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最終話 R18

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 ぼーっとハヤトが来るのを待っていると、部屋のチャイムが鳴る。
 気怠い体を起こして、インターホンを見ると息を切らしたハヤトの顔が映る。
 顔を見ただけで嬉しくて、すぐに扉を解除した。
 それから一分もたたずに玄関が開く。

「レン!」

 俺の名を呼ぶ声と、荒い足音がどんどん自分の方へと近づいてくる。
 そして、寝室のドアを開けたハヤトを見るといてもたってもいられずに駆け寄って抱きついた。

「やっと、きたぁ……」
「レン……。クソッ、こんなんじゃ怒れないじゃん」

 抱きつく俺を見つめハヤトは色んな感情が入り混じった顔をしていた。
 安心したような、嬉しいような、悲しいような、怒っているような。
 でも、ヒートでほうけた俺にとっては、どんなハヤトでも良かった。ハヤトでさえあれば。

「ハヤト……ハヤト……」

 名前を呼ぶとハヤトが優しく抱き寄せてくれる。
 そして、頬を撫でてキスをくれた。

「なぁ、今からあんたを抱いてオレのものにしたい。レン、オレと番になってくれ」

 ハヤトの真っ直ぐな瞳に射抜かれたまま、思いのこもった熱い言葉が俺を包み込む。
 そして、ハヤトの言葉に答えるように大きく頷いた。
 答えを聞いたハヤトは、そのまま俺を抱きかかえベッドに寝かすとじっと見つめてくる。

「まさか他人のベッドでつがうなんて思ってもみなかった」
「ハハ、そうだな」
「笑い事じゃねーぞ、レン。もし、お前が他の奴と番ってたら……そいつを消してでも、あんたを手に入れたいと思ったくらいなんだからな」

 怖いことを言ってくるが、そこまで俺のことを思ってくれていたのかと感じ、嬉しくなっている自分がいた。
 ハヤトに「ごめんな」と謝り、キスをすると彼の表情が柔らかくなる。
 俺の存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめられると、ぶわりとハヤトの香りが濃くなる。
 部屋に染み付いていた九条さんの香りが全てハヤトの香りに変わると、俺の体も反応してフェロモンが溢れ出す。
 互いの香りを混ぜながら長い時間抱き合い、そしてまたキスをして今度は体も重ねていく。
 ハヤトの指が俺の体に触れるたびに、きゅんと下腹部が疼き後孔が濡れるのを感じた。
 早く繋がりたくて、ハヤトを急かすように自ら服を脱ぎ捨てる。
 そんな俺を見てハヤトはふっとやわらかく目を細めるが、その瞳の奥はギラギラとした光が放たれている。
 ふしくれた指が濡れた後孔をなでて、中の状態を確かめるように入れられる。
 
「もうトロトロじゃん」
「うん、だからハヤト……早く……」
「わかったよ」

 早く早くと子供のようにおねだりすると、ハヤトはしょうがないなと笑った。
 十歳も年下の幼馴染に情けない姿を見せてしまったが、今はもうどうでもいい。
 一秒でも早く、自分をハヤトのものにして欲しいという気持ちが全てをかき消す。
 ハヤトは急かす俺を優しくなだめると、熱く深いキスをして耳元で囁く。

「レン、愛してるよ」

 その言葉に心が満たされ、ハヤトが俺の中に入り体も満たされた。
 一つになりハヤトが俺を気持ち良くしてくれる。
 脈打つハヤトのモノが、俺の奥まで入りこみ埋め尽くす。
 ジンジンと奥が疼き、突き上げられるたびに目の前がチカチカと光が瞬く。
 あっかい、気持ちいい、嬉しいと幸せな感情だけが湧き上がり、卑屈さでいっぱいだった俺の心をハヤトが包み込んでくれる気がした。

「ハ、ヤト……すき、すき……」

 気がつけばそんな言葉を呟いていて、ハヤトはくすぐったそうに笑う。

「うん、オレも大好き」

 指先を絡めるようにして繋ぎ、キスをしながら腰を打ちつけられるとたまらなく嬉しかった。
 ハヤトを好きだと実感すると、好きに比例してフェロモンの量が多くなる。
 
「レン、また匂いが甘くなった」
「ふ、ぁ……だって、ハヤト、すき……」

 ほうけた頭では『好き』以外の単語しか気持ちを伝えられない。
 けれど、ハヤトはその言葉に満足したように目を細める。

 好き、好き、大好き……と、互いに囁きあって心も体も完全に溶け合い一つになる。
 そして、ハヤトが告げる。

「うなじ、噛んで……いい?」
「うん……噛ん、で……。ハヤトのものに、して」

 ハヤトは幸せそうな笑みをこぼすと、俺の首筋に顔を埋める。
 俺もハヤトが噛みやすいように首を逸らした。
 鋭い八重歯が皮膚に触れてちくりと感じたと同時に、俺の中を満たす熱い飛沫を感じた。
 そして、うなじに鋭い痛みも。
 番ったと思った瞬間、寂しさと虚しさばかりで埋めることのできなかった心の穴が埋められた気がした。
 温かで幸せなものが心の中を満たしていく。

ーーあったかい……

 ジンと疼くうなじの痛みは、ハヤトと番った俺だけが知る痛みなんだと思うと嬉しかった。
 幸せに包み込まれたまま、俺も絶頂を迎え、力なくハヤトの名を呼ぶ。
 ハヤトは俺の体を心配しているのか、少し不安げだった。
 そんなハヤトが愛おしくてたまらず、そっとハヤトの頬に触れ笑みをこぼす。

「ハヤト……ありがと」

 そう言うと、ハヤトは目尻に涙を溜めて微笑んだ。


 それからヒートが終わるまでの数日間、俺たちは獣のように体を重ねた。
 服をまとうこともわずらわしくて裸のままでずっと過ごし、腹が減ったら何か食べ、眠りまた体を重ねる。
 原始的で淫らな生活は、九条さんの登場によって終わりを迎える。

「……わぁ~お」

 俺の様子を見に来た九条さんは、裸のまま絡み合う俺たちを見て驚いた顔をしていた。
 ハヤトに抱かれたあとで意識が朦朧としている俺はどうしたらいいのか分からず、ぼんやりと九条さんを見つめるしかできなかった。
 そんな俺の代わりに、ハヤトが九条さんを睨みつける。
 睨みつけるハヤトの視線に、九条さんはクスクスと笑っていた。

「……何笑ってんだよ」
「いや~まさか僕が寝取られるなんて思いもしなかったから。やっぱり、その子面白いなぁ~」
「レンはオレのもんだ」

 ハヤトは俺を抱きしめると、自分の噛み跡がついたうなじを見つめ、優しく撫で九条さんに見せつける。
 もう俺はハヤトのものなんだと。

「はいはい。分かったからそんなに威嚇しないでくれよ。僕はまたレンくんのような子を探すからさ。大事に愛してあげてね」

 九条さんはそう言うとヒラヒラと手を振り部屋を出ていく。
 嫌味の一つでも言われるかと思った俺とハヤトは、まの抜けた顔で九条さんの背中を見つめた。

「……あの、九条って人すっげー変わってるな」
「うん、自分でも変わってるって言ってた気がする」

 ハヤトは緊張の糸が切れたように、俺にもたれかかるとぎゅっと抱きしめてくる。

「レン、帰ろっか」
「……うん」

 抱きしめられた腕に触れ、俺は小さく頷いた。
 部屋をある程度片付け、着替えを済ませる。
 そして、いつもの癖で首輪を首につけるとピリッとうなじが痛んだ。

「あ、着けなくて……いいのか」
「そうだな」

 嬉しそうなハヤトに笑いかけ、視線を首輪にうつす。
 色褪せた首輪は、やっと自分の役目が終わったと言いたげに俺の手の中でくたりと伸びた。

 それから二人でアパートに戻り、おばさんに帰ってきたことを伝える。
 おばさんは涙を浮かべながら俺を抱きしめ、そして俺の首にある番の証を見て目をまん丸くした。
 ハヤトが隣で「オレと番になったんだ」と、軽く話すとおばさんの涙は止まり、さらに目を大きく見開き「えぇっ!?」と大声をあげる。
 おばさんにこれまでの経緯を簡単に話せば、俺の番がハヤトだということに喜んだり、ハヤトがアルファだと知って驚いたり、こんなバカ息子が番でいいのかと不安がったりと大忙しだった。
 でも、最後には俺たちが番ったことを祝ってくれ共に喜んでくれた。



 ハヤトと番になり首輪のない生活にようやく慣れた頃。
 仕事を終え家に帰り着くと、制服姿のハヤトが緊張した顔で正座して待っていた。

「ただいま……。って、どうしたんだ?そんなにかしこまって」
「あーっと……レン、ちょっとこっち来て」
「う、うん」

 言われるがままにハヤトの前にいき、俺も正座する。
 ハヤトは何度か深呼吸をすると、後ろに隠していた何かを俺の前に出す。
 ハヤトの手のひらにすっぽりとおさまった真っ白な箱。その箱が開かれると、銀色の指輪があらわれる。
 口を半開きにしたまま、指輪とハヤトの顔を交互に見ると、緊張した面持ちのハヤトが口を開く。

「ずっとレンのことだけを愛すと誓います。だから、俺と結婚して下さい」

 緊張しながらも、真っ直ぐに俺を見つめプロポーズをしてくれるハヤト。
 結婚なんてまだ未来のことで、これからゆっくりと二人で考えていくのかなと思っていたのに、ハヤトはいつも俺に驚きと幸せをくれる。
 嬉しくてヘヘッと笑うと同時に自然と涙が溢れる。ポロポロと溢れる涙を、ハヤトが優しく拭ってくれる。
 
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 
 俺の答えにハヤトは照れくさそうに笑い、指輪を左手にはめてくれる。
 涙のせいか銀色の指輪はキラキラと眩く光る。
 ハヤトがくれた二つの証は、俺の心をいつまでもいつまでも温かく包み込み永遠の幸せをくれた。



                おしまい



ーーーー

最後まで読んでいただきありがとうございました!
沢山の方に読んでいただき、とても嬉しいです!
ハヤト視点のお話を番外編で書けたらなと、ちょっと思ったりもしています。
もし、更新した際はお暇な時にでも読みに来ていただけたら嬉しいです☆
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