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第二章
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しおりを挟む光と闇の時代、炎と氷の時代、竜と巨人が争う力の時代、そして第四期が知恵の時代。
「きっと次はネコの時代だにゃ!」
バスティが大胆な予想をした。
「光の時代の覇者も、代を重ねればこうなるのか……。わたしも気をつけよう」
「どういう意味かにゃ?」
ギルドの新入生と守り猫は上手くやっていけそうだが、アドラーには急用がある。
「ブランカ、飛んでくれないか。一刻を争う」
「はい! アドラー団長!」
先程、団長の呼び方をバスティから習ったブランカが良い返事をする。
アドラーは、ブランカが竜型に変身すると思っていたが、彼女は空を見上げると高音で長く鳴いた。
「準備をしてくるね! 乗って待ってて!」
それだけ言い残すと、ブランカは岩の扉に飛び込んだ。
「準備って、おいおい急いで……何かきたっ!?」
遥か上空から、山にかかる雲海を割って何かが急降下してくる。
予測は付いたアドラーも思わず身構える速さ。
「これも……ドラゴンだにゃあ」
一人と一匹の前に舞い降りたのは、戦闘機ほどの大きさのドラゴン。
長い首に膜を張った翼と、あちこちの伝承でよく見る姿。
「飛行形態の量産型だな、たぶん」
「何を言ってるにゃ?」
アドラーは翼を閉じて首を下げた竜に乗るが、捕まる所がなくていささか不安になる。
「待たせたな!」
ブランカは直ぐに戻ってきた。
今までのブランカは、白い布を体に巻き付けたウェスタの巫女のような格好をしていたが、今は襟付きのシャツにチェック柄のスカート。
そのスカートの裾を、白い尻尾が大きく跳ね上げる……。
「……制服?」
「良くわかったな、流石は団長。わたしが行っていた学校のだ。唯一持ってる人族の服なのだ」
制服があるのは別に良い――軍服やギルド服などもある――が、一つアドラーは気になった。
「それで通ってたの?」
「もちろんそうだが?」
この子が男子にからかわれた理由が、何となく分かった。
『あとで、膝丈のレギンスみたいなものを買ってあげよう』と、アドラーは心に決めた。
一番大事なことも聞く。
「別れは済ませてきた?」
「うん、お婆さまも喜んでた。会うのはこれが最後かもしれないが、思い残すことは無いと言ってくれた」
世にも珍しいドラゴンの巣立ちに立ち会うことになったアドラーは、振り落とされないように量産型の竜にしがみつく。
「心配するな、アドラー団長! 竜は羽ばたかない、さあ飛べっ!」
翼を広げた小型の竜は、上昇気流を生み出して垂直に登る。
そして体を倒すと、一気に加速した。
『翼竜のように風に乗るでも、鳥のように羽を使うでもなくか。自ら風を生み出す……ジェット、いやロケットか。速いわけだ』
初めての乗竜は揺れは少ないが風が強い。
アドラーは、風よけの魔法をこっそり使った。
ブランカは、竜の頭に跨っている。
尻尾を首に巻いてバランスを取り、怖がる様子もない。
団長として、目を閉じてしがみつく訳にはいかなかった。
音を置き去りにするほど速くはないが、プロペラ機並の速さはある。
アドラー達の乗った竜は、素晴らしい速度で南下する。
1時間もせぬうちに、川と街道に挟まれた丘に作られたエルフの村が見えてきた。
だが上空から見る限り人影はなく、家屋は無残な姿だった。
「ナフーヌの姿も見えないね」
きょろきょろと下を見回すブランカが言った。
「ナフーヌ?」
「”やつら”って竜語。敵はだいたいそう呼ぶ」
竜族らしく単純で分かりやすい。
アドラーはこれまで昆虫型モンスターどもを密かにバグズと呼んでいたが、竜語を使うことにした。
ミュスレア達を探す必要があったが、森は広く樹冠は高い。
とても目で見つけられるものではなかった。
「頼むから、気付いて返事をしてくれよ」
アドラーは魔法の道具を取り出した。
以前、ミュスレア一家に渡した連絡用の水晶球。
『近くにいる。無事か。何処にいる?』と書いて送った。
上空を旋回しながら、何度も送る。
だが返事は来ない。
3周5周と旋回する間に、ナフーヌの小集団を幾つか見つける。
この昆虫どもは、個体の知性は感じないが全体としては優秀な軍隊。
斥候役だろうと、アドラーは当たりを付ける。
そして、7週目を数えた時に遂に返事が来た。
「――――生きてる! 西だ! 街道に沿って飛べ!」
アドラーの命令をブランカが伝え、竜は西へ頭を回す。
「あれだ! 下げろ!」
川岸に立つ一本の大樹。
樹高100メートルはあろうかという大木が、数百体のナフーヌに囲まれていた。
ぎりぎりまで速度と高度を落とした竜が、木の端をかすめた時に乗客を一人降ろす。
同時に白刃が煌めき、数体のナフーヌが弾け飛ぶ。
甲虫にも例えられるこのモンスターの外皮は固い。
内部も半液体の繊維が詰まり、打撃にも魔法にも強い。
だが鋭い刃先の圧力を防ぐほどではない、特に操る者が強力な場合は。
「アドラー!?」
樹上から聞き慣れた声が気がしたが、アドラーは視線を向けたりはしない。
左から来た一体の頭をバックラーで叩き潰し、右手には愛用の短剣――片刃で分厚く優れた強化魔法のかかった掘り出し物――で足を斬り落とす。
バランスを崩したナフーヌの背に穴をあけ、腕を突っ込んで胸部にある弱点を潰す。
戦い方も弱点も熟知してる上に、法術魔法と神授魔法の重ねがけ、しかも今回は遠慮なしの最大発動。
アドラーは強かった。
「85、次が86!」
あっという間に四分の一ほどが動かなくなった。
すとん、とアドラーの横にブランカが降りてきた。
「なにしてる?」
「団長を手伝おうと思って」
まだこの子の力は未知数。
「90!」とカウントして、アドラーは強化魔法をブランカにもかける。
やはり……効果は弱い。
ロバや猫には効くからひょっとしてと思っていたのだが。
アドラーは、今のところ唯一の団員に命令を下した――。
「後ろにつけ。背中を守れ、ただし自分を優先しろ!」
「はい!」
これが合図になった。
アドラーの使う全体強化は特殊、普通は競合するか加算されるが、純粋に別枠乗算でかかる強力無比の一品物。
それゆえに、自分意外への発動は隠れた条件があった。
”指揮下に置く”――つまり命令を受けた者にだけ完全な効果を与える。
「おお、なんだこれ!? アドラー、なんか凄いぞ!」
ブランカが近寄ったナヌーフを殴り飛ばす。
6本の足と2本の鋭い鉤爪を持ち、全長は2メートルはあるモンスターが、三回転して動かなくなった。
アドラー級の戦士が二人になった。
無駄な動きもなく的確に片付けるアドラーと、力任せに殴る蹴るのブランカ。
彼女の手足には、竜の爪と鱗があり鉄より固い。
目の端でちらりとブランカを捉えたアドラーは思った。
『流石と言うべきか……戦い方を覚えたら俺より強いのでは?』と。
4ヶ月後のギルド会戦の参加者が一人決まった。
『けど、その前に手加減を教えないとな。相手が可哀想だ』
敵の数は半分になり、アドラーには先の事を考える余裕が出てきた。
※ブランカ
あと5000年ほどすれば彼女に敵う存在はなくなる
頭にあるのは角
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