【完結】 禍の子

赤牙

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10話

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 それから、ジンを教育しながら過ごす日々が始まる。言葉は話せるが、文字は全く分からないジンに読み書きを教えながら、生活に困らない必要最低限のマナーを教え込む。
 そして、教皇様とエクラによる浄化魔法を受け、ジンが本当に呪いでないのか確かめられる。
 教皇様が浄化しにくる時は、私もジンも普段よりも緊張した。教皇様は、エクラとは違いジンを呪いから生まれた魔物だと思っているようだった。
 
 教皇様がジンに対して向ける視線は冷ややかで……私が養子になった時のことを思い出す。
 幼い時は、教皇様から向けられるこの視線から逃げたくてしょうがなかった。ジンもその時の私と同じような感覚になっているのか、普段よりも元気がない。そんなジンに対して教皇様は冷たい言葉を放つ。

「……どうしたジン。顔色が悪いが、浄化魔法が辛いのか?」
「いえ……違います」

 ふるふると首をふるジンを見て、教皇様は浄化魔法をさらに強くする。まるで消えてもらいたいかのように光に包まれるジン……。

———このままジンは本当に消えてしまうのではないだろうか。

 その光景にふと不安が襲う。
 ジンを包んでいた眩い光が弱くなっていくと……そこにはジンの姿が残っていた。
 教皇様はジンを見つめ「今日はこれで終わりだ」と、いい部屋を出ていった。
 教皇様の姿が見えなくなると、ジンは大きく息を吐く。

「ジン、大丈夫か? ……実は浄化魔法が辛いのか?」
「いえ、そうではありません。教皇様が与えてくれる浄化魔法は温かなものでした」
「では、どうしてそんなに顔色を悪くする」
「……俺、大人を見ると緊張してしまうんです。今までもいっぱいヘマしたり、バカなことやっちゃって……。毎日、村長や村の大人たちから怒られてたから、また怒られちゃうんだって考えると体がすくんでしまうんです」

 申し訳なさそうに話すジン。
 その気持ちは……痛いほどに分かった。

「……私も同じだ」
「えっ……?」
「怒られれば誰でも緊張してしまう。だが、相手が怒るのは自分に期待しているからだ。そう考えれば少しは気持ちが前向きになる」

 昔、自分に言い聞かせた言葉をジンに伝える。
 ジンは目を瞬かせるたあと、ニコリと満面の笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、ゲイル様。ゲイル様のお言葉のおかげで元気がでました!」
「……そうか」

 私の言葉一つで笑顔を見せるジン。
 昔の自分は、エクラにそんな言葉をかけられても笑顔なんて見せることはできなかった。
 それどころか劣等感を強くし……エクラのことを……

「ゲイル様……?」

 黙り込む私にジンが心配そうに覗き込んでくる。

「すまない。さぁ、今日も勉強を始めよう」
「はい!」

 久しぶりに渦巻いた仄暗い感情。
 知られてはいけない感情は、心の奥底へと隠した。
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