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第七章
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しおりを挟む”太陽を掴む鷲”が野営の準備をする。
薪を拾うのはキャルルとブランカ、二人で競争しながら集める。
ダルタスが斧を器用に使って辺り一面の草を刈る。
地面が見えていないと、何が潜んでいるか分からない。
リューリアが食事の準備と、ミュスレアはそれを手伝いながら周囲に目を配る。
アドラーとマレフィカは、魔法の結界を張る。
「どうする?」
結界の強度や種類についてマレフィカが聞いた。
「広めに取ろうか。五十歩内に侵入されたら分かるくらい。それと焚き火の灯りは空へ逃がそう」
あと一日か二日の距離で、大軍同士が睨み合っているとビガードから聞いた。
用心してし過ぎることはない。
「にゃー!?」
「きゃー!」
突如、バスティとリューリアの悲鳴があがった。
アドラーは隣に立つマレフィカを抱えあげ、全力強化で走る。
「あら団長ったら、そんな強引な。私は何時でも準備出来てるのに」
誰かに運ばれる事の多い、体力不足の魔女は慣れたもの。
三十歩の距離を二秒で飛んだ戻ったアドラーが見たのは、大きな蛇と向き合う黒猫と次女だった。
「へび」
「や、やめなさい!」
リューリアが涙目でブランカに怒鳴る。
「へびがへび食ってる」
「ふぎゃー!」
蛇の口の中を見せられたバスティが全力で威嚇する。
「こら」と、ようやくミュスレアが竜の子を叱る。
ブランカが、捕まえた獲物を皆に披露していただけだった。
「あーあ、ボクは止めたんだよ? やめとけって」
キャルルが言い訳がましくいった。
「だんちょー、見てみて。へび! で、口を開くとへび!」
アドラーにも三メートルほどの大蛇を見せつける。
捕まった蛇の口からは、他の蛇の尻尾が垂れていた。
「おお!? キングスネークじゃないか、珍しい。口から出てる尻尾はクサリヘビの一種だな。食ってる方に毒はないが、食われてる方は猛毒だ」
「へー、蛇って蛇を食べるの?」
不思議そうにキャルルが聞く。
「そりゃもちろん、むしろ主食だ。何と言っても、蛇の胃にぴったり収まるからな」
アドラーとブランカは笑ったが、女性陣は笑わない。
「ブランカ!」
少しきつめにミュスレアが声を出した。
「あい?」
「遠くへ捨ててらっしゃい。うちでは蛇は食べません!」
「貴重なタンパク源なのに……」
アドラーは若干惜しいと思ったが、ミュスレアに睨まれて黙った。
冷静になれば、腹を割ると別の毒蛇が出てくる蛇は食べる気がしない。
偉大な祖竜の末裔であるブランカは、団長と長女に言われたら素直に従う。
リューリアとダルタスの言うこともだいたい聞く。
マレフィカは実験しようとするので苦手、バスティは遊び相手で、キャルルは群れの一番下。
「キャルル、捨ててきて?」
群れの序列に沿って面倒を渡そうとした。
「ブランカ、自分で放してきなさい」
「はーい」
アドラーに言われて、ようやく近くの茂みに放り投げた。
「あんな近くで大丈夫かしら?」
ミュスレアが心配そうに聞く。
「満腹だから平気だよ。しばらく動かないし、逆にあの大蛇の臭いで毒蛇は逃げ出す」
アドラーには、それより気になる事があった。
ドラゴンのブランカは、時々普通の生き物に対して残酷になる。
蟻の行列を潰したりはしないが、短い命に頓着しない。
「けど、ああ見えてドラゴンだしなあ……」
アドラーも迷う。
もし噂を聞きつけた冒険者が、無謀にも成長したブランカを狩りにやって来たなら、遠慮なく消滅させるのが竜という存在。
人に慣れて優しくなると、ブランカの方が危ないかも知れない。
「竜は怖い存在だと、今の内に見せつけることが出来ればな。けどお前、まだ竜体になれないんだよね?」
「うん、無理だね!」
にこっと笑ったブランカが、蛇の鱗でべとべとの手をアドラーの服で拭く。
「こいつっ……!」
アドラーが怒る前にブランカは逃げ出した。
焚き火の側に腰を降ろし、夕ご飯が出来るのを待つ。
竜の子は、まだまだ成長期だった。
食後、アドラーはみんなに聞いた。
「さて、これからなんだけど……どうしよう?」
「時間を稼げば良いのではないか? 幸いにも、軍勢同士がぶつかる」
ダルタスは至って冷静沈着な意見で、理由も手堅い。
アドラーは、イグアサウリオに持って来た魔弾杖と製造法、改良すべき点、省くべき点などを書いて託した。
「武器商人は気がすすまぬが、仕方ない。良き役に立つことを祈るか」
イグアサウリオは、神妙な顔で受け取った。
兵器の改良から手作りでの量産、早ければ五年もすれば「我々も同じ武器を持っている! でかい顔をするな!」と言えるようになるだろう。
「男同士、戦いたいっていうなら放っておきなさいよ」
ミュスレアはもっと冷たい。
ミケドニア軍もサイアミーズ軍も、戦争を生業にした職業軍人だらけ。
やる気に満ち溢れ、やめろと言って止まるものでもない。
「ま、決着が付くまで待つのは私も賛成だ」と、マレフィカ。
アドラーは皆の意見をまとめる。
「二つ同時には相手に出来ない。話し合うにも一つが楽だものなあ。二蛇共食の計か……」
「兄ちゃん、なにそれ?」
聞き慣れない単語にキャルルが聞く。
「これはアドラクティア大陸に伝わる故事でね、蛇が二匹戦ってたら、決着が付くまで待つ。片方を飲み込んだ蛇はお腹が膨れて動けないから、簡単に捕まる。争いは手を出さずに見守れって意味だよ」
「さっきのへび!」
ブランカが大声で反応した。
「そういうこと。ひとまずは様子を見に行くか。ただし、バルハルトは話が通じる。いざとなればそっちを味方するかな?」
アドラーの言葉に、六人と一匹は頷く。
最善の状態は、バルハルトが苦戦していて、アドラーの助力でひっくり返して恩を売れるが、双方ともに被害甚大でしばらくは休戦である。
無い可能性でもないはずだ、とアドラーは思いながら寝ることにする……。
そして翌日、昼もとっくに過ぎた頃。
アドラー達は、他人の大陸まで来て一大決戦をする迷惑な両大国の姿を見つける。
「こいつら、ここで向き合ってまだ四日とか五日のはずだけど……」
アドラーも呆れるしかない。
両軍合わせて兵士だけで五万人、補給や工事にその他の人員を合わせて八万人以上の人々が、二つに別れて睨み合っている。
どちらも周囲十キロほどもある、重厚な野戦陣地の建設中。
「お前らヒト族は、本当に戦争が好きだにゃ?」
「ほんと、すいません」
肩に飛び乗って来た神様の言葉に、アドラーは謝るしかなかった。
「本気でどうしよう?」
一応心の中でだが、アドラーは大きくため息を付いた……。
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