上 下
14 / 29
第二章

ええい静まれい

しおりを挟む

 旅に出る直前のこと、気になっていた事を聞いた。

「ところで女神さま」
「なーに?」
「歌うと、力が戻るのですか?」
 花が咲くとか病気が治るとか、そうとしか思えない。

「うーん、ちょっと違うかな。ご飯を食べると、少しだけこの世界の力を回収できる。それだけだ」
「あー、それで何時もよく食べてらっしゃると」
 流石は女神さま。

「まあ、食事ってのは楽しいからね」
 屈託のない笑顔で、人の生活も悪くないといった風に女神さまはおっしゃる。

「で、食べた分を歌に乗せて発散してしまうと」
「そうとも言う」
 なんてこったい。

「それじゃあ駄目ですよー! 本格的に力が戻るまで、貯めておいてください! 旅の間、歌は禁止です!」

「ええっー!」
 散々に抗議されたが、駄目なものは駄目。
 少し可哀相だったが、歌うのを禁止させてもらった。

 ま、子ゴブリンの傷を治すのは駄目とは言わなかったからなあ……。


 ここは丘の上に作られたお城の地下。
 俺は一通りの拷問を受けていた。

「あれー。やめてくださいー」
 女神さま、その棒読みは止めてくださいな。

「もう許してあげてくださいー。何でもしますからー」
 そんな、俺は全然平気ですってば。

「お、そうか。むふふ、もう良いぞ。そっちは牢に放り込んでおけ」
 楽しそうに拷問を眺めていた領主とやらは、女神さまを引き連れていってしまう。

 引きずられていく女神さまの声が遠ざかる……。
「お腹が空いたのじゃ」
 これが、最後に聞こえた一言だった。

 地下牢に入れられた俺に、誰か近づいてくる。
 あの子ゴブリンだ。
 一生懸命に俺の体をさすったり汚れを拭いたりと健気なものだ。
「ごめんなさい」と泣いてるが、良かったちゃんと両目から涙が出てる。

「大丈夫だ、ありがとう。さあ助けにいかないとな」
 女神さまがすんなりと捕まるから、何か魂胆があると思ったがあまり自信はない。

 ユニコとティルは上手く逃げたようで、助けにくるとしても、一番下僕が何もしない訳にはいかん。

 鉄格子の根本に、ガツッと爪を食い込ませて岩をがりがり削る。
 拷問されてる時に気が付いた。
 俺の体は高温高圧に耐えるが、自分の拳や爪があたると痛い。

 これで殴れば、絶対壊れないハンマーで殴ったのと同じだろう。
 岩なんてボリボリ砕ける。
 ほれ、一本取れた。

「すげえなお前さん」と、向かいの牢屋から声はかかる。
 見ると、筋骨逞しい大男だ。

「どうも」と、返事だけはする。
 次の一本に取り掛かったところで、男から頼まれた。

「なあ、俺も出してくれねえか?」
 犯罪人を出すつもりはない、俺は女神さまを助けなきゃならんのだ。

「なあなあ、この通りだ。俺はオークのバギャンってんだ。無実だぜ?」

 へえ、大男かと思ったらオークかよ。
 この世界の種族は、見た目が余り変わらないんだなあ。

「どうやって? そっちの牢屋の前でガリガリやると直ぐにバレるだろ」
 優先順位というものがある。

「へっへっへ、奥の看守室に鍵があるんだ。ここは神殿だったんだが、今の領主がその上に城を作りやがった。俺は現場主任だったんだが、終わった途端に秘密を漏らすからとお縄よ」

 困ったなあ、何とかしてやりたいところだが。

「あの、ボクが行ってきます!」
 お、この子ゴブリン、ボクっ娘かよ。
 
 止める間もなく、ゴブリンが小さな隙間から抜け出る。
 待てこら、勝手なことを!
 急いで二本目の鉄棒に取り掛かり、ぐらぐらし始めたとこで、牢屋の鍵がかちゃりと開いた。

 や、やるじゃないか。
 自慢げな子ゴブリンの頭を撫でてやる。

 オークのバギャンも解放してやり、「なるべく大騒ぎにして逃げてくれ」と頼む。
「任せてくれ」と請け負ったバギャンに、もう一つ聞いた。
 領主の部屋って何処だ?

 領主の寝室に向けて俺は走る。
「今行きますからねーご主人様ー!」

 子ゴブリンも付いてくる。
「お姉ちゃんにお礼を言いたい」だと、泣かせる理由だ。

 すれ違う衛兵には、正面から突っ込む。
 剣だろうが槍だろうが、俺には効かない。
 折れた剣を見て驚くその顔に全力でパンチ、何処に当たっても骨が折れるか鎧の歪む一撃だ。

 領主のとこまで迷わず辿りついて、扉を蹴破った。
 そこには、脂ぎった顔で女神さまに迫る豚領主が居た。

「てめえこら! その御方をどなたと心得る!」
 何時か使おうと思っていた台詞を言ったが、様子がおかしい。
 女神さまに飛びつこうとする度に、豚野郎はその場でダイブ、無様に床に落ちる。

「おおゆうた、遅かったな。こやつ、食事中のわたしにべたべた触るので、二度と女に触れぬ呪いをかけてやったとこじゃ」

 うわ、そりゃまた可哀想に。
「けど、よくそんな力ありましたね?」

「救いと違って呪うのは簡単だからな。人でも人を呪うことがあろう? 普段の行いには気をつけないとな」

 身に染みるお言葉をいただいたところで、俺は領主をひっ捕まえて気絶するまでぶん殴った。
 たった二発かよ、呪えるものなら呪ってみやがれ。

「お姉ちゃん、大丈夫?」と子ゴブリンが飛びついたが、早く逃げねば。
 きっとユニコ達が待ってますんで、飛ばせば逃げ切れます。

「まあ待て、地下に案内してくれ」
 お腹いっぱいの女神さまは、何やら確信があるみたいだ。

 逃げ出したオークやゴブリン――城の工事の為に狩られた奴隷たち――が、あちこちで暴れる中、地下牢に逆戻り。
 さらにずいずいと奥へ進む。

「ここか。ゆうた、この壁を壊してくれ」
 仰せのままにと拳でぶち破る。
 更に地下に降りる階段が現れた。

「これ、なんですか?」
「この地に根付いた土地神の住処じゃな。神ってのはよくサボるから、その隙にこんな物を建てられおって、情けない」

 階段を降りた先は、ヒカリゴケが照らし、清い水のあふれる泉の地下空間。
 その壁の一面を蹴りながら、女神さまがいった。

「こりゃ、ちょっと起きぬか。そうだ、わたしだ」
 壁と地面から、巨大な顔が現れぱっと目を開いた。
 もごもごと何やら言い訳をしてたが、女神さまは手を振って黙らせた。

「そうじゃ、われらを運んでくれ。一気に立つなよ、上にはまだまだ生きてる者がいる」
 巨大な手が俺達3人を包み込み、それから大地が揺れた。
 ゆっくりゆっくりと立ち上がる巨人に合わせて、上の城が崩れる。

 領主ご自慢の城もこれで最後だな。
 巨人の指の隙間から、ちらりと下が見えた。

 領主を抱えて逃げる兵士にオークの集団が襲いかかると、兵士は領主を捨てて逃げ出した。
『地上のことは地上のこと』、女神さまが以前言っていたことを思い出す。
 この先の行方は、彼らが決めるのだろう。

 お、ユニコとティルも居る。
 ちゃんと外まで迎えにきてたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...