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1話

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 鈴木__オメガバース日本国出身、トーキョー在住の17歳の男子高校生、種別はアルファ__は、手洗い場の排水口をしばしの間呆然と眺めていた。

__ここで鈴木の5分前の出来事にさかのぼる。

 やっぱり何か飲み物を買っておけば良かった。
 俺は昼食をとった後、教室を出て少し離れた所にある手洗い場へ向かっていた。抑制剤を飲むためだ。
 いつも昼食は教室で友人達と取っているが、さすがに皆の目の前で薬を飲むのは「これを飲まないと発情するんですよ」と堂々と公開しているようで抵抗がある。要は恥ずかしい。
 いつもなら昼食後に、授業が始まる直前ギリギリを狙って皆に見られないうちに自席でささっと飲んでしまうのだが、今日は肝心のペットボトル飲料を忘れてしまっていた。仕方がないので廊下にある手洗い場の水で飲んでしまおうと教室から少し離れた場所へと足早に向かう。
 蛇口をひねり、横目で一瞬廊下にいる生徒がこちらを見ていない事を確認してから、ブレザーのポケットから錠剤を取り出す。ぱきっとパッケージを親指で押し破った。
「よっ、鈴木!」
 突然、クラスメイトの一人(声からしておそらく山田)が通りすがりがてらいきなり背中をパアンとはたいてきた。
「わっ」
 驚きと叩かれた衝撃で思わず洗い場に落とした薬をあわてて手ですくおうとするも、無情にも薬は一瞬で排水口に吸い込まれていった。

__ここで現在に立ち戻る。

 しばし呆然としていた俺は、次の瞬間体中からどっと汗が噴き出した。

 しまったぁあああああ!抑制剤がぁぁああああ!!

 え、どうした?大丈夫か?と背後にいるクラスメイト(たぶん山田)の焦る声が遠くから聞こえる。

 うそだろ。余分の薬の持ち合わせはしていない。
 そんな、まさかこんな他のオメガバース国でさんざん書かれて食傷気味お腹いっぱい作家はネタ切れなの主人公は馬鹿なの的なアクシデントが自分に降りかかるなんて思うはずがないじゃないか。

 どうする。薬って飲まなかったらいつからフェロモンがだだもれし始めるんだ?しかも俺、今発情期(ヒート)だよな?え、もしかしてこれってやばいやつなんじゃないの。俺絶賛大ピンチ?
 何時間後何分後まさか何秒か後に__。

「なあ、お前、顔色やばくねぇ?」






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