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十突き目 男と女
蓮実 そのニ 歌う
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「ねえねえ、一城たん、一曲いっちゃって」
「は?」
「ほらぁ、オハコがあったでしょ?」
「そんなものねえよ」
「あ、そんなこと言っちゃっていいんですか?一城たん。泉が泣いちゃうよ~」
「オハコって、それかよ。あれは、男が歌うもんじゃねえんだよ」
「あ、だったら、私、歌っちゃおうかな?泉」
「ええ?」
「まさたん、カラオケスタンバって」
言うとフラつく足取りでステージに向かう蓮実。
段差で危うく、転ぶのではないかと、ヒヤヒヤの一城。
「しっかり、聞いとけよ。一城」
マイクを片手に、一城を指差す蓮実。
曲が流れ始め、歌い出す蓮実。
不思議と歌い出すと、酔いを感じさせないしっかりした口調で詩を語り始める蓮実。
上手かった。一城は、鳥肌が立っていた。
詩の一言一言が、蓮実の言葉に聞こえてきた。
胸が苦しくなるのを感じている一城は、愛おしささえ、感じていた。
曲が終わると、一城の元に来る蓮実はもたれ掛かるように、一城にすがりついてくる。
それを、しっかりと受け止める一城。
酒が回って、目を閉じている蓮実。
何年ぶりだろうか、蓮実を肌で感じるのは
変わらない髪の香りが、一城を過去へと誘う。
長椅子で、横になる蓮実が目を覚ます。
「あれ?」
「ほら」
一城がそばにいて、冷えた水を差し出す。
「あ、ありがとう」
グラスを受け取る蓮実は、チビリと口に含む。
「あ、美味しい」
「ただの水道水だよ」
「こんなに美味しかったっけ?」
「ミネラルウォーターばっか飲んでるから、忘れちまったか?」
「一城?」
「ん?」
「今日は、ありがとう」
「なんだよ、改まって」
「なんでもない。そろそろ、帰るわ」
立ち上がろうとするが、足が思うように動かない蓮実。完全に腰が抜けている。
抱き止める一城。
抱き止められる蓮実。
二人の顔が近い。
ほんのりと赤みを帯びる二人の頬。
「送ってくよ」
その言葉に慌てて、離れようとする蓮実は、ガッシリと、抱きしめられて動けない。
「無理すんな」
一城の真面目な表情にドキリとする蓮実。
諦めた蓮実は、起点を利かす。
「だったら、抱っこして?」
「ば、バカか、そんなこと出来るかよ」
離れようとする一城は、しっかりと抱きしめられて蓮実から離れられない。
「じゃあ、おんぶ」
「はあ?」
むふふんの顔をする蓮実。
「しゃ、しゃあねえなぁ。ほれ」
蓮実に背中を向ける一城。
蓮実の目の前に、広くガッシリとした背中があった。
自然と顔を埋める蓮実。
「は、蓮実?」
「ん?」
「ちゃんと、背中、乗れ」
「あ、うん」
腕を一城に回すと背中にしがみつく蓮実。
一城は、蓮実の太ももを抱えると立ち上がった。
「きゃあ」
背の高い一城に背負われて、視点が一気に上昇する蓮実は少女のような声をあげる。
「じゃあな、まさる。このまま、帰るぞ」
「蓮実ちゃん、襲われないようにね」
「は~い」
手を振る蓮実。
「るせえな、襲わねえし」
一城は、舌打ちすると扉を開けて店を出る。
闇の中に、ネオンの光が眩しい。
「蓮実?」
「ん?」
「寒くねえか?」
「え、あ、うん、大丈夫」
熱が伝わってくる一城の背中に、体を沈めてくる蓮実。
「暖かいよ」
「お、そうか、なら平気だな」
蓮実を背負ったまま歩く一城は、蓮実を背負い直すとやや前屈みになると、手を離して内ポケットに手を伸ばす。
「あ、待って一城。私、やる」
「あ、うん」
一城は、蓮実の太ももを抱え直す。
蓮実は、一城の内ポケットに手を差し入れる。
弄る手が、一城の胸を撫でていく。
「あったよ」
回した腕を一城の頭の後ろに持ってくるとタバコを一本取り出して、口に咥える蓮実。
咥えたタバコに火をつける蓮実は、空吹かしをすると指にタバコを挟み一城の前に差し出す。
「お、さんきゅ」
咥えタバコで、プカプカする一城。
煙の匂いに目を細める蓮実。
「銘柄、変わってないんだね」
「ん?ああ、他のは吸う気にならねえからな」
「そうなんだ」
「蓮実も変わらねえな」
「ん?」
「相変わらず、まな板な胸してんのな」
ゴンと頭を殴る蓮実。
「いて、いてえな。本当のこと言って何が悪い」
「ふんだ。どうせ、哲美には、敵いませんよぉだ」
「な、なんで、そこで哲美が出てくんだよ」
「だって、あの頃はいつも一緒だったじゃない」
「ま、まあな、あいつとは、喧嘩仲間だからな」
「それだけ?」
「え?」
「あのさ」
「なんだよ」
「哲美のこと、好き?」
「す、す、好きとか、そんなんじゃなねえよ」
急に振られて動揺を隠せない一城。
「だったら、何なの?」
「だ、だから、お前、それはだな・・・」
「下ろして」
「は?」
「いいから、下ろして」
蓮実を背中から下ろす一城。
蓮実は、地に足を着けるとまだ不安定な足がふらついている。
「お、おい、大丈夫かよ」
「いいの、一人で帰れるから」
「は?送っていくって」
「もういいよ。平気」
一城の支えを解く蓮実。
膝が折れて、地に座り込む蓮実。
「ほら見ろ。無理すんなって」
蓮実の前に周り、しゃがみ込む一城は、崩した正座をする蓮実のスカートから伸びる太ももの奥に白い布が目に付く。
「あ、いや、無理すんなって」
蓮実が不意に一城に抱きつき、唇を重ねてくる。
「ちょ」
柔らかな唇に溶けていく一城。
唇を離す蓮実。
「あ、ごめん、私、どうかしてるね」
ゆっくりと一城の、肩を突き放す蓮実は、顔に垂れた前髪を直そうと指でたぐる。
どこかに飛んで行ってしまいそうな不安を感じた一城は、蓮実を抱きしめていた。
「か、一城?」
「何も言うなよ。蓮実」
「わかった」
顔を一城の胸に埋める蓮実。
壊れ物にでも触れるように蓮実の髪を撫でる一城。
「は?」
「ほらぁ、オハコがあったでしょ?」
「そんなものねえよ」
「あ、そんなこと言っちゃっていいんですか?一城たん。泉が泣いちゃうよ~」
「オハコって、それかよ。あれは、男が歌うもんじゃねえんだよ」
「あ、だったら、私、歌っちゃおうかな?泉」
「ええ?」
「まさたん、カラオケスタンバって」
言うとフラつく足取りでステージに向かう蓮実。
段差で危うく、転ぶのではないかと、ヒヤヒヤの一城。
「しっかり、聞いとけよ。一城」
マイクを片手に、一城を指差す蓮実。
曲が流れ始め、歌い出す蓮実。
不思議と歌い出すと、酔いを感じさせないしっかりした口調で詩を語り始める蓮実。
上手かった。一城は、鳥肌が立っていた。
詩の一言一言が、蓮実の言葉に聞こえてきた。
胸が苦しくなるのを感じている一城は、愛おしささえ、感じていた。
曲が終わると、一城の元に来る蓮実はもたれ掛かるように、一城にすがりついてくる。
それを、しっかりと受け止める一城。
酒が回って、目を閉じている蓮実。
何年ぶりだろうか、蓮実を肌で感じるのは
変わらない髪の香りが、一城を過去へと誘う。
長椅子で、横になる蓮実が目を覚ます。
「あれ?」
「ほら」
一城がそばにいて、冷えた水を差し出す。
「あ、ありがとう」
グラスを受け取る蓮実は、チビリと口に含む。
「あ、美味しい」
「ただの水道水だよ」
「こんなに美味しかったっけ?」
「ミネラルウォーターばっか飲んでるから、忘れちまったか?」
「一城?」
「ん?」
「今日は、ありがとう」
「なんだよ、改まって」
「なんでもない。そろそろ、帰るわ」
立ち上がろうとするが、足が思うように動かない蓮実。完全に腰が抜けている。
抱き止める一城。
抱き止められる蓮実。
二人の顔が近い。
ほんのりと赤みを帯びる二人の頬。
「送ってくよ」
その言葉に慌てて、離れようとする蓮実は、ガッシリと、抱きしめられて動けない。
「無理すんな」
一城の真面目な表情にドキリとする蓮実。
諦めた蓮実は、起点を利かす。
「だったら、抱っこして?」
「ば、バカか、そんなこと出来るかよ」
離れようとする一城は、しっかりと抱きしめられて蓮実から離れられない。
「じゃあ、おんぶ」
「はあ?」
むふふんの顔をする蓮実。
「しゃ、しゃあねえなぁ。ほれ」
蓮実に背中を向ける一城。
蓮実の目の前に、広くガッシリとした背中があった。
自然と顔を埋める蓮実。
「は、蓮実?」
「ん?」
「ちゃんと、背中、乗れ」
「あ、うん」
腕を一城に回すと背中にしがみつく蓮実。
一城は、蓮実の太ももを抱えると立ち上がった。
「きゃあ」
背の高い一城に背負われて、視点が一気に上昇する蓮実は少女のような声をあげる。
「じゃあな、まさる。このまま、帰るぞ」
「蓮実ちゃん、襲われないようにね」
「は~い」
手を振る蓮実。
「るせえな、襲わねえし」
一城は、舌打ちすると扉を開けて店を出る。
闇の中に、ネオンの光が眩しい。
「蓮実?」
「ん?」
「寒くねえか?」
「え、あ、うん、大丈夫」
熱が伝わってくる一城の背中に、体を沈めてくる蓮実。
「暖かいよ」
「お、そうか、なら平気だな」
蓮実を背負ったまま歩く一城は、蓮実を背負い直すとやや前屈みになると、手を離して内ポケットに手を伸ばす。
「あ、待って一城。私、やる」
「あ、うん」
一城は、蓮実の太ももを抱え直す。
蓮実は、一城の内ポケットに手を差し入れる。
弄る手が、一城の胸を撫でていく。
「あったよ」
回した腕を一城の頭の後ろに持ってくるとタバコを一本取り出して、口に咥える蓮実。
咥えたタバコに火をつける蓮実は、空吹かしをすると指にタバコを挟み一城の前に差し出す。
「お、さんきゅ」
咥えタバコで、プカプカする一城。
煙の匂いに目を細める蓮実。
「銘柄、変わってないんだね」
「ん?ああ、他のは吸う気にならねえからな」
「そうなんだ」
「蓮実も変わらねえな」
「ん?」
「相変わらず、まな板な胸してんのな」
ゴンと頭を殴る蓮実。
「いて、いてえな。本当のこと言って何が悪い」
「ふんだ。どうせ、哲美には、敵いませんよぉだ」
「な、なんで、そこで哲美が出てくんだよ」
「だって、あの頃はいつも一緒だったじゃない」
「ま、まあな、あいつとは、喧嘩仲間だからな」
「それだけ?」
「え?」
「あのさ」
「なんだよ」
「哲美のこと、好き?」
「す、す、好きとか、そんなんじゃなねえよ」
急に振られて動揺を隠せない一城。
「だったら、何なの?」
「だ、だから、お前、それはだな・・・」
「下ろして」
「は?」
「いいから、下ろして」
蓮実を背中から下ろす一城。
蓮実は、地に足を着けるとまだ不安定な足がふらついている。
「お、おい、大丈夫かよ」
「いいの、一人で帰れるから」
「は?送っていくって」
「もういいよ。平気」
一城の支えを解く蓮実。
膝が折れて、地に座り込む蓮実。
「ほら見ろ。無理すんなって」
蓮実の前に周り、しゃがみ込む一城は、崩した正座をする蓮実のスカートから伸びる太ももの奥に白い布が目に付く。
「あ、いや、無理すんなって」
蓮実が不意に一城に抱きつき、唇を重ねてくる。
「ちょ」
柔らかな唇に溶けていく一城。
唇を離す蓮実。
「あ、ごめん、私、どうかしてるね」
ゆっくりと一城の、肩を突き放す蓮実は、顔に垂れた前髪を直そうと指でたぐる。
どこかに飛んで行ってしまいそうな不安を感じた一城は、蓮実を抱きしめていた。
「か、一城?」
「何も言うなよ。蓮実」
「わかった」
顔を一城の胸に埋める蓮実。
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