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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
かくれんぼ ②
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「…………百! もういいか~い? って、シャルル兄様はもう近くにはいないよね~」
兄さんと初めてやる「かくれんぼ」にリエンは楽しそうに笑みを浮かべる。
約束の日没まで、あと数十分といったところか……。
真っ赤な夕日を見つめながら、兄さんが隠れそうな場所をリエンと探していく。
「ねぇ、ジェイド兄様。シャルル兄様を見つけたら次は何して遊びたい?」
「……特にない。私は、兄さんを手元に置いておけるなら、あとはどうでもいい」
「ふ~ん。じゃあ、シャルル兄様を独り占めして遊んじゃうよ?」
「好きにしろ」
「わ~い! やった~。ふふ、兄様と何して遊ぼうかなぁ」
何が嬉しいのか、リエンは浮かれた様子を見せる。
そんな、リエンを横目に私たちは兄さんが隠れているであろう場所へと向かう。
屋敷の東側にある人通りの少ない通路を歩き、奥へ進んでいけばリエンの表情が少し曇る。
「うわぁ……すっごく懐かしい。懐かしすぎて、ここに来ると、気分が落ちちゃうから嫌なんだよねぇ」
「お前にとっては、思い出したくない過去の一つだからな」
「でも……大好きなシャルル兄様に会えると思えば我慢できるよ……」
ガチャ……と、部屋の扉を開ければカビ臭い香りがする。乱雑に置かれた物置部屋の窓から差し込む茜色は徐々に暗くなっていく。
リエンは迷う事なく物置部屋の奥へと向かい、そっと壁に触れる。
「シャルル兄様……ここにいるんでしょ?」
そう言って、リエンが声をかけ隠し戸を開くと小さな影がビクリと動く。
私とリエンが中を覗き込めば、可愛らしい水色の瞳が恐怖で震えていた。
「兄様、みーつけた」
「な、なんで! なんで、お前たちがここを知っているんだ!」
「さぁ、なんででしょうか。シャルル兄さんのことを考えていたら、ここにたどり着きました」
「ふふ。勝負は僕たちの勝ちでいいですよね、兄様?」
「あ……、そ、それは……」
「貴族たるもの自身の発言には責任を持っていただかないと。ねぇ、兄さん。これからは、私たちと仲良く遊んで下さいね」
「うわぁ~、これからシャルル兄様と沢山仲良くできるなんて……僕、凄く嬉しいなぁ」
薄暗くなった部屋の中、小さくうずくまった兄さんを私とリエンに見下ろす。
シャルル兄さんは、悪魔でも見たかのように私たちを見つめ、表情は青ざめていた。
「さぁ、兄さん。夕食の時間ですよ。一緒に行きましょう」
手を差し伸べれば、少し間をあけて兄さんは私の手を取る。震える指先に思わず口元が綻ぶ。
「あ、ジェイド兄様、いいなぁ~。シャルル兄様、僕とも手を繋いで?」
リエンも手を差し出すと、兄さんは躊躇いながらも手を取る。
まさか、三人仲良く手を繋ぐ日がくるなど思いもせず私とリエンは、くつくつと喉を鳴らす。
そんな私たちを気味悪がったシャルル兄さんは表情を固くする。
手を繋いだまま食堂へ向かえば、すれ違う使用人たちは私たちを見て目を丸くする。そして、先に食堂にきていた父と母も驚いた顔を見せ、すぐに微笑みかけてくる。
「ハハ、三人仲良く夕食を食べに来たのか?」
「まぁ、手を繋いで……。シャルルさん、ジェイドとリエンと遊んで下さったんですか?」
母の言葉にシャルル兄さんは表情を険しくするが、ぎゅっと私が手を握り締めればビクリと体を震わせる。
「母上、今日はシャルル兄さんとかくれんぼして遊んだんですよ」
「兄様、隠れるのがとっても上手で探すのが大変だったんだよ~。楽しかったね、兄様?」
私とリエンが微笑み覗き込めば、シャルル兄さんは小さく頷く。
父と母は私たちが仲良くなったことに喜び、私たちも兄さんと新たな関係を築けたことに喜びを覚える。
こうして、私たちは『新しい家族』としての一歩を踏み出した。
兄さんと初めてやる「かくれんぼ」にリエンは楽しそうに笑みを浮かべる。
約束の日没まで、あと数十分といったところか……。
真っ赤な夕日を見つめながら、兄さんが隠れそうな場所をリエンと探していく。
「ねぇ、ジェイド兄様。シャルル兄様を見つけたら次は何して遊びたい?」
「……特にない。私は、兄さんを手元に置いておけるなら、あとはどうでもいい」
「ふ~ん。じゃあ、シャルル兄様を独り占めして遊んじゃうよ?」
「好きにしろ」
「わ~い! やった~。ふふ、兄様と何して遊ぼうかなぁ」
何が嬉しいのか、リエンは浮かれた様子を見せる。
そんな、リエンを横目に私たちは兄さんが隠れているであろう場所へと向かう。
屋敷の東側にある人通りの少ない通路を歩き、奥へ進んでいけばリエンの表情が少し曇る。
「うわぁ……すっごく懐かしい。懐かしすぎて、ここに来ると、気分が落ちちゃうから嫌なんだよねぇ」
「お前にとっては、思い出したくない過去の一つだからな」
「でも……大好きなシャルル兄様に会えると思えば我慢できるよ……」
ガチャ……と、部屋の扉を開ければカビ臭い香りがする。乱雑に置かれた物置部屋の窓から差し込む茜色は徐々に暗くなっていく。
リエンは迷う事なく物置部屋の奥へと向かい、そっと壁に触れる。
「シャルル兄様……ここにいるんでしょ?」
そう言って、リエンが声をかけ隠し戸を開くと小さな影がビクリと動く。
私とリエンが中を覗き込めば、可愛らしい水色の瞳が恐怖で震えていた。
「兄様、みーつけた」
「な、なんで! なんで、お前たちがここを知っているんだ!」
「さぁ、なんででしょうか。シャルル兄さんのことを考えていたら、ここにたどり着きました」
「ふふ。勝負は僕たちの勝ちでいいですよね、兄様?」
「あ……、そ、それは……」
「貴族たるもの自身の発言には責任を持っていただかないと。ねぇ、兄さん。これからは、私たちと仲良く遊んで下さいね」
「うわぁ~、これからシャルル兄様と沢山仲良くできるなんて……僕、凄く嬉しいなぁ」
薄暗くなった部屋の中、小さくうずくまった兄さんを私とリエンに見下ろす。
シャルル兄さんは、悪魔でも見たかのように私たちを見つめ、表情は青ざめていた。
「さぁ、兄さん。夕食の時間ですよ。一緒に行きましょう」
手を差し伸べれば、少し間をあけて兄さんは私の手を取る。震える指先に思わず口元が綻ぶ。
「あ、ジェイド兄様、いいなぁ~。シャルル兄様、僕とも手を繋いで?」
リエンも手を差し出すと、兄さんは躊躇いながらも手を取る。
まさか、三人仲良く手を繋ぐ日がくるなど思いもせず私とリエンは、くつくつと喉を鳴らす。
そんな私たちを気味悪がったシャルル兄さんは表情を固くする。
手を繋いだまま食堂へ向かえば、すれ違う使用人たちは私たちを見て目を丸くする。そして、先に食堂にきていた父と母も驚いた顔を見せ、すぐに微笑みかけてくる。
「ハハ、三人仲良く夕食を食べに来たのか?」
「まぁ、手を繋いで……。シャルルさん、ジェイドとリエンと遊んで下さったんですか?」
母の言葉にシャルル兄さんは表情を険しくするが、ぎゅっと私が手を握り締めればビクリと体を震わせる。
「母上、今日はシャルル兄さんとかくれんぼして遊んだんですよ」
「兄様、隠れるのがとっても上手で探すのが大変だったんだよ~。楽しかったね、兄様?」
私とリエンが微笑み覗き込めば、シャルル兄さんは小さく頷く。
父と母は私たちが仲良くなったことに喜び、私たちも兄さんと新たな関係を築けたことに喜びを覚える。
こうして、私たちは『新しい家族』としての一歩を踏み出した。
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