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第二章

女神の歌

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 まずは、売れそうな物を探そう。
 このままでは、明日の宿代もない。

「これ、売ってもいいですか?」
 サングラス、珍しいから売れるだろう。
「だめ。お気に入り」

「これはどうです?」
 小さなランプ、細工も入ってて売れそうだ。
「だめ。15万年ほど前に、とある世界で奉納されたの」

「では、こちらは?」
 着替えの服一枚、絹ともナイロンとも言えぬ不思議な素材。

「絶対だめ。一張羅なの」
 何処でそんな言葉覚えたんですか。

 下着……は流石に無理。

「こちらは?」
 ヴィルクォムの魔導書、紙は売れる。
「あんたばか?」

「これは?」
 前の世界で手にいれた、麻雀の点棒型の通貨。
 金属だし売れるかも。

「うーん、それならまあいいわ」
「これだけですか!?」
「だって! 不要な物なんて持ってきてないし!」

 本当に参った。
 間違って高値で売れないかなと思ったが、せいぜい1泊と2食分にしかならない。

 エルフのティルは、元々現金をほとんど持ってない。
 森の木の上で寝て、時々獲物を狩れば充分なのだそうだ。
 欲しいものがあれば、毛皮と交換すると言っていた。

 それに引き換えうちの女神さまは……。

「嫌じゃ嫌じゃ、野宿は嫌じゃ。虫が出るし寒いし地面は固いし、誰だこんな世界を作ったのは!」
 
 突っ込む気も起きない。
 黙っていると、ちらっとこちらを見る。

「働きますか?」
 目があった隙に聞いた。

「自分で作った世界で働く創造神なんかありえない……」
 断固拒否の構えを崩さない。

 まあ下僕の俺としても、女神さまを働かせたくはない。
 しかし一人で二人分の旅費を稼ぐとなると、何時までかかるか。

 コンコンと、扉が鳴ってティルがやってきた。
 彼女は、これからどうするのだろう。
 話を聞く限りは一人ぼっちのようで、別のエルフの集落にでも行くのかな。

「あのー、その。廊下まで丸聞こえで……」
「まことに申し訳ございません」
 俺は、地面につく勢いで頭を下げた。

「それでですね、わたしもお手伝いします。ここの宿や昨夜の食事を払っていただいたので……」

 いやいや、それはまずい。
 昨日はあくまで案内してもらったお礼で、彼女を巻き込む訳には……。

「ほんとか! そなたはきっと良い死に方をするぞ!」
 この子は!

「いえいえ、すいません。本当に気にしないでください!」
 慌てて女神さまの口を塞いだ。

 しばらく、俺の指を噛もうとする女神さま、避ける俺の戦いが続く。
 エルフのティルは、その様子を笑って見てから、小さな楽器を取り出した。

「リュートっていう、エルフの楽器です。わたしは歌が余り得意ではないので、”めがみん”が歌ってくれれば……」

 ティルの前では、一応仮名で通してある。
 それにこの街への道中、女神さまは何度か歌った。
 まるで天上から響くような素晴らしい声をお持ちなのだが……。

「そんなことで良いのか?」
 あれ、やる気だ。

「歌は得意だ。一人の時はずっと歌ってたから」
 悲しい理由に、俺も涙を堪えきれない。

「それなら、すいませんがお願いできますか? 俺はユニコと力仕事を探します」
 今の我が家で一番の財産、馬にも働いてもらう事にしよう。

 女神さまの歌は、直ぐに話題になった。
 何でも、聞けば心が晴れ、病が治り、モグラも地中から顔を出し、花が咲き乱れるとの噂だ。

 ユニコは、嫌そうな顔をしながらも、木材や石材の運搬に力を出す。
 俺もその横で人足仕事。

「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
 筋肉痛で転がる俺を踏んで、女神さまが出かける。
 夜の酒場で一曲披露すれば、昼の三倍の稼ぎになるんだとか。

 なんだかんだで、十日程で三人分の旅費が出来た。
「どーだ、見たか? わたしもやれば出来るんだぞ」

 女神さまはご満悦。
 もちろん文句などございません。

 街を出る時は、すんなりとしたものだった。
 酒場に飲みの来る兵士達は、みな酒場のアイドル”めがみん”のファンになっていた。
 名残を惜しみ、あれやこれやと物や情報をくれる。

 俺にも一振りの剣をくれた。
「これでめがみんを守ってね」だとさ。

 ティルは付いてくる。
 何時の間にか、村々の失踪事件を解決するために女神さまが来たと知っていた。
 もう女神さまの正体も分かってる感じで、もちろん本人の口から聞いたのだろう。

「わたしも、故郷で何が起きたか知りたいのです!」とか言ってるし。

 そんなわけで、一行が一人増えた。
 女神さま、俺、ユニコーンにエルフのティル。

「さあ行くぞ!」と、女神さまが号令をかける。
 行き先はこの大陸で最大の都市、大聖都トリプティク。
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