【完結】 禍の子

赤牙

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27話 Sideジン

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 それから数時間が経ち、部屋の中で二人で過ごしていると部屋のドアが開きゲイル様がやってくる。
 その表情は、いつもよりも険しいものだった。

「ジン、エクラ。移動するからついてきなさい」
「え? どうしたのですかゲイル様?」
「……理由はあとで話す。それよりも時間がないんだ。早く」
「は、はい」

 手を引かれ、俺とエクラ様は教会の地下道を歩いていく。
 ゲイル様の焦りが握りしめられた指先から伝わり、何かよくない事が起きていると感じた。
 隠し扉のついた小部屋へエクラ様とともに入れられると、ゲイル様に頭を撫でられキスされる。

「ジン。エクラと共にこの部屋の中で待っておいておくれ。この部屋には私が結界魔法をかけておくから」
「ゲイル様……何かあったんですか?」
「大丈夫だ、少し厄介な者たちがやってきただけだ。……ジン、もしも結界が解けてもすぐに出てきてはいけない。二日経ってから出てきなさい」
「……はい」
 

 扉が閉じられる直前、ゲイル様は以前の様な穏やかな笑顔を見せてくれた。
 思わず声をかけようとしたが、バタンと扉が閉じられ結界が張られる。
 なんだか不安になり、俺はすぐにエクラ様の隣に座り込む。
 エクラ様は「どうしたんだ?」と、言いたげに俺の名を呼ぶ。

「……ゲイル様は大丈夫でしょうか」

 ポツリとエクラ様にそんな質問を呟いてしまう。
 エクラ様は黙ったまま俺の頬を舐める。

———心配するなって言いたいのかな……

 優しいエクラ様に不安は少し和らぐ。
 だが、扉を閉める前に見せたゲイル様の微笑みが脳裏から離れることはなかった……。



 それから半日ほど時間が経っただろうか。
 ゲイル様が張った結界が消えた。
 
「……ゲイル様?」

 もしかしたらゲイル様が戻ってきたのかもしれないと思い、扉の向こうに声をかける。
 しかし、返事は返ってこない。
 結界が消える理由は、術者が解除した場合や術者よりも力の強いものが術を打ち消せば消すことができる。
 ……あとは、術者が死んだ時も、だ。

 扉に手をかけようとすると、エクラ様が大きめの声で俺の名を呼ぶ。
 ビクリと体を震わせ、ゲイル様がおっしゃっていた言葉を思い出す。

「……結界が消えても二日は出てきてはいけない……でしたね」

 扉から離れ、俺はベッドへと顔を埋める。
 なんだか嫌な感じがして、鼓動が速くなる。

「ゲイル様……。早く戻ってきて下さい……」

 しかし、俺の願いは叶わず、結界が解除されてから二日が経ってしまう。
 意を決して、俺とエクラ様はゲイル様を探しに向かった。
 暗い暗い階段を登っていき、隠し扉を開く。
 俺が過ごしていた部屋の前を通りがかると、扉が開いていてゲイル様がいるかもと思い中を覗き込む。

「ゲイルさ……ま、え……?」

 部屋の中は荒らされ、まるで盗人が入ったあとのようだった。
 嫌な予感がして、俺はゲイル様を探し続ける。
 ゲイル様の書斎や部屋も同じように荒らされていて……鼓動はどんどんと速くなる。

———早く、早くゲイル様を見つけないと。

 そう願いながら、礼拝堂へと辿り着き……その光景に息を呑む。
 机や椅子は薙ぎ倒され、壁や床は破壊され焼け焦げたあとが。
 そして、血生臭い香りが礼拝堂に充満し、床や壁には剣を突き立てられ息絶えた魔物たちがいた。
 悲惨な光景に足を震わせながら俺はゲイル様を探し続ける。

「ゲイル様……ゲイル様……」

 魔物の死体を避けながら、広い礼拝堂を探し続けていき……祭壇の近くでゲイル様が倒れているのを見つけた。
 だが、倒れていた……というのは少し嘘が入る。
 本当は天井が崩れ落ちたのか、上半身は瓦礫に埋まっていて下半身だけが見えていた。

「ゲイル様ッッ!」

 声を上げ、必死になってかぶさった瓦礫をどけていく。
 一人では持ち上げることも困難な重い瓦礫に気持ちだけが焦る。
 ゲイル様の生死はわからない。
 でも、生きている可能性はある。
 助けなきゃ……助け出さなきゃ……

 上半身を覆いかぶさっていた瓦礫をなんとか横にずらすと、体が見えてくる。
 真っ白なローブは土で薄汚れ……そして、真っ赤に染まっていた。

「うそ……うそだ。そんな……」

 ゲイル様の体に触れるが、体はピクリとも動かず温かみはない。
 心臓は壊れてしまいそうなくらいに鼓動を速くする。
 そして、顔にかぶさっていた瓦礫をどけ……一瞬鼓動が止まる。
……そこには、あるはずのものがなかった。

「……な、に……これ……」

 ゲイル様の首はなく、あるのはドス黒い血溜まりだけ。
 腰が抜けてヘタリと座り込む。
 息がうまく吸えずに、横隔膜が痙攣する。
 
「いや、だ……うそ、いや……ぃゃ……」 

 呼吸はどんどん荒くなり、目の前が霞む。
 もう何がどうなっているのか訳がわからなかった。
 ただ、目の前にある事実は……ゲイル様が生きてはいないということだけだった。
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