22 / 78
錬金街3
しおりを挟む「あちらにあるものが、錬金具ですか」
ラスが見ている区画は、錬金術師たちが作った錬成具の店が軒を連ねていた。
どこかいかがわしく、そこかしこから蒸気が吹き上がり、薬のような鼻につんとくるものや、何かの金属を熱しているにおいが立ちこめている。
呼び売りをしている人間の数も少なく、だが客の問いかけには熱心に答えている様子がで見られた。
そしてその店先に並んでいるのは、知識のないものにはどう使ったら良いかわからない様々な道具だ。さらに動かない奇械やその部品も商品として並んでいた。錬金具は奇械とも近しいため、こうして隣り合った場所で売られていることも珍しくない。
客は先ほどの日用品を扱う界隈とは違い、探掘屋らしき荒々しげな男や、どこかなまめかしさを感じる女性など堅気らしからぬ空気をまとっている。生活に必要な錬金具はあちら側でも売っているため、専門街に来る人間はある程度後ろ暗い人間が集まりやすいことは否めなかった。
ムジカは密かに気合いを入れつつ、店の一つに目星をつけて入る。
若い娘であるムジカと目深に帽子をかぶったラスが近づいてくると、店主はいぶかしげな顔をしたものの、特に声をかけてこない。
探掘は十代の少年でもやる仕事だ。そもそも錬金具を扱う人間たちにはものを買ってくれる人間に何も言わない。ともかく話しかけられないのは助かった、とムジカは物色していく。
「閃光弾は投げてみないとわからないからな……」
「うちのは全部、腕が確かな錬金術師から仕入れてるよ」
独り言を拾ったらしい店主の言葉を無視したムジカが目の前の閃光弾を見比べていれば、傍らにたたずんでいたラスが口を開いた。
「ムジカ、その錬金具は98パーセントの確率で錬金陣が不発に終わります」
「は?」
ムジカが弾かれたように見上げれば、ラスは淡々と錬金具を指さしながら続けていく。
「そちらは内蔵されているエーテル結晶不足で、錬金陣から想定される威力の30パーセント程度の威力しかありません」
「うちの商品にけちをつけるとはいい度胸じゃないか、営業妨害だぞ!」
さすがに黙っていられなかったらしい店主が立ち上がってつかみかかってこようとしたが、ラスはその手を逆にとって締め上げる。
「敵対行為と判断します。ムジカ排除の許可を」
「排除されるのはてめえだポンコツ! 争いごとを自分から起こしてどうする!?」
ムジカががんっと腰のあたりを殴れば、ラスは錬金具屋の店主を放したが小首をかしげた。
「俺はムジカの『良質な錬金具を購入する』という行為を補助できませんでしたか」
「できなくはなかったが言い方、やり方ってもんがある。こんな風に真っ向からやるのは最悪だ!」
「申し訳ありませんでした、学習します」
無表情に言うラスに、反省の色が見えるのかよくわからなかったムジカは頭痛を覚えた。
行動力と思考能力があるだけ、赤ん坊よりたちが悪い気がする。
「おい、ガキどもこの落とし前どうつけてくれるんだ!」
ラスに拘束を解かれた店主が、今度はムジカにかみついてくる。
わめく声をムジカは無視して、ちらりと銀髪の青年人形を見上げた。
「なあ、ラス、さっき言ったことは本当だな」
「はい」
「やはり女は馬鹿ばかりだな! 家を出るとろくなことがない!」
それだけ確認したムジカは、ポケットから閃光弾一個分のコインを取り出すと、店主へと弾いた。
店主がコインを手玉にとっている間に、ラスが指摘した閃光弾を手に取ったムジカは安全装置となるレバーを押し込む。
この雑踏の中で安全装置を外したムジカに店主が目をむく中、ムジカはその閃光弾を無造作に転がした。
足を止めてことの成り行きを見ていた野次馬たちはとっさに顔をかばったが、強烈な光はいつまでも来ない。
呆然とする店主にムジカは内心の動揺を押さえ込み、にやりと口角を上げて見せた。
「なあおっさん、この閃光弾ちゃんと使えるんだったよな。驚かせたわびにその金はいらねえよ。じゃあな」
そこまで言い切ったムジカは、ラスの手をつかんで雑踏の中へと消えた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
全ての悩みを解決した先に
夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」
成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、
新しい形の自分探しストーリー。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる