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第六章

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「えーっと、ここってどの辺りですか?」
「本土の、北西だ」

 アドラーは、村人を質問攻めにしていた。

「本土……アドラクティアと行き来は出来ますか?」
「もうちょっとして春になれば、機会はある」

 アドラーの生まれ故郷は、大陸東岸のヴィエンナ地方。
 かなり遠い。

「大陸の情勢は……聞いていますか?」
 一番気になっていた事を聞いた。

「二年ほど前から落ち着いてるそうだよ。何でも、出てくる魔物の数が急激に減ったとか」

 アドラーは、強く拳を握って突き上げる。
 敵――昆虫型の魔物――の本拠地で補給線を吹き飛ばした。
 いきなり平和にならなくとも、戦況は好転するはず。

 だが、突然に羽を持つように進化するや、別のゲートが開いて大群がやってくるなど、ありがちな状況をアドラーは心配していた。

 喜ぶアドラーの側に、ブランカとバスティもやって来て、よく分かってないが一緒に喜ぶ。

 その様子を見て、逃げ散っていた村人達も集まってくる。

「ね、猫と踊る男……」
「いや、あの子、竜神様じゃね?」

 見ていたリザード族がブランカを見ていった。

 こちらの大陸は、種族が混ざり合って生きている。
 人族はもちろん、ゴブリンやコボルトにリザード族、各種族の混血、獣耳を持つ者と多種多様。

 遠巻きにしていた村人が、アドラーに尋ねた。

「なあ、ここらでどデカイ怪物見なんだか?」
「三つ首の黒いやつですか?」

 村人達がざわめいた。

「そいつだ!」
「ど、何処さ行った?」

「二日ほど前に、退治しました」

 村人達は、驚いた表情で見つめ合い、肩の荷が降りたとばかりに笑いあった。

「よ、良かったー!」
「死なずにすんだ!」
「し、死骸はあるかね!?」
「兄さん、そんな強いのか?」

 今度は、アドラーが質問攻めにされる。

 収拾がつかなくなり、村長にも聞かせたいとせがまれ、アドラーは一時間ほどの距離にある村へ行くことにした。

 道すがら、お互いに色々と話を聞いた。

「二ヶ月ほど前かな、三つ首の化物が現れてな。島に住むタタンカを襲い始めてな」

 タタンカとは、毛の長い野牛のこと。
 この島の住人の貴重なタンパク質だが、暴れ狂うフェンリルにはとても手出し出来ない。

 ここしばらく姿を見なくなったので、意を決して様子を見に出たらアドラー達を見つけたとのこと。

「うーん、こっちは何処まで話すかなあ……」
 アドラーは迷った。

 全て伝えても良いが、信じてくれるかが問題。
 悩むアドラーの前に、ブランカが周り込んで来た。

「だんちょー。あいつ、あたしのお尻ばかり見るんだ」
「な、なんだと!?」

 ブランカが指さしたのは、一人のリザード族。
 うちの子をそんな目で見るなど許せんと、アドラーは激怒しかけた。

「ちが、違うんだ! その尻尾、俺たちの種族のものではない! ひょっとして、伝説の竜族かなって!」

 慌てたリザード族が言い訳した。

「ほう、分かるのか?」
「神話に出てくる、白き竜そっくりだ」

 アドラーの問いに、リザードは素直に答えた。

 ブランカは途端に嬉しそうになった。
 なにしろ、初めて初見で竜族だと分かってもらえたのだから。

 自らの力を示すように、ブランカが高く跳ねた。
 垂直に二十メートルは飛び、白い髪に陽光が反射して煌めく。

「はえー、やっぱりあんた方が倒してくれたのかね。三つ首の魔物は」
 村人達は、牧歌的で素直だった。

 彼らが手に持っているのは、鋤や鍬といった普通の農具。
 着いた村の様子を見ても、魔法の補助を受けた道具など見当たらない。

 魔法技術を元に進歩した南の大陸と、ようやく平和の糸口が見えこれからの北の大陸。

 この二つが万が一にもぶつかれば、どうなるかは明らか。

「人口と軍事技術に差がありすぎる……」
 アドラーの懸念は、現実のものになりかけていた。


 村長は、アドラーの話を丁寧に聞いて、アドラーは包み隠さずに喋った。
 村にあった大陸の地図については、アドラーの方が詳しかった。

「種族連合ヴィエンナ方面軍の特殊遊撃隊。そこの隊長でした。この辺りにあった敵集団が湧き出る塔を破壊して、見知らぬ土地へ飛ばされました」

 アドラーの話は荒唐無稽でも、行動は全て事実。
 淀みのない説明に、村長達も信じざるを得ない。

 巨大な大陸の北西にこの島。
 アドラーは大陸東岸の生まれで、中央に向けて戦った。

 村長が尋ねた。
「それで、船が来るまで村におられますかな? もちろん歓迎しますぞ」

 有り難い申し出だったが、アドラーは断る。

「いえ……ここは、私の故郷には遠い。大陸の横断は避けたいので。それに、まだイベントの最中なんです」

「い、いべんと?」
 村長達は、何のことやらといった顔になる。

 みんなの所へ戻ると決めたアドラーは、何通かの手紙を書いた。

「届くか分かりませんが、これを船に託して貰えますか? これでお願いします」

 アドラーは、手持ちの金貨を取り出して渡す。

「み、見たことがない金貨ですな。それに質も恐ろしく良い……」
 村長達は、アドラーの話を確信した。

「重要な事が書いてあります。それと、私が帰った後、あの魔法陣は隠して下さい。壊したら駄目ですよ、何処に飛ばされるか分かりません」

 アドラーは自分の経験を参考にしてアドバイスした。


「戻っていいのかにゃ?」とバスティが聞いた。

「だって、対抗戦の最中に団長が消えたら困るだろ?」
 アドラーは半分本気で答えた。

「みんなと、お別れもないなんて嫌だ!」
 ブランカも賛同した。

「うちは嬉しいけどにゃ」

「今は、帰れると分かっただけでいいよ。この遺跡は、グラーフ山の何処かにある。また見つけても良いし、別の遺跡を探しても良い。出来れば、アドラクティア大陸の東へ繋がるとこが良いなあ」

 アドラーは、自分が消えてしまうことで、南の大陸の人々が転移装置に気づくのを恐れた。

 二つの大陸は、もっと準備を整えて平和的に出会うべきなのだ。
 突然の出会いは、不幸を呼ぶ可能性が高い。

 戻ってきたアドラーは、転移装置のある遺跡へ続く通路を崩落させた。
 そして、グラーフ山の大迷宮へと戻る。

 大穴から顔を出すと、リューリアの歌声が聞こえる。
 どうやら怪我人が出たようで、歌に乗せて治癒魔法を広めていた。

「おう、遅かったな」と、冒険者の一人が声をかけた。

 もう五時間ほど経ったが、みんな穴の前で頑張っていた。

「先程、大群がやってきてな。入れ食いだぜぇ?」
 冒険者が楽しそうに教えてくれる。

「よし、ブランカ。俺らもいこうか」

 アドラーは全隊を見回す。

 ミュスレアは、魔物が一番分厚いところで暴れている。
 キャルルも姉の隣にいて、マレフィカは後ろから援護。

 ダルタスは、ハーモニアの横で戦おうとして追い払われる所だった。

「なんだ、余裕あるな。ちょっとひと暴れしますかね」
 アドラーとブランカが参戦し、魔物は急激に数を減らす。

 ”太陽を掴む鷲”は、かなりのハイペースで稼ぎ続けたが、同じ場所で三十人が戦い続けた”偉大なる調和”団の方が、少しだけポイントが多かった。

「くっそー、負けたか」
「悪いな、あたしらの勝ちだ!」
 ハーモニアは意気揚々。

 対抗戦の三日目を終えて、アドラー達は1勝2敗。
 しかし総合ポイントでは、遂に60位とシード圏内に食い込んだ。

 本戦はあと二日。
 この二日で次回のシード権が取れるかが決まる。

 それと、アドラーは報告書を一つ書いた。
 運営本部に出すもので、繋がっていた遺跡の詳細だが、適当に誤魔化す。

「バレるはずがない」と、アドラーは思っていた。
 だが、アドラーの行動に特別な注目を払う人物がいた。

 この報告書を呼び水に、対抗戦の最終日はとんでもないことになるのだ。
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