【完結】 禍の子

赤牙

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23話 Sideジン

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「ジンをよろしく頼むよ、エクラ」
「はい、ゲイル兄さん」 

 ゲイル様はそう言うと、無理して笑顔を作り俺たちに手を振ってくれる。結界が張り巡らされた部屋の扉が閉まると寂しさがつのる。
 ゲイル様が大きな呪いを封じ込め、結界の中で過ごす時はエクラ様のそばで過ごすことになっている。
 それは、俺を守るためにゲイル様が提案したことだ。ゲイル様がいない時に、俺に何かあってはいけないと……。
 自分の存在がゲイル様の足枷になっているのを歯痒く感じるが、うじうじしていたってどうしようもない。
 ゲイル様が帰ってきた時に、疲れを癒やしてあげて、もっと頑張らないと……。
 そう考えながら、エクラ様の部屋に到着するとぎゅっと俺の体はエクラ様の腕に包み込まれる。
 甘く優しい香りが鼻をくすぐり、俺は頬を真っ赤にした。

「あ、エクラ様……」
「久しぶりのジンの匂いだ……」

 背後から感じるエクラ様の温もりに胸の鼓動が早くなる。
 二ヶ月前、エクラ様は俺のことが好きだと伝えてくれた。
 最初は何かの冗談かと思ったが、緊張した面持ちで俺に愛の言葉を伝えてくれるエクラ様にそんな考えは吹き飛んだ。
 エクラ様は、俺の初恋の人だ。
 出会った時から、その眩さに心は囚われていた。
 エクラ様はこの国の光であり希望だ。
 そんな人が俺なんかを……。
 ダメだと分かっていても気持ちが抑え切れずに、今度は俺の方からエクラ様に愛の言葉を囁いた。
 
 それから俺たちは誰にも気付かれぬようにこっそり恋人としての関係を過ごした。
 一緒にいられる時間は少なく、人目を気にせずにいられるのはゲイル様が呪いを封じ込めているこの時間だ。
 苦しんでいるゲイル様のことを心配しながら、エクラ様と過ごせる時間に胸をときめかせるなんて……俺は本当に最低だ。

 エクラ様は、俺を抱きしめ首筋にキスをくれる。
 くすぐったい感触にピクリと体を震わせると、クスッと笑われる。

「ジンは可愛いね」
「俺なんか可愛くないですよ……」
「そんなことないよ。真っ黒な髪や瞳も、誰よりも頑張り屋さんで優しいところも全部がジンの可愛いところだよ」

 エクラ様はそう言って俺と向かい合わせになると、頬に手を添え顔を近づけてくる。
 綺麗な天使のようなエクラ様の顔。琥珀色の瞳に見つめられると、心臓は激しく鼓動を早くする。
 そして、エクラ様の唇が重なり、互いに貪り合うようにキスをした。

『大人になったら永遠の愛を誓わせて』

 エクラ様の言葉通り、十八を迎え成人の儀を終えた俺たちは初めて体を繋げた。
 初めての交接に俺は痛みと幸せでぐちゃぐちゃになった。涙を流しながら、何度もエクラ様に『愛しています』と伝えれば『僕も愛してる』と返してくれる。
 大好きなエクラ様と過ごす幸せな時間。
 この時間がもっと……永遠に続けばいいと心の中でこっそりと願った。

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