程はなく寂しがる部長の為に二回に分けて送別会が行われることとなった。
一回目も二回目もバイトのシフトが空いていた俺は幹事に抜擢されてしまった……。
断りたかったが潤んだ瞳で部長がお願いしてくるので断れず俺は幹事をやることになる。
苳也先輩も場所探しや予算決めなど手伝ってくれて、二日とも参加する予定だったが店長の土下座画像付きでバイトのお願いをされたら断れないよなぁ……。
「苳也先輩。15日は俺一人でどうにかなりますからバイト行って来て下さい」
「……俺がいなくて大丈夫か?」
「はい! 俺だってもうすぐ大学三年生なんすよ! 幹事の一つやつ二つ余裕です!」
「お前……俺がいないとこで絶対酒飲むなよ」
「酒? 別に飲んでも良くないですか?」
俺がそう返すと苳也先輩の眉間の皺はグググッと濃ゆくなる。
「あっ? 酔ってド淫乱になった事もう忘れたのかよ」
「ゔっっ……。あ、あの時は飲み方分からなかったからで……」
「その後もまともに酒飲んでねーだろ。とにかく、俺以外にあんな痴態を晒すな。『お尻が寂しいんす……』なんて、言ったら動画取られて拡散されるぞ」
「な、な、な、そんなこと言う訳ないでしょ!!」
魔のクリスマスの思い出を掘り起こされて俺は顔を真っ赤に染める。苳也先輩は信用ならんと言ってくるが……俺だってあのような失敗は二度と起こさないと心に固く誓っている。
「とにかく、俺がいない時には酒飲むなよ。分かったな」
「……う~す」
やる気のない返事に苳也先輩は少し不機嫌そうだが、あんな変な酔っ払い方する方がきっと珍しい。
それに、俺だって皆と楽しくお酒飲みたいし……。
な~んて自分の酒癖の悪さを理解しないまま時は過ぎ………。
部長の第一回送別会当日を迎えた。
「ん……は~ぃ……」
三月に入り、ほんの少しだけ寒さが和らぎ始めたが朝はまだ寒い。ゴソゴソと時間をかけて布団から抜け出すと、テーブルの上にはパンとベーコンエッグとカフェオレが並んでいる。
「ほれ。さっさと飯食っておけよ」
「ありがとうございます、先輩」
まだ眠たい目を擦りながら、大きめのパーカーの袖をまくり温かいカフェオレを口にする。
飲んだ瞬間、お腹の中から温かくなりマヌケ面を晒すといつも苳也先輩に笑われる。
「相変わらず不細工な顔するな」
「むぅ……。先輩も相変わらず失礼っすね」
土日を先輩の部屋で過ごす事が多くなった俺は、先輩のマンションがバイト先や大学からも近いせいか、月の半分以上を苳也先輩のマンションで過ごすようになってしまった。
俺の私物もどんどん増えていき、ちょっぴり狭くなった苳也先輩の部屋は褒めたくはないがとても居心地が良く……気が付けば先輩の部屋の住人になっていた。
決して苳也先輩に甘えている訳ではなく……俺が家に帰ると言うと寂しそうな顔をするので仕方なくいる時もある。
そう。仕方なくだ。
いつものように先輩と文句言い合いながら朝食を食べていると、先輩のスマホが鳴る。メールがきたのかスマホを手に取ると、先輩は眉間に皺を寄せる。
「なぁ千景。部長の送別会って来週の15日だっけ?」
「あ、一回目の送別会ですか? 確か15日だったと思います」
「マジかよ……。店長が15日バイトに入って欲しいって言ってきてんだよなぁ……。しかも、ラストまで……。極め付けが、絶対に断るなと念押ししてくる店長の土下座画像付きかよ……」
苳也先輩は面倒臭そうに画面を見つめ大きなため息を吐く。
四年の先輩達は就職や大学院生など各自の進路を決めていた。
そうなってくると、我がスイーツ研究同好会も唯一の四年生の部長の送別会が開かれる事になる。
けれど、皆が集まれる日程はなく寂しがる部長の為に二回に分けて送別会が行われることとなった。
一回目も二回目もバイトのシフトが空いていた俺は幹事に抜擢されてしまった……。
断りたかったが潤んだ瞳で部長がお願いしてくるので断れず俺は幹事をやることになる。
苳也先輩も場所探しや予算決めなど手伝ってくれて、二日とも参加する予定だったが店長の土下座画像付きでバイトのお願いをされたら断れないよなぁ……。
「苳也先輩。15日は俺一人でどうにかなりますからバイト行って来て下さい」
「……俺がいなくて大丈夫か?」
「はい! 俺だってもうすぐ大学三年生なんすよ! 幹事の一つやつ二つ余裕です!」
「お前……俺がいないとこで絶対酒飲むなよ」
「酒? 別に飲んでも良くないですか?」
俺がそう返すと苳也先輩の眉間の皺はグググッと濃ゆくなる。
「あっ? 酔ってド淫乱になった事もう忘れたのかよ」
「ゔっっ……。あ、あの時は飲み方分からなかったからで……」
「その後もまともに酒飲んでねーだろ。とにかく、俺以外にあんな痴態を晒すな。『お尻が寂しいんす……』なんて、言ったら動画取られて拡散されるぞ」
「な、な、な、そんなこと言う訳ないでしょ!!」
魔のクリスマスの思い出を掘り起こされて俺は顔を真っ赤に染める。苳也先輩は信用ならんと言ってくるが……俺だってあのような失敗は二度と起こさないと心に固く誓っている。
「とにかく、俺がいない時には酒飲むなよ。分かったな」
「……う~す」
やる気のない返事に苳也先輩は少し不機嫌そうだが、あんな変な酔っ払い方する方がきっと珍しい。
それに、俺だって皆と楽しくお酒飲みたいし……。
な~んて自分の酒癖の悪さを理解しないまま時は過ぎ………。
部長の第一回送別会当日を迎えた。
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