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5話
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国王が去った後、私の腕の中で眠る少年をどうするかで教皇様と司祭で数時間に渡る話し合いが行われた。
その間、私は教会の結界の中から出る事を許されず、呪いから生まれた少年とエクラと共に結論が出るのを待った。エクラは結界の外側からじっと私達の様子を伺っている。
「ゲイル兄さん。その子は生きてるの?」
「息もしているし、体も温かいから生きていると思う」
「僕達とよく似てるけど、人間なのかな? それとも、違う生き物なのかな?」
「どうだろう。見た目は人間だけどな……」
腕の中で深い眠りにつく少年は小さな寝息をたてている。
不揃いに切られた黒髪……痩せこけた頬……。もしも、呪いによって現れた悪魔的な何かであれば、こんな容姿をしているだろうか?
少年を見つめていると、閉ざされていた扉が開き教皇様を先頭に司祭達も入ってくる。そして、祓い師の姿もあった。
教皇様はこちらに視線を向けると、祓い師に声をかける。
「あそこにいる少年が例の呪いだ」
「ほぅ、あれが国王の呪いから産まれた子ですか。……しかし、呪い特有のオーラもなく、私にはただの人にしか見えませんね。まぁ、厄災といわれるレベルなので、私たちの常識では考えられない力も持っているかもしれないので……不安要素はすぐにでも排除すべきかと」
祓い師の言葉に教皇様は眉をひそめる。
「エクラ。私が席をはずしている間、ゲイルと呪いに何か変わったことはなかったか?」
「特に何もありませんでした」
「そうか……。そうなると、ソレの処分をどうするべきか……」
……処分。
教皇様の口から出た『処分』という言葉。それは、この子の『死』を意味する。
私の腕の中で眠る少年が死んでしまうと考えると……ゾッとした。
周りにいた教皇様を含める大人達が少年の処分方法について話し合っていると、エクラが口を開く。
「父様。僕があの子に浄化魔法をかけてもいいでしょうか?」
「……何を言っているんだエクラ」
「あの子が災いをもたらす呪いならば、浄化魔法に反応を見せると思います。もし……呪いでもないただの子どもを処分するのであれば、それは教会の教えに背くことになると思うのですが」
エクラは真っ直ぐに教皇様を見つめる。
エクラの言葉はもっともだ。この少年が、本当に呪いそのものならば浄化魔法になんらかの反応を示すはずだ。
エクラの言葉に教皇様は小さくため息を吐き、結界の一部を解除する。
「そうまで言うのならば証明してきなさい」
「はい、父様」
エクラは私たちのいる結界内に入ると、笑顔を向けこちらにやってくる。
「ゲイル兄さん、その子の顔を見せてくれる?」
「あぁ……」
抱きかかえていた少年をエクラに見せやすいように見せる。エクラは少年の顔を見て微笑むと、手のひらをかざし浄化を始める。
煌めく白銀のオーラが少年と私を包み込む。エクラの浄化魔法は今や国一番だ。エクラで払うことのできない呪いならば、本当にこの国を滅ぼしてしまうかもしれないな……。
そんな事を考えながら少年を見つめる。少年は浄化魔法をかけられても、顔色一つ変えずに深い眠りについたままだった。
そして、数十分にわたる浄化魔法が終わると、エクラは少年をまじまじと見つめ教皇様の方を振り返る。
「父様、やはりこの少年は呪いではありません」
「……ならば、お前はソレをなんと考える」
「そうですね……。僕にはこの少年がただの人に感じます」
エクラの答えに教皇様は渋い顔をして、私へと視線を向ける。
「ゲイルはどう考える」
「……この少年は……人、だと思います」
歯切れの悪い私の答えに、教皇様の眉間のシワは濃くなる。司祭や教皇様たちが話し合った結果は、国王の命に準ずることとなる。
つまり、私がこの少年を面倒みることとなったのだ。
その間、私は教会の結界の中から出る事を許されず、呪いから生まれた少年とエクラと共に結論が出るのを待った。エクラは結界の外側からじっと私達の様子を伺っている。
「ゲイル兄さん。その子は生きてるの?」
「息もしているし、体も温かいから生きていると思う」
「僕達とよく似てるけど、人間なのかな? それとも、違う生き物なのかな?」
「どうだろう。見た目は人間だけどな……」
腕の中で深い眠りにつく少年は小さな寝息をたてている。
不揃いに切られた黒髪……痩せこけた頬……。もしも、呪いによって現れた悪魔的な何かであれば、こんな容姿をしているだろうか?
少年を見つめていると、閉ざされていた扉が開き教皇様を先頭に司祭達も入ってくる。そして、祓い師の姿もあった。
教皇様はこちらに視線を向けると、祓い師に声をかける。
「あそこにいる少年が例の呪いだ」
「ほぅ、あれが国王の呪いから産まれた子ですか。……しかし、呪い特有のオーラもなく、私にはただの人にしか見えませんね。まぁ、厄災といわれるレベルなので、私たちの常識では考えられない力も持っているかもしれないので……不安要素はすぐにでも排除すべきかと」
祓い師の言葉に教皇様は眉をひそめる。
「エクラ。私が席をはずしている間、ゲイルと呪いに何か変わったことはなかったか?」
「特に何もありませんでした」
「そうか……。そうなると、ソレの処分をどうするべきか……」
……処分。
教皇様の口から出た『処分』という言葉。それは、この子の『死』を意味する。
私の腕の中で眠る少年が死んでしまうと考えると……ゾッとした。
周りにいた教皇様を含める大人達が少年の処分方法について話し合っていると、エクラが口を開く。
「父様。僕があの子に浄化魔法をかけてもいいでしょうか?」
「……何を言っているんだエクラ」
「あの子が災いをもたらす呪いならば、浄化魔法に反応を見せると思います。もし……呪いでもないただの子どもを処分するのであれば、それは教会の教えに背くことになると思うのですが」
エクラは真っ直ぐに教皇様を見つめる。
エクラの言葉はもっともだ。この少年が、本当に呪いそのものならば浄化魔法になんらかの反応を示すはずだ。
エクラの言葉に教皇様は小さくため息を吐き、結界の一部を解除する。
「そうまで言うのならば証明してきなさい」
「はい、父様」
エクラは私たちのいる結界内に入ると、笑顔を向けこちらにやってくる。
「ゲイル兄さん、その子の顔を見せてくれる?」
「あぁ……」
抱きかかえていた少年をエクラに見せやすいように見せる。エクラは少年の顔を見て微笑むと、手のひらをかざし浄化を始める。
煌めく白銀のオーラが少年と私を包み込む。エクラの浄化魔法は今や国一番だ。エクラで払うことのできない呪いならば、本当にこの国を滅ぼしてしまうかもしれないな……。
そんな事を考えながら少年を見つめる。少年は浄化魔法をかけられても、顔色一つ変えずに深い眠りについたままだった。
そして、数十分にわたる浄化魔法が終わると、エクラは少年をまじまじと見つめ教皇様の方を振り返る。
「父様、やはりこの少年は呪いではありません」
「……ならば、お前はソレをなんと考える」
「そうですね……。僕にはこの少年がただの人に感じます」
エクラの答えに教皇様は渋い顔をして、私へと視線を向ける。
「ゲイルはどう考える」
「……この少年は……人、だと思います」
歯切れの悪い私の答えに、教皇様の眉間のシワは濃くなる。司祭や教皇様たちが話し合った結果は、国王の命に準ずることとなる。
つまり、私がこの少年を面倒みることとなったのだ。
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