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 さくらと寝る時は、さくらが欲しくて、彼女の全てを独り占めしたくて、俺は焦ってしまうのだと思う。

 彼女にも俺だけを見て欲しくて、そうしていつも後悔する。
 さくらはいつも俺を静かに受け入れてくれる。そしてただ、それだけだ。

「シャワー空いたよ」

 俺はベッドに戻ると、そっとさくらに声をかけた。ええ、と彼女は低い声で答えると、ゆるりとベッドを出て行く。彼女の細い裸を見ながら、俺は小さくため息をつく。

 俺はただ、ひとつになりたいだけなのに。

 さくらは、いつもふたつでいる事の違いを確認しているようで。
 自信がなくなるのだ。

 良かったか、なんて陳腐な事は聞けないし、大丈夫か、なんて聞いたら、それはどちらにとっての質問なのか俺は自信がなくなる。

 だから終わってからはいつも、俺はただ黙々とシャワーを浴び、無言でベッドに入って眠る事しかできない。

 さくらはベッドから微笑んで言う。
 いつでも。
 清潔な笑顔で。

「私は大丈夫よ、大丈夫」

 こんな時の彼女は世界の全てを見透かしているように見え、俺はただ、どうしていいのか分からなくなる。

 いつも冷静なさくらは、男と寝るのは好きではないのではないか、と思うことがある。
 ピルをしっかり飲んでいるのも、分かっていても何かあてつけのように見えてしまう。

 一度聞いてみた事がある。

「さくら、何で飲むの? 俺ちゃんとつけてるよ」
「責任だからよ」
 事も無げに言う。

 責任。
 誰への? 俺への? 自分への?
 それとも未だ見ぬ__

「俺の子供、そんなに欲しくない? 」
 冗談で言ったつもりだったのに、何故だか傷ついた気分になった。

 さくらは俺をまじまじと見た。
「俺達の子供、でしょ。__想像できない物は嫌なの。何でもね」

 そう言われて想像してみた。

 少し歳を取った自分と、さくらが並んで歩いている。真ん中には可愛い女の子。俺とさくらの子だもん、絶対可愛い。三人、手をつないで笑顔で横一列に並んでいる。

 何故だろう。
 一人一人はしっかり想像できるのに、三人一緒になると、何か、しっくりこない。さくらが母親だなんて。

 ふと視線に気付いて顔を挙げ、彼女に向かって首を横に振って見せた。

 さくらは、
「でしょう」
と何だか勝ち誇ったように微笑んだ。

 気が付くとさくらがシャワーから戻って来ていた。パジャマをしっかり着込み、寒い寒い、と言いながら俺の隣に潜り込む。

「・・・さくら」
「うん? 」
 彼女は瞳を閉じたまま答える。

「・・・俺と寝るの嫌い? 」
 さくらは静かに瞳を開き、もぞもぞと体ごと動いて横になり、俺の方を向いた。
「本当に嫌なら断ってるわよ、最初から」
 彼女は当然と言う顔をした。
「でも、いつも誘うのは俺からだし」
「曜がしたいと思う時に、私も同じ気持ちなだけ。それだけよ」
 そうして彼女は、大丈夫よ、と微笑み、俺は絶望的に悲しくなった。 

 聖司はこんなに打ちのめされているのだろうか。

 大体あいつはさくらと寝たりするのだろうか。
 淡白そうに見えるけれど、実際の所全く想像がつかない。男同士でよくやる、女性経験を話す時もそうだった。

 聖司に聞こうとしても、困ったように笑うだけで、何も要領を得ない。
 その時の彼は巨大な壁になる。高くて厚い、まっさらな壁。

 だから聞き出そうとしても無駄だった。
 今でもそうだ。

 いつも優しいあいつが壁になった。

 だから余計彼が、

 怖いのだ。
 
 俺は布団をかぶり、さくらに背を向けた。背中に感じる彼女の存在が、なんだか遠い気がした。

 一度裸になると心まで弱くなるのか。

 さくらがこんな事で俺と聖司を比べてるとは思えない。
 けれど、ただ、

 俺だけを見て欲しいんだ。

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