5 / 16
4話
しおりを挟む
ああ、とうとう捕まってしまった。
がっくりと項垂れる俺に、
「ちょっとあなた、薬飲んでないの?」
と非難めいた声がかけられた。恐る恐る見上げると、先程の素晴しいフォームだったスーツ姿の女性が輪から一人近付いてくる。俺を拘束していたサラリーマンと彼女がアイコンタクトをすると、サラリーマンが俺の手を離した。もう逃げられないから大丈夫だろうと合意でもしたんだろう。女性が俺にずいと近寄る。表情もまとめた髪もキリリとした30代くらいの綺麗なお姉さんだ。息を切らし上下の肩が揺れている。
「あ、はい。薬落としちゃって・・・」
と答えた瞬間、周りから
「まじかー」
「やっぱりだ。おかしいと思ったんだよ、身体が勝手に引き寄せられるっておいうかさあ」
「そうそう、気づいたらここにいたの」
「彼しか見えないって言うかさあ」
と非難の嵐が巻き起こった。
発情期(ヒート)状態のアルファのフェロモンにあてられると、決まった番《つがい》を持っていない者全て__アルファ、ベータ、オメガ__は自分の意志に関係なく強制的にそのアルファに惹きつけられる。定年後のヒマ人ならまだしも、20から30代の働き盛りの皆さんは当然平日のこんな昼間は仕事や学業やらでお忙しいわけで。実際スーツ姿の人もちらほらいるし。彼らは俺に一歩詰め寄りながら非難の声をやめない。
「困るんだよね。今忙しいんだよ」
「ちょっとお昼を買いに出ただけだったのに」
「得意先回りがまだ途中で」
「ポチ(シェパード。今は大人しく飼い主の横に座っている)の散歩中なんだよね」
「これから合コンが」
「デートが!」
なんかもう、本当にすいません。ただ最後の奴は相手ととっとと番《つがい》になってくれ。
しかしこちらに100パーセント非があるのは確かなので、俺は選挙活動中の政治家のように周囲の人達に向かって 360度周りながら低姿勢ですみませんとぺこぺこ頭を下げ続けた。
「君、飲み忘れ初めて?」
謝っている途中で先程のOLが声をかけてきた。心なしか口調が柔らかくなっている。
「は、はい」
「・・・高校生だし許してあげるわよ、今回だけね。次からは気を付けてよ。こっちは極端な話、葬儀に出かける途中でもフェロモンには抗えないんだから」
「す、すみません!」
げえ。まじか。
「じゃ、分からないだろうからこれからの事教えてあげるわ。聞いたことあるでしょ?'公開見合い’。あれ、これからするから。あなたが番《つがい》にふさわしいか皆選ぶのは真剣だから、質問にはまじめに答えてね」
「は、はい」
アルファの先輩達や病院の先生が言っていた'あんな目’、精神がエグられる行為その名も「公開見合い」。ついにそれを経験するのかとおののきながら、俺は先程から気になっていた事を聞いた。
がっくりと項垂れる俺に、
「ちょっとあなた、薬飲んでないの?」
と非難めいた声がかけられた。恐る恐る見上げると、先程の素晴しいフォームだったスーツ姿の女性が輪から一人近付いてくる。俺を拘束していたサラリーマンと彼女がアイコンタクトをすると、サラリーマンが俺の手を離した。もう逃げられないから大丈夫だろうと合意でもしたんだろう。女性が俺にずいと近寄る。表情もまとめた髪もキリリとした30代くらいの綺麗なお姉さんだ。息を切らし上下の肩が揺れている。
「あ、はい。薬落としちゃって・・・」
と答えた瞬間、周りから
「まじかー」
「やっぱりだ。おかしいと思ったんだよ、身体が勝手に引き寄せられるっておいうかさあ」
「そうそう、気づいたらここにいたの」
「彼しか見えないって言うかさあ」
と非難の嵐が巻き起こった。
発情期(ヒート)状態のアルファのフェロモンにあてられると、決まった番《つがい》を持っていない者全て__アルファ、ベータ、オメガ__は自分の意志に関係なく強制的にそのアルファに惹きつけられる。定年後のヒマ人ならまだしも、20から30代の働き盛りの皆さんは当然平日のこんな昼間は仕事や学業やらでお忙しいわけで。実際スーツ姿の人もちらほらいるし。彼らは俺に一歩詰め寄りながら非難の声をやめない。
「困るんだよね。今忙しいんだよ」
「ちょっとお昼を買いに出ただけだったのに」
「得意先回りがまだ途中で」
「ポチ(シェパード。今は大人しく飼い主の横に座っている)の散歩中なんだよね」
「これから合コンが」
「デートが!」
なんかもう、本当にすいません。ただ最後の奴は相手ととっとと番《つがい》になってくれ。
しかしこちらに100パーセント非があるのは確かなので、俺は選挙活動中の政治家のように周囲の人達に向かって 360度周りながら低姿勢ですみませんとぺこぺこ頭を下げ続けた。
「君、飲み忘れ初めて?」
謝っている途中で先程のOLが声をかけてきた。心なしか口調が柔らかくなっている。
「は、はい」
「・・・高校生だし許してあげるわよ、今回だけね。次からは気を付けてよ。こっちは極端な話、葬儀に出かける途中でもフェロモンには抗えないんだから」
「す、すみません!」
げえ。まじか。
「じゃ、分からないだろうからこれからの事教えてあげるわ。聞いたことあるでしょ?'公開見合い’。あれ、これからするから。あなたが番《つがい》にふさわしいか皆選ぶのは真剣だから、質問にはまじめに答えてね」
「は、はい」
アルファの先輩達や病院の先生が言っていた'あんな目’、精神がエグられる行為その名も「公開見合い」。ついにそれを経験するのかとおののきながら、俺は先程から気になっていた事を聞いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん
古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。
落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。
辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。
ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。
カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる