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大好きな先輩の隣にいる嫌な奴

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俺が苳也先輩と出会ったのは高校時代まで遡る……。





授業が終わるチャイムと同時にカバンに手をかけると俺は急いで三年の教室へと向かう。
途中、すれ違う先輩達に挨拶しながら目的の教室へと辿り着くと廊下側の窓を開けて大好きな先輩に声をかける。

直史なおふみ先輩! 迎えに来ました!」
「お~。チカ~。今日も早いなぁ~」
「はいっ!」

へへッと笑顔を向けると直史先輩のタレ目もさらに下がる。先輩の笑顔はすっごく優しくて見ているだけで幸せな気持ちになる。
だが……俺と先輩の幸せな時間は、先輩の背後から伸びてくる腕の主により終わりを告げる。

「うるせー声が聞こえてきたと思ったら……またチビ助がきたのか……」

ダルそうな声で顔を出してきた人物は、先輩を背後から抱き締めるならようなポーズをとる。そして、先輩の顔越しにニヤリと見せつけるような笑み……。

苳也とうや先輩……どうもこんにちわぁ~」

直史先輩にベタベタして内心ムカつくが、一応先輩なので挨拶をして無理矢理笑顔を向ける。

「……不細工な顔」
「なっ!? 人の笑顔を見て不細工なんて失礼な!」
「本当の事言って何が悪いんだよ。それに、敬語外れてるぞ、け・い・ご」
「うぬぬぬぬぬぅぅ~」
「ほらほら、二人とも仲良く戯れ合わずに早く帰ろ。チカも機嫌直して。今日は新しく出来たクレープ屋に行くって約束しただろ?」

直史先輩の言葉に嫌な気分もパッと晴れた。



直史先輩は俺が通う県立高校の三年で、俺の一つ歳上。
背は180cmありガタイも良くて見た目はすっごく男らしい。けれど、内面はのんびり屋で笑顔がよく似合う人だ。
直史先輩とは中学からの付き合いで俺が一方的に想いを寄せている。中学の時に学校のヤンキーに絡まれた時に、たまたま通りがかった直史先輩が助けてくれたのがきっかけだ……。

中学の頃から背が低かった俺は、見上げるほどに大きくて強くてカッコいい先輩を見て一目惚れをしてしまったのだ。

直史先輩が中学を卒業してから、俺も同じ高校を目指しめでたく合格。
しかし、高校生になった直史先輩の隣にはいけすかない苳也先輩が常に隣にいた……。

直史先輩と変わらないくらいの身長で、顔がいいのか知らんが女子生徒にはキャーキャー言われ、それならそっちに行けばいいのに直史先輩の周りをうろちょろして俺と直史先輩の幸せタイムをいつも邪魔してくる。

はっきり言って俺はいつも意地悪してくる苳也先輩が嫌いだ。

でも、直史先輩に迷惑かけないように、なるべく表面上は仲のいいふりをしている。
俺ってマジで大人。


そんな事を思い返しながら、直史先輩と(邪魔者一名)新しくオープンしたクレープ屋へと到着する。TVにも紹介されていたせいか、なかなかの行列ができていた。

「人……多いですね……」
「げ~。これに並ぶのかよ……ダルッ」

苳也先輩は行列の長さを見た途端、不機嫌な態度へと変わる。
別にお前と来たかった訳じゃない!と、言いたいが……もしも直史先輩も同じことを思っていたらどうしようと心配になり先輩の方を見上げれば目を細めいつもの笑顔をくれる。

「人が多いって事はそれだけ美味しいってことじゃん。ほら、次の人がいないうちに並ぼう! 苳也も、いつも暇だ暇だって言ってるんだから並ぶくらいへっちゃらだろ?」

天使のような直史先輩の言葉に俺は感動して今にも泣いてしまいそうだ……。苳也先輩も、直史先輩の言葉に悪口が止まる。

「え~。まぁ、直史がそう言うならならんでやるけど……。おい、千景。今日はお前の奢りな」
「えぇっ!?」
「なんだよ。この行列に並んでやるんだからそれくらいしろよな」
「うぅ……分かりましたよ! でも、苳也先輩は一番安い具なしのクリームクレープですからね!」
「はぁ!? 奢るなら一番高いスペシャルフルーツミックスだろうが!」
「ハハッ。さぁ、メニュー選びは列に並んでからにしようよ。ほら、並んだ並んだ」

俺と苳也先輩は直史先輩に肩を押されながら列に並ぶ。
列に並んでいる間も苳也先輩は、やっぱりこれがいい!……いや、やっぱりこっちだ! なんて、何度も何度もメニューを変更する。

苳也先輩とギャーギャー言い合いをしていればあっという間に時間は流れ、俺たちの番がやってくる。
直史先輩はイチゴクリームクレープ、俺はチョコクレープ、そして苳也先輩は結局一番高いスペシャルフルーツミックスを注文する。

うぅ……高校生の財布には痛い出費だ……。

寂しくなった財布から苳也先輩に視線を移しキッと睨みつければフンッと鼻で笑いながら高級クレープを美味しそうに口にして……やっぱりムカつく!!


「チカ~、俺の分も出してもらったけど……大丈夫か? 金なら出すけど……」
「大丈夫ですよ直史先輩! 先輩にはいつもお世話になっているので、そのお返しです」
「そっか……。じゃあ、お言葉に甘えるよ。あ、そうだ。一口食べてみるか? イチゴ味も結構うまいぞ」
「え、えぇッッ!? 食べて……いいんですかぁ……?」
「あぁ。遠慮せずにガブっといっていいぞ」

目の前に出された直史先輩の食べかけのクレープ……。
これを口にしたら……間接キスってことだよな!?

そんな不埒な考えが脳裏をよぎりゴクリと喉を鳴らす。

「じゃあ……いただかせていただきます……」

先輩からアーンしてもらう形でクレープへと口を近づけていくと……目の前に影が横切り半分以上あった直史先輩のクレープが何故だか小さくなっている。

「ん~イチゴもまぁまぁだな」
「にゃ、にゃんで苳也先輩が食べちゃうんですかぁ!」
「あ? 遠慮するなって言ったのは直史だぞ?」
「それは俺に言ったんですよ!」
「そんな事知るかよ……。まだ残ってんだから味見させてもらえばいいだろ……」

苳也先輩は悪気もなさそうに言ってくるが……あんたの食べた後を食べるのは絶対嫌だ!

「チカ、苳也がごめんな……。ほら、残り食べていいから機嫌直して」

俺の心境なんて知らない直史先輩は、すでに価値のない……いやマイナスでしかないクレープを俺に渡してくる。
ここで受け取らなかったら……なんで俺が怒ってんのか意味わかんねーよなぁぁぁ……。

「あはは……。ありがとう……ございます……」

俺は苳也先輩が食べてしまい減ったクレープを苦笑いしながら受け取り、渋々食べたのだった……。
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